第41話 予感

「カノンの能力の発動条件って何だろう?直接向き合わなければいけないのか、声だけ聴ければいいのか……」

「いや、どうだろうな、何しろ実質4回しか使っていない。ただ、声だけじゃ駄目な気がする。声だけなら、この前の区民ホールの全員が聞いてるはずだ」

「なら、顔と声が必要として……もしかして画面越し、しかも録画でも良ければさ……」

「録画って、オイまさか!」

「そうYouTubeに投稿するんだ!」

 我ながらナイスアイデアだと思ったけど、チエが呆れたように言う。

「YouTubeは、いいんだけどさ〜、カメラに向かって『因果応報』ってやるの?そんな動画誰が見るかね」

「そりゃあ、何か工夫しないとさ……え~と、一発ギャグの合間にやるとか、辛いもの食べながらやるとか……」

「オイオイ、いくらリルの頼みだからって全世界に恥を晒すのは勘弁して欲しいぜ」

 カノンからNGが出る。まあ、そうだよね。「大量ワサビ入りの寿司を食べながら因果応報言ってみた!」とか、身内としては面白いけど。


 ふと見るとミッケがケースからギターを出している。

「おおーい、どうした?弾いちゃ駄目だし、歌う場面じゃないでしょ!」

「いやあ、YouTubeといえば、やっぱり歌じゃないかな?ちょっと因果応報の曲でも作ってみたらどうかなと思って、いや、弾かないよ?コード確かめるだけだから」

 歌か――いいかもしれない。けど因果応報の歌?一番の問題はミッケが作るという事だな。

「オーイ!ミッケの作った歌をオレが歌うって事か?いつもみたいな歌詞なんだろ?無い無い、絶対無いからな!そもそもオレはYouTubeとか出たくないから。こう見えても恥ずかしがり屋なんだからな」

 カノンが恥ずかしがり屋……笑える。でも、出てくれないと意味無いな。

「つーか、まだ録画の画面越しで有効なのかわかんねーだろ」

 そうだ、実行しても効果が無ければ無駄になる。試したいけど私達はやっちゃったからな、あれから大して時間も経ってないし、変化があるかどうか。誰かで試せればいいんだけど。

 すると、ミッケが手にしていたギターを置いた。

「あのー、もし試すんだったら、ボクの弟に使ってみてくれないかな」

 躊躇いながら話す声は弱々しく、さっきまでの元気は無い。

「えっ、どうしたのミッケ?弟いたんだね、何かあったの?」

 チエの問いかけに、ミッケが話し出す。

「ボクの弟、ミルトっていうんだけど、今、中1でサッカー部なんだ。大人しい性格なんだけど、毎日遅くまで練習して頑張っててさ、この前、とうとう一年生で唯一のレギュラーに選ばれたんだって。そしたら、外された2年の先輩とその仲間からなのかな、嫌がらせされるようになって、ちょっとした事で怒鳴られたり、この前なんかスパイク隠されたりで、部活辞めようか悩んでるんだ。なんか、弟には上手いこと言えなくてさ、どうしようかと思ってたんだ」

「エェ!それはかわいそうだよ。しかしダサい先輩もいるもんだな!」

 チエの言う通りだ、そんな奴のせいで好きな事が出来なくなったら悲しい。しかし、こんな弱気なミッケを見るのは、昔の話をしてくれた時以来だな。


「よし、分かった、オレが力になろう。ミッケの弟なら、きっといい奴なんだろう。因果応報で事態が改善するかもしれない。で、どうすればいい?」

 カノンもやる気だ。

「じゃあさ、ミッケがスマホで録画したのを、弟君に見せるといいよ。ねっ、カノン!」

「おっ?おう、スマホに向かってやるって事だな……結構恥ずかしいな」

「恥ずかしがってる場合じゃないでしょ。ミッケの弟の為なんだよ!」

「そ、そうだな、やるしかないか」

 チエの勢いに押されてやる事になった。確かに、録画されるとなると恥ずかしいかも。


 テーブルを挟んで、スマホを構えたミッケの前にカノンが立つ。狭い部屋で申し訳無い。

「ヨーシ、スタンバイオッケー?」

 ミッケの後ろで合図を送るチエ。すっかり監督気分だ。

「カノン本気でやってよー。目の前に相手がいると思ってねー」

「あぁ、分かってるよ」

「例の振りもやってね、二本指で額に当てた右手をバーンって前に突き出す奴、カッコいい奴ねー」

「分かったよ!やるって!」

「あれ、カッコいいよね、自分で考えたんでしょ?」

「関係ねーだろ、そんな事!」

 オイオイ、やりずらくさせてどうする。カノンが赤くなっている。


「因果応報!」

 チエの煽りを跳ね除けて、カノンの迫力ある声が響く。

「どれどれ、上手く撮れたかな?」

 みんなでスマホを囲み、録画をチェックする。

「あー、いいね〜、よく撮れてるよ」

 チエが再生を繰り返し、その度に「因果応報」の声が響く。

「オイ、何回再生するんだ、もういいだろ!あとミッケ、弟に見せたら消してくれよな」

「分かった、ありがとうカノン。早速今晩ミルトに見せるよ。これで良い方向に行くといいな。そう言えば土曜日に試合があるんだ、そこで何か結果が出るかもしれない」

 明後日か、どんどん時間が経っていくな。でもしょうが無い、貴重な検証期間だ。ミッケの弟も何とかしたいしね。

 問題はその後だ。沢山の人に見てもらえる動画を作成しないといけない。歌のアイデアは悪くないけど……。

 画面越しでも効果があるのか?試すのはこれからだけど、必ず成功する。私にはそんな予感があった。

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