第40話 覚醒した?

 ――次の日の朝。

 うーん、夢ね、見なかったな〜。

 何か予知夢見るかなーって、多少期待して寝たんだけど、特に変わったことも無く……。うん、ミッケの歌に効果は無いね。あの歌にあるわけ無いわ。


 ソシャゲでイベントが始まったので惰性でこなした後、少し宿題を進める。

 早く午後にならないかな。みんなが来るのを楽しみにしている自分がいる。

 お昼はカップヤキソバ。最近のものは、お湯捨てが楽で良い。食べ終わって暫くするとチャイムが鳴った。

 みんな、ちゃんと予定通りに来るね。相変わらずミッケはギターを背負っている。


「来る途中コンビニで買ったんだけど、こんなんで良かったかな?」

 約束通りカノンがお菓子を買ってきたようだ。チエが袋を開ける。

「え~と、ポッキーにたべっ子どうぶつ……うん、悪くないね。カノンだからもっと意外な物を買ってくるかと思った」

 私も同じ事を思った。結構普通だな。

「オレは普段お菓子とか食べないからな。一応女子高生が好きそうなのを選んできたんだぜ、正解だったか?」

 自分も女子高生だろうに。正解かどうかは分からないけど、カノンの気遣いは分かったよ。因みにミッケは爽やかな炭酸飲料を持って来た。お得用サイズの2.5リットルだ。これと使わないくせにギターも持ってきたからね、重かったろうに。


「で、早速なんだけど、どうだった?」

 席に着くと、チエが私とカノンを代わる代わる見つめる。チエの真剣な顔はおかしくて、ちょっと笑ってしまいそうになったが堪える。

「イヤー、私の方は全くだね。何も夢とか見なかったよ。残念だけど」

「あぁ、オレの方も多分駄目だ。テレビ画面越しにとか、頭の中にイメージしながらとか、やってみたんだけどさ。何もニュースなってないよな、総理大臣とアメリカ大統領に対してやってみたんだけど」

 あぁ、カノンは色々試してくれたんだね。やっぱり見た目と違って真面目なんだよな。巻き込んでゴメン。でも、総理とアメリカ大統領って、どんな人選なんだ?悪い事が起きる前提で選んだのかな。善行を積んでたら、因果応報が効いてても分からなそうだ。


「そうか、ボクの歌には特別な力は無かったか」

 隣でミッケが結構ヘコんでいる。あの歌にそんな期待していたのか?

「でも、ミッケの言葉自体には力がありますから。能力を覚醒させるような、特別なものは無かったですけど、今の能力だけでも充分凄いことですよ」

「そ、そうかな?そうだよね。良かった、頑張って行こう!」

 モノのフォローで一瞬で立ち直った。笑ってしまうが、すぐに前向きになれるのは羨ましくもある。


「でも、振り出しに戻ったね。また1から考えないとね」

 チエの言う通りだ。今の私達には何のアイデアも無い。

 お菓子を食べつつ、各々がウンウンうなりながら考えてみるのだが、中々出てこないよね。ポッキー占い知ってる?等の関係無い話題がたまに出ては、また沈黙に戻る。

 刻々と時間が進み、お菓子とジュースだけが消費されていく。


 ふと見ると、チエがたべっ子どうぶつのビスケットをテーブルに並べている。

「ちょっと、チエ何やってんの?」

「いやぁ、これ好きだったなーって思って。子供の頃、よくこうやって並べたんだ。そんで、好きな動物は後に残したりしてね」

 たべっ子どうぶつは動物の形をしたビスケットで、中央に英語で動物名が書かれている。

「まぁ、私もやったけど。これで英語の言い方覚えたりしてね。でも、これ隕石に関係ある?」

「気分転換だよ、気分転換!ずっと考え込んでても出てこないしね」

 何か思ったのか、それを見ていたモノが口を開く。

「隕石が落ちたら動物達も死んでしまうのでしょうか。リルの夢では確か、『長い間地球を支配してきた人類は、滅亡の一途を辿るだろう』でしたよね、人類の代わりに生き残る動物もいそうですね」

「そうだね、動物によっては隕石が落ちた事による環境の変化にだって順応する種類もいるだろうね」

「昨日、隕石に生物がいたらとか話してましたが、そもそも、この隕石が落ちるって事自体が、人間に対する因果応報なのかも」

 モノが暗い顔をして呟く。

「エッ?つまり人間が悪事を働いた結果として隕石が落ちて滅亡するって事!?」

 モノの考えを聞いて、サッと血の気が引くのを感じた。思い当たる節があり過ぎる!それって、十分あり得るんじゃないか?


 カノンが腕を組んで話しだす。

「人類史なんて戦争の繰り返しだもんな。今だって地球のどこかで紛争が起こっている。暴力や殺人、犯罪だって数しれず。きっと、人間なんて悪人の方が多いんだろうな。そうか、この隕石は人間の行ないに対する報いなのかもな」

 カノンの言葉を聞いたミッケが、バッと身を乗り出す。

「何言ってんだ!悪人の方が多い?そんな訳ないさ!独裁者や悪い権力者とか、一部の悪人によって虐げられてるのは、多くの罪の無い人達だよ。ボク達の身近な人達だって、殆どは良い人さ。ただ、そういう人に限って報われない事が多い気がするけど」

 いつになく感情的なミッケ。もしかして以前話に聞いた、助けられなかった同級生の事を思い出したのかも知れない。でも、ミッケの言う事は正しいと思う。学校だって人に危害を加える一部の悪い奴の為に、嫌な思いをしてる人達は多い。とても悲しいけど、いじめで自殺する子供のニュースもよくある。


 ふと、私の頭の中に考えが浮かんだ。

「ミッケの言う通り、虐げられて、報われない人が多いんだったらさ、その人達にカノンの能力を使ったら、もの凄い量のマイナスからプラスへの精算が行われるわけじゃん?そしたら、落ちるはずの隕石も落ちなくなるんじゃないのかな?」

 みんなが一様に目を丸くする。


「それで人類滅亡が回避される……」

「そうだよね、カノンの能力なら可能かもしれない」

「その発想はありませんでした。理屈は通っていると思います!」

 みんなが期待を口にする中、カノンが話し出す。

「あり得るとは思うけどさ、そんな大勢の人にどうやって能力使うんだ?駅前で大声でも出すか?」

 そう、問題は沢山の人達に能力を使う方法だ。とにかく多くの、出来れば悲しい思いをしている人達に行使したい。

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