第39話 五人揃えば・・・
結局、何も思いつかず水曜日の午後を迎えてしまった。みんなは何か良いアイデアを思いついただろうか?
そんな中、みんなは予定通りにやって来た。
ちなみに、カノンはこの前のカラオケの時も黒い服の上下だったが、今日は白のタンクトップに短パンで、ちょっと爽やかな印象だ。なんだ、こういう服も持ってるんじゃないか。区民ホールの時みたいな威圧感のある格好じゃなくて良かった。近所で噂になってしまう。
あと、何故かミッケはギターを背負っている。
「あれ?ミッケ、ギター持ってきたんだ。重いだろうに」
「あぁ、ギターはボクの手足みたいなものだからね。重さなんか感じないよ」
「ふ〜ん、分かってると思うけど、ここで弾いちゃ駄目だからね」
「もちろん分かってるさ。ギターに触るとインスピレーションが湧いてくるんで、一応ね」
う〜ん怪しい。絶対弾かせないからな。
私の部屋に招くと、みんな珍しそうに部屋を見回す。
「へぇ〜、凄いね、本棚に漫画本が大量にあるよ」
「おっ、このフィギュアの手足、可動領域がスゲー」
「チエ!漫画出したら、ちゃんと同じ場所に入れて!巻数も順番通りに!で、カノンは、フィギュアを激しく動かすんじゃあない!関節が脆い奴もあるから!
ったく、もう!とりあえず、そこら辺に適当に座ってよ、コーラでも持ってくるからさ」
予め用意したミニテーブルにコップを並べ、買っておいたペットボトルのコーラを注ぐ。昨日の夜飲んだので、少し気が抜けてるかもしれないけど、まだ大丈夫でしょう。
「おー、悪いねぇ。アタシお菓子持ってきたんだよね。食べながら話そうよ」
チエがガサゴソと鞄の中からポテチとチョコ菓子を取り出す。
「あ、あの私もお菓子持ってきました。良かったら食べてください」
モノは紙袋から箱詰めのお菓子を取り出す。
「わー!それ、年始の挨拶とかで親戚の家に持ってくような奴じゃん。アタシのお菓子が霞んだわ」
「ごめんなさい、お母さんに友達の家にお邪魔すると言ったら、これを用意してくれて」
「謝ることないよ、オレなんか手ブラで来ちまった。こういう所が、気が利かないよな」
カノンが柄にもなくショゲている。
「イヤ、いいんだよ気を使わなくて、余計なもの持って来る人より全然いいよ」
横でミッケが笑っている。自分の事を言われているとは気付いていないようだ。
「じゃあ、まあ早速だけど、話し合いを始めよう。みんなアイデアは持って来たかな?」
私の問いかけに、みんな一斉に目を逸らす。
「おやおや?それじゃあ順番にいこうか。では……チエからどうぞ」
「エッ!アタシ?」
チエはビクッとして姿勢を正す。
「え、え〜とね、結構考えたんだけど、なかなかいい案が思いつかなくてね……」
チエは目を泳がせながら話す。やっぱり簡単には出てこないよね。
「強いて言うなら……カノンが因果応報弾みたいのを隕石にブツケて軌道を変えるとか」
「何だ因果応報弾って?そんなもん出せるか!」
あー、チエは現実逃避に走ったな。
「それじゃあ、ミッケはどうかな」
「ボクかい!?えーと、色々考えはしたんだけど……例えばさぁ、隕石にも生物っているのかな?あわよくば宇宙人が住んでるとか」
「ん?宇宙人は考えづらいけど、もしかしたら生物はいる可能性はあるのかな〜?」
「そしたらさ、その生物だって地球にはぶつかりたく無いはずだよね。そいつに向かってカノンの能力をかけるんだよ。運命が変わって、衝突しなくなるかも」
「またオレの能力か?もし、生物がいたとしても、どうやって隕石まで届けるのかって事だよな」
「都合良く能力覚醒とかしないかね。リルから借りた漫画ではよくあるけど」
自分の番が終わり、すっかりリラックスしたチエがポテチをパリパリかじりながら話す。
「おーい!そんな安易な展開ばっかじゃないだろ!でも、カノンの能力に期待しちゃうのは分かるな、目に見えて凄い能力だもんね」
「そんな持ち上げても、何も出ねえぞ……因みにオレは、いい案思いつかなかった……ゴメン」
カノンは申し訳無さそうにコーラを一口飲んで下を向く。
「そうかー、では期待のモノはどうかな?」
モノは能力以外でも、情報収集など得意なので、一番期待している。
「あの、私も隕石についてとか調べてみたりしたんですけど、特に成果は無くて……期待して頂いて申し訳無いんですけど……」
あぁ、モノも駄目だったか。これはヤバくなってきたぞ。
モノがチラリとこちらを見て話を続ける。
「……私やカノン、ミッケにチエも、人に対しての能力なんですよね。だから隕石に対しては難しくって。唯一、そうじゃ無いのがリルの能力なんですよ。だから、リルが解決に導く夢を見てくれたらな、なんて考えたりしたんですけど。そんな都合良くいかないですよね」
おっと、思わぬ所から矛先が向いてきたぞ。
「そうだよ、リル〜。何で肝心なとこの夢見ないんだよ~。ところでリルの案をまだ聞いてなかったね。まさか、みんなに聞いといて自分は考えつかなかったとか?」
チエのツッコミが入る。
「あ〜、ははっ……バレたか、ゴメン。誰かが名案出してくれればな、なんて思ってたけど、やっぱ難しいね。自分が一番、何で途中の夢は見ないんだよーって思うよ」
「リルもか〜、どうすればいいんだろうね……あ、これウマっ!」
チエはモノが持って来たパウンドケーキの様なお菓子を食べて思わず声を上げる。それにつられて、みんなもお菓子を手に取り、モグモグ食べる。
「うん、確かに美味い」「美味しいね……」
暫く食べ続けたあと、沈黙が流れる。
「何か景気付けに曲でも弾こうかな?」
静寂に耐え兼ねたミッケは後ろに置いていた、ギターのケースに手をかける。
「だーかーら、マンションでギターを弾いちゃ駄目だって」
本当にちょっとスキがあると歌おうとするんだから。まぁ、マンションの中じゃない場所で、ちゃんとした曲なら聴いてもいいんだけど。
それを見ていたチエが、ふと口を開く。
「リルの事をミッケが応援すれば、重要な部分の予知夢を見れるようになったりして」
チエの発言にカノンが反応する。
「おっ、いいんじゃね。ミッケの言葉には何か力がある。それこそ、さっき言ってた、能力を覚醒させる力があったりしてな」
ん〜、かなり都合のいい考えだけど、あり得ないとは言い切れない。他に案も無いんだ、試してみてもいいだろう。
「わかったよ、じゃあミッケ試してみてよ」
ミッケは笑顔で頷く。
「よし、まかせて!ギターを弾けないのは残念だけど即興でいくよ」
あっ、歌うんだ。応援って、そうなるのかなー?仕方無いのか?……。
納得は出来ていないが、私は渋々ミッケと向かい合って正座し、お互い目を合わせて見つめ合った。ミッケは真剣な顔だ。
う〜ん、何だこの空気は。そう思ったのも束の間、突然ミッケが歌い出した。
『リル〜、君はーとてもすてーきな心を持っている〜
そう〜宇宙に輝く〜星のようさー
水星がー君にー微笑みーかけるー
金星がー君にーやさしさをーくれるー
火星が―――』
ああ、どんな罰ゲームなんだ。目の前で真剣に訳のわからない歌詞を歌い上げるミッケ。横でカノンとモノが笑いを堪えている。しかし、チエは相変わらず、こんな歌でも感動してそうな様子。それが余計にイラッとする。
『―――
海王星がー君にー慈しみをー捧げるー
冥王星がー君にー儚さー感じさせるー
さあ〜リルの予知夢は〜次世代のドアを開けるよー』
結局太陽系の惑星全て登場して何かしてくれたみたいだ。応援歌……なのか?
歌い終わったミッケをチエが拍手で迎える。
「ミッケ〜凄いじゃーん!即興であんな曲歌えんの?良く歌詞が出てくるね?」
「あぁ、ギリギリだったけどね。我ながら上手くいったと思うよ!」
いや、歌詞、滅茶苦茶だったけどね。儚さ感じてどーすんの。
「どうだいリル?能力覚醒した感じある?」
清らかな目をしたチエが問い掛ける。
「いやー、どうだろう?実感は無いけど、今晩寝てみてかな。……あと、一応カノンも覚醒してもらった方がいいんじゃないかな。隕石に能力が届くようになるかもしれないし」
「オ、オレも?イヤ、エー……」
カノンは困惑しているが、この状況で、断れるはずが無い。
ハハハ、カノンも巻き添えにしてやった。
ミッケは同じようにカノンと正座で向き合い、歌を歌いだした。私の時とは違い、ちょっとノリのいい曲調で、牡牛座やら双子座やら、星座がパワーを与えるような歌詞だ。
カノンは渋い顔をして黙って耐えている。星座は12種類あるからね、私の時より多いからキツイぞ。
しかし、ミッケはこれを即興で歌えるなんて、まぁ、ある意味天才かもしれないな。
無事に?歌い終わり、カノンはホッとした表情を見せる。なお、星座の順番は覚えていなかったらしく、バラバラだったせいで、牡羊座が2回出てきた気がしたが、まぁいい。
「それじゃあ、今日は一旦ここまでかな。二人共、能力試してみてよ」
チエはミッケの歌が聴けて満足そうだ。
「それで、また集まろうと思うんだけど、明日も空いてる?予定とかあれば無理しなくてもいいと思うけど」
チエの問いかけに、みんな大丈夫だと答える。年頃の女子が夏休みに予定とか無いのかねぇ。と言いつつ、私はモチロン無いんだけどね、他に遊ぶような友達もいないし。
という事で、明日も同じ時間に私のうちに集まることになった。カノンが明日はお菓子を用意すると言うので、カノンがお菓子、ミッケがジュースを持ってくる事になった。
その後、折角なので、おすすめの漫画を少し紹介して解散した。
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