第35話 閉幕
表面上、無事にコンテストは終了し、私達は区民ホールの出口でミッケを出待ちする。
結局5人目の能力者も見つからなかったな。でも、一番の目的だった、社長への因果応報が実行出来たから良かったよね。
「おっ、来た来た」
人々が行き交う中、ギターを背負ったミッケが歩いてくる。
「やあ、みんな待っててくれたんだね!」
いつものように明るい声だが、さすがに疲労の色が見える。
パタパタとチエがミッケに駆け寄る。
「ミッケー、お疲れ〜!良かったよ〜」
「ありがとう、いや〜まだまだダネ」
「イヤ、本当はミッケが優勝だったと思うよ。少なくともアタシには一番うまく聴こえたよ」
チエの言葉にミッケは柔らかく微笑む。
カノンがおもむろにポケットからサングラスを取り出すと「どうやら出来レースだったっぽいぜ。社長こと、青柳築治郎の仕業さ」と言ってかけ直す。
「あ、あの、予想です。確証はありません。しっかり心が読めたわけでは無いので」
カノンが言い切るので、モノが慌てて訂正する。しかし、もう夕方なんだからカノンはサングラスいらないだろ、カッコつけて。
「出来レースかぁ、そういうのもあるかもなぁ。でも、いいんだ、こんな大きな場所で歌えた事は凄い自信になった。次の機会に活かせると思うよ。今回はボクの番じゃ無かった。来るべき時の為の必要な経験だったんだと思う」
もう、次へと目を向けている。ミッケのこういう前向きなところが凄いと思う。
「ん?ところで、さっき社長の仕業って言った?社長を見つけたのかい?」
「あー、やっぱ、わかってなかったかー!審査員の中に社長いたじゃん。名前も紹介されてたぜ」
「まあまあ、あの場にいたら、それどころじゃ無いよね」
驚くミッケに、ちゃんとカノンの能力も行使した事を説明する。予想通り、あの過剰な応援は真に受けていたようで、照れているが、そのお陰で普段以上に力を発揮出来たらしい。何でもプラスに捉えるミッケらしいな。
「じゃあ、明日、因果応報の結果が出るのを待つだけって事だね」
ミッケが笑顔を見せる。
「でも、結果って、アタシ達にわかるのかな?よっぽどの事故とかだったら新聞に載るかもだけど……」
チエが表情を曇らす。復讐だし、犯した罪相応の報いは受けて欲しいんだけど、人の不幸を望むのってあんまり良い気はしないもんだな。
少しうつむきながらカノンが口を開く。
「オレも死んで欲しいとまで思ってない。イヤ、昨日までは思ってたかも。でも、能力かけられたから……奴に因果応報って言えたからさ、気持ち的には満足したっていうか、区切りが付いた感じだよ。奴がどうにかなったからって父親の意識が戻るわけじゃ無いしな」
そう、カノンのお父さんは未だ意識が戻らず入院中だ。下を向くカノンに、私はかける言葉を見つけられずにいた。
沈黙の中、カノンはスッと顔を上げると、かけていたサングラスをまた外す。
「でも、ありがとう。みんながいたからここまで来れた。結果を確認出来るかは分からないけど、何かお礼をさせてくれ」そう言って笑顔を見せた。
カノンの殊勝な態度にチエがおどけて応える。
「いや、いいんだよお礼なんてー。強いて言えば、もし他のヤンキーに絡まれた時は助けてもらおうかな」
「ハハッ、わかった助けるよ。まぁ、オレはヤンキーじゃ無いけどな」
みんなに少しばかりの笑顔が広がる。
しかし、今日は疲れた。みんなにも疲労の色が見える。充実感があるにはあるが、複雑な気持ちだ。
私達は帰途につき、電車が混んでいた事もあって、あまり会話もしないで別れた。
夜寝る前に、いつものように漫画を描く。
次の敵は、相手が犯した罪の重さでダメージを与える能力にしよう。かなりカノンの能力をパクった感じだけどね。能力名は因果応報じゃなくて……う〜ん、何がいいかな?ドイツ語かラテン語から引っ張って来ようかな……。
それにしても、今日の社長への能力発動は成功したのだろうか。カノンはバッチリみたいに言ってたけど、そもそも今回で4回目って事みたいだからなぁ。今までも本当にカノンの能力の結果だったのか確かじゃないしね。
まあ、どちらにしろ社長に報いが起こったかなんて、本人に確認でもしない限り分からないんだろうしなー。
あー、あと5人目の能力者も見つかってないんだよなー、夏休み入っちゃったし、どうしようかなー。
私は良い考えが浮かばず、モヤモヤした気持ちのままベッドに寝転ぶと、疲れが溜まっていたのだろう、いつの間にか寝てしまった。
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