第30話 ジャンケン

 少しすると、前の方で列が動き出した。ようやく開場の時間だ。


「動き出しましたね」

「なんか緊張してきたなぁ」

「リルが緊張してどうすんの?」

 入場口では観客がチケットらしきものを係の人に見せて、そのまま通過している。


「あれアタシ達のと違うみたい。何か既に席順とか決まってるチケットじゃない?」

「私達の『招待状』とか書かれた紙で大丈夫かなぁ。しかも折れ曲がってるし」

「これミッケの手作りじゃないだろうな」

「さすがのミッケでも……う〜ん、否定しきれない」

「オイ、ここまで来て入れないなんて無いよな」

 不安を感じながらも列は進み、私達の番が来る。

「あの~、こんなのなんですけど……」

 一番手のチエが恐る恐る係の人に招待状を見せる。

「出場者の応援の方ですね。K列とL列が応援席になっています。どこでも空いている席にお座りください」

 あっさり通過する事が出来た。ミッケ、疑ってゴメン。


 区民ホールの外観は何度も見ているが、中に入るのは初めてだ。3階建ての構造で、Aホールは1階にある。たまにちょっとしたアーティストの公演なんかもやっているようだ。

 私達はAホールの防音のドアを通り抜けると、目的の席を探す。


「KかLの列……」

「あっ、ここですね。確かに応援しやすいかもしれません」

 見るとJ列とK列の間は通路になっていて、K列から後ろは段差が付いて高くなっている。

 既に2グループほど席に着いているようだったが、まだ余裕がある。


「よーし、見やすそうなトコ。ここら辺でいいかな?」

 私達はチエが選んだ、中央より少し左寄りの席を確保した。舞台に向かって左からカノン、チエ、私、モノの順で座る。舞台の方を見ると、まだエンジ色の幕が降りている。


「ミッケあそこで歌うんだよね」

「すごいよね、こんな広いとこでさぁ」

 こんな場所で千人位のお客さんを前にして歌うなんて、私にはとても出来そうに無い。

「よし、席も決まったところで、時間まで館内を偵察に行ってくるかな」

 カノンがスッと立ち上がる。

「そうだね、始まる10分前位に戻ればいいだろうから、あと30分位はいけるね。あっ、でも席を取っとく人がいた方がいいか」

 応援席は指定が無いので、他の人に取られないように、荷物を置いて席を確保しておくとしても、誰かが残って番をしておいた方がいいだろう。


「カノンは社長を探す方に回ってもらってぇ、モノも能力で何か発見するかもしれないしで……そうするとアタシとリルのどっちかが居残りかな」

「だな、じゃあここは……ジャンケンだ!」

 チエと目が合った瞬間、私達は拳を振り上げた。

「ア〜、ジャンケン!ジャンケン!ジャンケン!ポーン!!」

 チエのグーを私のパーが凌駕する。この結果、留守番はチエに決まった。

「お、おい、なんか迫力あるジャンケンだな。今度教えろよ」

 私の考案したジャンケンはカノンの心も掴んだようだ。


「む〜、ここから大活躍する予定だったんだけどなー」

「席を確保するのも大事な事だよ。それに会場内でも何かあるかもしれない」

 意気込んでいるチエをなだめる。でも、言ってるだけで、座って待ってるのもいいなと思ってそうな気もする。

「まぁ、しょうがないなぁ。ここは任せて、アタシが陣取ってるから、みんな安心して行ってきなよ!」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて探索に行ってきます」

 モノが微笑みながらペコリと頭を下げる。


「じゃあオレは、左の方行ってみるよ」

「それじゃあ、私とモノで右の方行ってみようか」

 私達は左右に分かれて探索を開始した。

さっき入って来た会場のドアを通り通路に出る。


「一階はAホール以外は、自動販売機とトイレしかありません。内部関係者がいるとしたら上の階だと思います。2階に行ってみましょう」

 さすがモノ、下調べは済んでいるようだ。私達は行き交う観覧者を掻き分け、フロアの端にある階段を目指して歩く。


「結構人がいるね」

「開演前ですからね」

 ようやくフロアの端まで辿り着いたが、2階へ上がる階段にはテープが張って塞がれてあり、大きく「関係者以外立ち入り禁止」と張り紙されている。


「あれ?立ち入り禁止だって。2階に行けないんだ!?」

「う〜ん、これは想定外です。探索はここまででしょうか」

「そうだなぁ、カノンが行った左の方も同じだろうしなぁ。暫くここで道行く人をチェックでもしてみようか?関係者とかいるかもしれない」

 階段の横はトイレになっていて、人通りはそこそこある。私達は通路の端で何か情報を得られないか行き交う人を観察する事にした。


「あっ、そういえばさぁ、みんなには言ってなかったんだけど、5人目の能力者を今回見つけられないかなぁって思ってるんだ」

「最後の能力者ですね、私も少し気になってました」

「気にしてくれてた?タイミング的にそろそろ見つかってもいいよなって思ってるんだ」

「そうですね、注意してみます。つくし台高の人がいたら、可能性高いですよね」

「そうそう、能力者はつくし台高の女子生徒じゃないといけないから」

 我ながら条件厳しいな。その中に隕石を止めれる人がいないといけないなんて。

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