第28話 ドクペ
コンテスト当日、私は少し早目の昼食を家で済ませてから電車に乗り、池葉原の駅に12時45分に着く。ここから区民ホールまで、歩いて15分程なので13時には到着だ。しかし今日は真夏日、とても暑い。
「リルー!」背後からの声に振り向くとチエが小走りでやって来る。
「同じ電車だったみたいだね。しかしリルは、またそのTシャツか。変わったデザインだからすぐわかったよ」
「そう、コラボTね。私の一張羅だからね、勝負の時はこれよ」
「ほー、それが一張羅。へぇー」
「私の服の事はいいんだよ!でもやっぱチエも早目に来たんだね」
「うん、何か手掛かりでも見つけられたらなーなんてね。私も少しは役に立てたらとか思ったりして」
「んー?もしかして気にしてるの?」
「ち、ちょっとね、今回のイベントはリルが見つけたし、モノは調査能力まで凄いし。アタシはそもそも特殊能力とかも無いしさ」
「らしくないなー、チエはいるだけで場が和むんだから、役に立ってるよー。ほら、そのオデコを見るだけでも心が安らぐよ」
「うるさいなー、前髪はすぐ伸びるよ」
チエは前髪を掴んで引っ張る仕草をする。でも、能力が無いとか気にしてたのか、そんなのは無くても私にとってチエは一番心を許せる友達だ。チエがいなかったらミッケやカノンなんか話さえ出来なかったろう。
たとえ能力が無くても、役に立って無いとしてもチエは一緒にいて欲しい。
そうこうしているうちに区民ホールに到着する。
「よし、じゃあ二人で何か見つけようよ。関係者しか入れない秘密の入口とか」
「敵のアジトに潜入するんじゃないんだから、秘密の入口とか無いでしょ。でも、何か見つけたいよね。取り敢えずホールの周りをを一周してみよっか」
人通りは普段と特に変わりは無いようだ。私とチエは怪しい人物がいないか、周囲をキョロキョロ見渡しながら歩く。はたから見れば私達が怪しい人物かもしれない。
しかし今日は暑い。しかも今は一日で最も暑い時間帯だ。気温は35度位あるだろうか。区民ホールは大きいので、一周するだけでも結構な距離だ。私達は汗を拭いながら歩き、何も見つけられないまま、建物の裏手まで来た。
「あっ、あそこに自販機あるじゃん。ちょっと喉渇いちゃったよ、ジュース買わない?」
「そうだね、喉カラカラだよ」
チエに誘われて自販機へ行き、私はスポーツドリンクを買う。ペットボトルのキャップを開け、ゴクゴクと渇いた喉に流し込む。
「あー、生き返る……」
「ガッ!ゲホゲホ!」横でチエが咳込む。
「大丈夫かいチエ……あれ、何飲んでんの?」
「ドクターペッパーだよ。やっぱ効くねードクペは!」
「ドクターペッパー?あのコーラを少し苦くしたような奴か!それ炭酸でしょ?こういう時はスポドリじゃないの?」
「いやぁドクペって、なかなか売ってないからさ、つい選んじまったよ」
「はぁ〜、まぁいいけど、炭酸一気飲みは危険だよ」
「うん、わかってたんだけど、ついね。ドクペの魅力ゆえにね。リルもちょっと飲む?」
「いや、私特に好きじゃないんで」
「ドクペが好きじゃない!?リルはまだまだ子供だな」
「それ、大人の飲み物だっけ?つーか、ドクペって普通に言ってるけど、その略し方一般的なの?」
そんな不毛なやり取りをしていると「ヨウ!」といきなり背後から声を掛けられた。振り向くと、グラサンをかけた全身黒ずくめのヤンキーが立っている。完全に不意をつかれた。カツアゲされるのか?
私達が声を出せずに、下を向いて体を強張らせていると、ヤンキーが話しかける。
「何オドオドしてんだ?オレだよ、カノンだけど」
その言葉にハッとして顔を上げる。
「お、お前!やっぱヤンキーだったんじゃあないか!何だその尖ったグラサンは!?」涙目のチエがいきり立つ。
カノンの服装は、上は黒T、下は黒のロングスカート。縁のつり上がったサングラスをかけ、おまけに金のネックレスとブレスレットだ。
「うるせー!ヤンキーじゃねーわっ!こういうファッションが好きなだけ!」
ファッションの事はよくわからないが、ヤンキーと言えばヤンキーだし、ロッカーと言えば、そうかもしれないが、どちらにしろ怖い事に変わりは無い。他人なら絶対に目を合わせない。
でも、ここ数日の付き合いでカノンは見た目と違って怖い人では無いとわかった。冗談も通じる方だ。私はホッとしてカノンに話し掛ける。
「カノンかぁ、誰かと思ったよ、その格好で職質とかされないの?」
「何だリルまで!……そんなにオレの格好変かな?」
カノンは自分の格好が他人にどんな印象を与えるか自覚が無いようだ。
「ところで、何か成果はあったかい?」
飲み干したペットボトルをゴミ箱に放り込んでカノンに尋ねる。
「いや、残念ながら何も無い。関係者っぽい奴も見あたらない」
「やっぱ関係者は車で来てるのかねー……ゲフッ!」
「チエよ、乙女なんだから人前でゲップは控えなさいよ」
「好きでしてるわけじゃないよ、一気飲みしたもんでね……グフォ!」
まぁこういうしょーもない所もチエのチャームポイントだ。
カノンはあきれた顔をしながらも次の行動に移る。
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