第25話 突破口

「そうだね、何もしないよりいいよね。でも本当は観覧とか出来たみたいなんだ。今はもう応募期限過ぎてるからね、もっと早く知っていればねぇ」

「そうかー、惜しいなー!どうにかして入り込めねぇかなー」


 悔しそうにしているカノンの横でミッケが何かソワソワしている。


「ん、どうしたのミッケ?」

「その、コンテストって、もしかしてベイベックスター主催の新人歌手コンテストの事?」

「うん、確かそうだったよ」

 一呼吸置いてミッケが口を開く。

「それ……ボク出場するんだ」

「エエッッッ!?」

 皆、驚いて一斉に声を上げる。


「いやぁ、こんな偶然あるんだね、ハハハ」

 ミッケは頭をかいて照れながらも誇らしげだ。

「ていうか、出場なの?さすが我らのミッケだね!」

 チエのテンションが上がる。我らじゃないけどねと心の中で突っ込む。


「運良く一次審査というか、歌っている動画を送って審査するというスタイルだったんだけど通過してさ、本選に行くことになったんだ」

「ハァー、さすがですわ。因みに何歌ったの?この前公園で歌ってた曲?」

「あぁ、『僕らの夢列車』ね。うん、本当はオリジナルを歌いたかったんだけど、既存の曲を歌うというルールだったんだ」


 なるぼど、確かにミッケは歌はうまいからな、それなら予選通過するかもしれない。


「それに、確か出場者は観客席に応援する人を呼べるんだよ。4人位はよかったと思ったよ」

「本当かよミッケ!?だったらオレら会場行っていいの?」

「いいとも、是非来て欲しい。ついでに応援お願いするよ!」

「もちろん応援するよ〜。でも両親とか呼ばないの?」

「うん、親にはナイショにしてるんだ。家族にはちょっと恥ずかしくてね。路上で歌ってる事も言ってないんだ」

 うん、路上での歌はナイショにしておくのが良いと思うよ。


「まあ、ボクの事は置いといて、肝心なのは社長が来るかどうか、来たとしてどうやって接触するかだね」

「もう、優勝しちゃえばいいんじゃない?そうすれば社長に会う可能性あるでしょ」

「おっ?そうだそうだ、それでいこう!大会終わった後とかに友人としてオレ達も近づけるかもしれない」


 調子に乗って囃し立てるチエにカノンも乗っかる。確かに、どれ位のレベルの人達が来るのか分からないけど、ミッケの歌唱力は、なかなかだし、見た目も様になってたからな。優勝とかも有り得なくは無いかもしれない。


「ハハ、簡単に言うなぁ。でも、もちろん優勝目指して挑むつもりだからね。期待に応えられるよう頑張るよ。

 よし、そうと決まれば、午後はカラオケボックスに行って練習しようかな」

 カノンの為という理由も加わり、ミッケはかなり意気込んでいる。


 それを聞いたチエが唐突に話し出す。

「カラオケ行くんだったらさ、アタシも行っていい?ミッケの歌をまた聴きたいよ。何ならみんなで行く?」

「いいね、良かったらみんなで歌おう!」


 このメンバーでカラオケ!?チエめぶっ込んできたな。でも、私もミッケのまともな歌ならちょっと聴いてみたいかも。

私自身はカラオケって行った事無いので、少し不安だけど。


「ねぇ、リルも行こうよ」

「そ、そうだね、やぶさかじゃないよ……」

「なんだ、やぶさかって?カッコつけてー!モノとカノンもさぁ、時間空いてるなら行こうよ!」

 特に格好良くは無いだろ、意味わかってないなまったく。しかしカラオケって、気心を知った友達とかで行くイメージだけど、知り合って間も無いこのメンバーでカラオケってどんな感じになるんだろう。


 モノが手を上げて発言する。

「あのー、私、カラオケに行った事無いんですけど、ミッケの歌はじっくり聴いてみたいと思ってました。自分で歌わなくてもついて行っていいですか?」

「もちろんいいよ!でも、歌ってみると楽しいけどね。まあ、その時のノリで」

「わかりました、ではお供します。その前にお母さんに連絡を……」

 モノはスマホで帰宅が遅くなると断りを入れるようだ。因みにウチは共働きだから、遅くなっても構わない。


 横でカノンが渋い顔をしている。

「うーん、オレもカラオケって行った事無いんだ。人前で歌うのとか苦手でね。でも、オレだけ行かなかったら空気読めない感じだしな」

「あれ?カノンでも場の空気とか考えてるんだ?ヤン……」

「ヤンキーじゃネェ!いい加減覚えとけ!」

 ヤンキーいじりは、チエとカノンのお約束になってきたな。カノンは、ああ言ってるけど、本当は怒ってるわけでは無さそう。案外嬉しいのかも。

 

 という訳で、なんだかんだ言って5人でカラオケに行く事になった。

 チエは結局Lサイズの量のポテトを食べきれなかったのでみんなに配る事になった。カノンは「早く食わないからシナシナじゃねーか」と文句を言っていたが、一緒に食べてくれた。やっぱり実は良い人な気がする。

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