第24話 Lセット

 次の日の放課後、5人揃って駅前のハンバーガー屋に集まる。私たちは目立たない、店の奥の席に陣取った。

 今日は特にトラブルは無く、誰も遅れる事無く集まれた。まぁトラブルでは無いけど、期末テストの集計が終わり、自分の学年順位が記載されたリストが配布されたので、チエの機嫌が悪いぐらいだ。


「今日は食わずにはいられない。ヤケ食いだわ」

「チエねぇ、ハンバーガーヤケ食いしても、しょうが無いよ」

「いーや、食うね。Lセットを頼んでやる!」

「ささやかだな、オイ」

 カノンにたしなめられる。

「おっ、カノンもLセットじゃん。そうだよね、こんな時は、食べるしか無いよね」

「オイ!オレも順位低かった前提で話してるだろ!言っとくけど普段からLセット食ってるし、点数も平均より上だからな!」

「マジかー!?ヤンキーなのに、そんなに出来るんだ?」

「だからヤンキーじゃねぇっつーの!」

 あー、なんかこのやり取り、見慣れてきたな。


「まぁ、過去は変える事は出来ないから、未来に目を向けるべきだよ。今はテストの事は忘れて、早速本題に入ろう。ボクもテストの事は忘れたい……」

 あれ、ミッケも勉強得意じゃない方なのかな?私も、ギリで平均点より上ぐらいだから偉そうな事は言えないけど。


「それで、皆で案を持ち寄ってと言う話で、まぁ、まずはボクの案なんだけど……ゴメン、言い出しといて申し訳ないんだけど、結構考えてはみたけど、あんまり良い案は思い付かなかった。例えば会社の前でボクが弾き語りをして、スカウトされる……とかね」

「イヤー、いくらミッケが歌が上手くても、さすがに無理あるよね」

「だよね、ハハハ……」

 おっ、ミッケ信奉者のチエでも、この案は即却下だったな。

「他には何かあるの?」

「後は、ボクの曲を録音したデモテープを送りつけて、スカウトされるとか……」

 あー、ミッケには、これ以上聞いても無駄みたいだな。


「アタシはね、1個良さそうなの考えたんだ」ポテトを噛りながらチエが話し出す。

「夏休みの自由課題とか言って会社訪問するのさ。社長へのインタビューとか言って会う約束するのよ、どうかな?」

 おぅ、チエにしては、結構まともなそうな案を持ってきたぞ。学生ならではだね。カノンも感心している。

「うん、悪くないね。ただ、社長に会うっていうのはハードル高そうだし、そもそも門前払いになる可能性もあるけどな。他に良い案が無ければ、ダメ元でチャレンジしてもいいかも。……他には、誰かあるかな?」


 カノンの振りに、モノがカバンからスマホを取り出す。どうやらスマホにメモをしてきたようだ。タイミングを見計らってモノが話し始める。

「あのー、ごめんなさい、具体的な案がある訳じゃないんですけど、相手を知る事で、何か今後の役に立つかと思って、社長について少し調べてきました」


 おっ、モノもネットで調べるタイプだね、でも、検索してもあんまり出てこなかったよなぁ。さて、モノの調査力はどんなもんかな?


「エーと、プラットエージェント社長の青柳築治郎は、元は大手の広告代理店に勤めていたけど、35歳の時に独立して今の会社を起こしたらしいです。業界では凄腕みたいに言われてるみたいですが、いくつかの芸能事務所と懇意にしていて、そこの売出し中のタレントを強引にテレビやCMに出演させる事で、業績を伸ばしていったみたいです。

 でも、この会社、離職率がかなり高いようです。サービス残業など、ブラックな業務が横行しているとの情報もあります。

 あと、社長のパーソナル情報について。離婚歴あり、子供無し、不確定情報ですが複数の愛人がいるとか……また、お抱えの運転手がいるみたいで、移動は基本的に車だそうです。なので、移動中に会うのは難しいかもしれません。

 会社の業務として、いくつかイベントなども実施してますので、それをあたってみたら現場で遭遇する可能性はあるかもしれません。

 あと因みにですが、別名義でSNSをやっていて、海外での写真とか高給レストランの料理だとか、いかにもな写真を毎日のようにあげています」


 次々と出てくるモノの情報量に一同驚愕する。

「スゴッ!良く調べたね?そんなにネットに出てた?もしかして能力使った?」

「いえ、インターネットに能力は使えません。いつも一人でいる事が多いので、ネットで調べるのとか慣れているんです。少しは参考になったでしょうか」

「そりぁ、なったよ!しかし、今のを聞くと、やっぱりカノンが会った部下の人が言ってた通りの嫌な奴みたいだね、裏付けが取れたよ」

「だな!オレも今のを聞いて、さらに怒りが湧いてきたよ。父さんは殆ど休む暇もなく働いてたっていうのにな!」


 確かにその通りだ。部下に面倒な汚い仕事を押し付けて、自分は贅沢して遊び回る姿が想像出来てしまう。こりゃ本当に悪い奴だな、成敗のしがいがあるってもんだ。


「SNSで写真上げた瞬間に、その店とかに突入するのはどうかな?」

 チエがハンバーガーを頬張りながら言う。


「私達が行けるような場所は少ないだろうし、そもそも、その場で写真上げるとは限らないしなぁ」

 モノに社長のアカウントを教えてもらいSNSを見てみると、凄いところばかりだ。とても高校生が行けるような場所では無い。


「やっぱ、モノが言うように企画しているイベントを1個ずつ調べて見るのがいいんじゃないか?一般人が参加するのもあるかもしれないし。まぁ、社長が来るとは限らないけどな」


 カノンの一般人が参加の言葉に、昨日見つけたイベントの事を思い出す。

「あっ、そうそう!それなんだけど、今度の土曜日に池葉原の区民ホールで新人歌手コンテストとかいうのをやるらしいんだよ、それがなんと協賛がプラットエージェントなんだって!結構大規模なイベントっぽいから、もしかして社長とか来ないかなー、なんて思うんだけど、どうかな?」


 私の情報にみんなが感嘆の声を上げる。

「さすがリルですね!具体的なイベントまでは、まだ探せていませんでした。そんなに手近にあるのでしたら、試しに当日現地に行っても良いかもしれませんね」

 モノに褒められてしまった。漫画を読もうとして、たまたま見つけただけなんだけど。

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