第20話 復讐
「私が来ない間に色々あったのですね」
「いやぁ、色々あったけど、結果オーライだよ。カノンもヤンキーじゃ無いって言うし。何だよー、だったら早く言ってくれればいいのに〜」
そう言って、チエがカノンをヒジで突く。
オイオイ、ヤンキーじゃないからって怖そうな人に変わりは無いぞ。相変わらずチエの距離の詰め方はおかしい。
「ヤンキーじゃないなら、一部歌詞を変えないといけないな……今日新曲を披露するのは止めとくよ。では、早速本題のカノンの協力の話に戻ろう」
まだ歌うつもりだったのかとミッケに驚きつつ、ヤンキーを踏まえた歌詞って、どんななの?と興味もあるけど、そう、カノンに協力するために私達は集まったんだ。
そして思い出した。カノンの父親が事故に合ったのは、カノンの能力のせいだと言っていた事を。
「それじゃあ、ちょっと長くなるけど、改めてオレの話を聴いて欲しい」
カノンの言葉に皆が注目する。カノンは、私達4人の顔を順番に見つめてから静かに話し出した。
「まずは、父親の事を話しておく。もう、察しが付いてると思うけど、オレが父さんに因果応報を唱えた事で、その日事故に遭い、多分意識はもう戻らない……それ相応のクズって事だ。
どんな父親だったかと言えば、たまに帰って来ては、酔っ払って怒鳴り散らしたり、母さんに暴力振るったりでね。オレは父さんが帰ってくると部屋に閉じこもって、一切口を利く事も無くなった。
仕事でストレスが溜まってるらしく、ちょっとでも気に食わないことがあれば、誰が苦労して働いた金で飯食ってんだ!とか言ってよく母さんを殴るんだ。母さんは謝るだけで、言い返しもしない。それが余計に苛つかせた。
仕事は仕事で、あくどい事をしてるらしく、誰だかしらないが、お前のせいで人生狂ったとか、たまにブチ切れた男や泣き喚く女なんかの電話が掛かってきたよ。オレはこんな父親イラねぇ、どんだけ人に迷惑かけんだってずっと思ってた」
頭をガンッと殴られた感じだ。カノンの話しは、お気楽に暮らしてきた自分には信じられない程に壮絶だ。カノンは淡々と話を続ける。
「それである日、朝っぱらからまた理不尽な事で母さんに暴力を振るうのを見て、もう耐えられなくて、父さんに向かってカバンをぶん投げたんだ。
驚いてたね、何年も話もしていない娘にカバンを投げつられるなんてな。呆気にとられてこっちを見てやがるから言ってやったんだ。
『どんだけ周りの人に迷惑かけんだ!どっか行ってくたばれ!二度とオレと母さんに汚え面見せるな!因果応報だ!』……って。
そしたら父さんは悲しそうな顔して、そのまま出て行ったよ。で、その夜病院から電話が掛かってきたんだ。父さんが交通事故に遭ったって……」
私達の中に重苦しい空気が流れる。いくら因果応報だとしても、本当に死ぬ目に会うなんて、カノンもそこまで思わなかったろう。
「そう、散々悪事を働いてきた報いなんだ、こんな大事故に遭っても仕方の無い事なんだ……でも、入院中に一人だけ父さんの部下だったという人が見舞いに来たんだ。その人が言うには、父さんは仕事熱心で会社の為に自分を犠牲にするような人だった。それで社長に気に入られたようだけど、その社長は金の為ならどんな事でもする奴で、人を騙したり、陥れたりして金を稼ぐ事もあって、そんな汚れ仕事を父さんがやらされてたって言うんだ」
「エッ、じゃあ本当に悪いのはその社長って事?」
思わずチエが聞き返す。
「かもしれない、父さんは命令には逆らわず、淡々と役割を実行していたそうだ。でもそんな人に恨まれるような汚い仕事は部下に押し付けず自分で行ってたらしい。おそらく部下の事を考えて……だからその人、父さんの事とても感謝してた」
「そうか、会社で無理してる分、家でお母さんにあたってしまったんだね。だったら、悪いのは、やはりその社長で、お父さんはどっちかというと被害者じゃないの?」
「うん、でも実際行動したのは父さんで、恨まれてるのも父さんだから、ああいう事になったんだと思う。もう結果が出てしまったんだ、今から何を言ってもしょうが無い……」
お父さんの事、口ではあんな事言ってるけど、本当は悔しいんだって伝わってくる。
「……で、その社長なんだが、父さんを心配するような連絡は一切無く、そればかりか退職の通知を一方的に送りつけてきやがった。さすがに許せない……許せないよ、だからどうにかして、こいつにも因果応報を食らわしてやりたいんだ。
言ってみれば『復讐』さ、オレが協力して欲しい事と言うのは、この事だ」
カノンは唇を噛み締める。
「オレは、こんな個人的な事に他人を巻き込むのは、本当は良く無いって分かってる。でも、一人じゃうまく行かなくて……それで昨日そいつ……ミッケの言葉に心が揺れてしまった。でも、まだ迷ってたから、お前らがちゃんと4人とも揃った時だけと自分自身に条件を付けた。
今日も、さっきまで1人来なかったから、やはり巻き込むのは止めようと思ってたけど、逆に仲間同士の信頼を見せられて、こいつらなら信用出来る、協力を頼みたいと思ってしまった。特にそっちのオンザ眉毛の頑張りにはグッと来たよ」
「エッ?私の事?イヤー頑張ったって言うか、ミッケに乗せられたって言うか、役に立てたなら嬉しいよ!ハハッ……」
チエは頭を掻いて照れている。相変わらず誉められるのに弱い。
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