第18話 焦燥

 そして放課後、チエと二人で昨日の駐車場へ向かう。みんなは大丈夫だろうか?私達が平気なぐらいだから、みんなも大丈夫な気がするけど。


 駐車場に着くと、既にカノンとミッケが待っていた。

「あぁ、来た来た!二人共無事みたいだね。逆にいい事あったかな?」

「まぁ、ちょっとね。ここで言う程の事でもないんだけど……そういうミッケは、何かあった?」

「そう、あったんだよ!さっきカノンに話してたんだけどさぁ、昨日警察から電話が来て、先週落とした財布が見つかったって言うんだよ!いやー危なかったー」

「おっ、それ本当にいい事だね。結構お金とか入ってたの?」

「いや、お金は小銭しかなくて、数百円なんだけどさ、思いついた歌詞のメモを挟んどいたんだよね。もう、思い出せなかったから、見つかって良かったよー」

「あ、あぁ、そうなんだ。それは良かったね……」

「しかも、その歌詞から1曲できちゃってさ!カノンに披露しようとしてたところなんだよ」

 そう言いながら笑顔でカノンの方を見る。


「イヤ、だから結構だっつーの!」

 渋い顔のカノンに気後れせず嬉しそうに話しかけるミッケ。ちょっと打ち解けてるのか?相変わらずミッケのキャラは掴め無い。


 ふと見るとチエが、辺りを見回している。

「モノってまだ来てないよね?歌を聴くならみんな揃ってからがいいと思ったんだけど」

「聴く気なのか!?まぁ、歌の事はともかく、モノ遅いね……」

 私は少し不安になった。


 皆が口を開かなくなってから、もう20分位経つだろうか、未だモノが来る気配は無い。もちろんLINEに送信もしたが既読が付かない。


 フーと深い溜め息を吐き、カノンが遠くを見て呟く。

「一人脱落者が出たか。大人しそうに見えても、裏で何してるか分からないからな」


 まさか、モノに限ってそんな事!知り合って少ししか経ってないけど、裏のあるような子には見えなかった。


「それじゃあ残念だけど、この話は無かった事に……」そう言ってカノンが私達の間を割って立ち去ろうとする。


「ちょっと待って!もう少し待ってみようよ!」

「そうだよ、帰りのホームルームが長引いてるだけかもしれない」

 思わず手を広げて、チエと私が行く手を遮る。


「イヤ、もう長引いてるなんて時間じゃないぜ、オレはそこまで気が長くないんでな。しかも、心を読める奴がいないんじゃ、どうしようもない」

 カノンが強引に私とチエを押し退けて行こうとした時、ミッケが後ろから「グッ」とカノンの手を掴んだ。


「何だ?」

 カノンが振り向いて睨む。

 ヒェー、ヤンキーなだけあってビビってしまう迫力だが、ミッケは動じない。


「すまないが、もう少しだけ待ってくれないか。ボクはモノとは、まだあまり話していないが、悪い子じゃないと思う。ボクの心がそう感じている」

「お前の心がポンコツの可能性もあるけどな」

 カノンが煽るが、ミッケは動じない。


「確かにボクは、たいした人間じゃない。でも、モノを信じる気持ちは、どうやらリルもチエも同じみたいだ。人が生まれて死ぬまでの何万時間の内のほんの数分でいいんだ、ボクたちに使ってくれないか?この数分でボクたちの運命が変わる気がするんだ」


 出た!ミッケの殺し文句!日を改めてまた集まればという考えも脳裏に浮かんだけど、今日を逃したらカノンとは、もう話が出来ない気がする。この数分で運命が変わるというのは、大袈裟じゃない。私もそう感じる。

 ミッケの言葉を聞いて、カノンは何故か苦しそうな表情を浮かべている。そして何かを振り払うように首を振る。


「いや、ダメだ。集まらなかったら協力してもらわないと決めている……」

 カノンがミッケの手を振りほどいて進みかけた時、再びチエが両手を広げて立ちはだかった。


「待てーいぃ!ミッケがあそこまで言ってるのに行こうっていうの?どうしても行くっていうなら、ア、アタシを倒してから行きな!」


 チエー!!どうしたー!ミッケの言葉に乗せられすぎたんじゃないか?ケンカなんかしたこと無いだろうに、ヤンキーに勝てる気しないぞ!


「倒す?いい度胸だな、そこまでしてオレを止めたいのかよ。だったら……」


 空気がピリついて緊張が走る。私は思わず二人の間に割って入った。

「ま、待った、待った!暴力はいけないよ暴力はぁ!カタギに手を出したらヤンキーの名折れだよ!」

「何だそりゃ、そもそもオレは……」

「ちょっとさ、学校に戻ってモノがいないか見てくるよ、だからちょっと待っててよ、ネッ!ネッ?」

 私はそう言って返答も待たずに学校へ向かおうと踵を返した、その時……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る