第17話 マウント
夜、いつもの様に少し漫画を描き進めた後、ベッドに寝転びながらスマホをいじる。寝る前にスマホを見てると寝付きが悪くなるなんて話を聞いた覚えがあるが、私には関係無いらしい。いじりながら寝落ちする事もしばしばある。
何か良い事起こるかなと期待していたが、今の所何も起こらない。チエじゃないけど、駐車場で落下事故を回避したので、もうおしまいなのかな。今までの人生、悪い事をしてきたつもりは無いが、特に良い事もしてこなかったから仕方ないのかもしれない。そんな事を考えながらネットニュースを見ていると……。
「何!?週間少年ジャンピングで連載中の『約束のネイチャーランド』がついにアニメ化!これ私がシャドヴィの次に好きな奴だよ!」
来たー!やはり私は善行を積んでいるのだ。明日チエ達に自慢してやろう。
次の日の朝、気分良く教室に向かう。早く報告したくて自然と早足になる。
「おはよっチエ!」
「おはようリル!何か機嫌良さそうだなぁ。リルの事だから、てっきり学校に来れない事態になってると思ったのに」
チエは憎まれ口を叩いてニヤニヤしている。冗談と分かっていても、この眉毛はムカつく。
「もう、そんな訳無いっつーの!私なんかいい事あったもんねー」
「エッ、リルも?それがアタシもあったんだよ!」
「何ー?!ちょっとー何があったのさぁ」
「先に言い出したんだから、リルから先に言ってよ」
「あっ、さては自信が無いな?」
「そんな事は無いけど、先に言うとリルが言えなくなるかもよ」
チエは以外と強気な態度だ。もしかして、とてもいい事があったのかも。しかしここまで来て引き下がれない。
「よ、よし、だったらジャンケンで負けた方から言う事にしよう」
「うん、そうしよう……」
一瞬の沈黙の後、お互いの目が合った瞬間に叫ぶ!
「アーーッ!ジャンケン!ジャンケン!ジャンケンポーン!!」
私はパーを出したが、チエはまさかのチョキ!……負けた。
因みにこれは「最初はグー」に代わる、私が考案した新しいジャンケンの掛け声である。ジャンケン、ジャンケンと言いながら拳を振るい、最後のポーンで思い切り、手を繰り出す。とても気合いが入るので気に入っている。
「ホラホラ、言ってごらん、どうしたって〜?」
勝ち誇るチエの顔はとても憎たらしいが、止む無く私から話す事にする。
「あのさぁ、聞いて驚くなよ。私が推してた漫画。ジャンピングの『約束のネイチャーランド』が、今度アニメ化されるんだよ!」
「エッ!マジで?あれアニメになるんだー!」
チエの驚く顔に溜飲を下げる。
「そうなんだよ、凄いでしょー、いい事あったよ!」
「確かにいい事だけど、『約ネチャ』私も好きだし。私にとってもいい事だったね」
こ、これは迂闊だった。『シャドヴィ』ならともかく『約ネチャ』はチエも好きで読んでいるんだった。
チエがポンポンと私の肩を叩く。
「まぁ、私のいい事が増えちゃったけど、リルも良かったよ。少なくとも悪い事が起きなかったんだから、日頃の行いは正しかったって事だよね。まぁ、私のいい事が増えちゃったんだけどねぇ」
憎たらしいが何も言い返す事は出来ない。悪い事が無かっただけでも良しと思うべきか。私は悔しさを押し殺して冷静を装う。
「あぁ良かったよ、お互いにね……そ、それで、チエのいい事は、どんななのよ?」
「あぁ、そうそう!それがさぁ、私昨日ソシャゲのガチャやったのよ。そしたらラスト1回ってとこで超レアキャラ出たんだよねー、これ凄くない!?」
「あー、今ピックアップされてる奴か。それ私、前回のピックアップの時、ゲットしてるからね」
「あっ、そうだっけ?ア、アタシは持ってなかったから、スゲー嬉しいしー、超ラッキーだしー」
必死にアピールするチエが微笑ましい。
結局、私達の良かった出来事は、この程度のようだ。チエの言う通り、悪い事が無く、いい事が起こったと言う事で、私達の毎日は間違っていなかったんだろう。行いに対して少しだけご褒美が少なかったから、この結果という事なんだろうなぁ。
まぁ、とにかくカノンの言うテストには合格だろう。
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