第16話 因果応報
「そう、今からお前らに能力を行使する!今までの行いが悪い奴は、それ相応の目にあうだろう。因みにこの前クラスで、父さんが事故にあった事を茶化しに来た奴がいたんで、能力使ってやったんだが、そいつは両腕骨折したらしいぜ」
「あっ、最近休んでるあの子か!確かに転んで骨折したとか担任が言っていた……」
ミッケが思わず声に出す。同じクラスのミッケには思い当たる人物がいるようだ。
という事は、カノンの能力は実証済み……。
「どうだ、嫌なら止めてもいいんだぜ。その場合はここからトットと立ち去りな!」
カノンが挑発する。日頃悪い行いをしている覚えは無いけど、良い行いをしている覚えも無い。コミュ障なので周りに嫌な思いさせてる可能性もあるなぁ。あぁ、せめて電車で席でも譲っとけば良かった。
「ど、どうする、みんな……」
チエが弱々しく問いかける。かなり顔色が悪い。
一呼吸置いてミッケが応える。
「ボクは……正直言って自信が無い。過去を振り返ると、あの時何故行動しなかったのだろう、あぁすれば良かったこうすれば良かったと後悔ばかりだ。でも、後悔ばかりしていても先に進めない。今までの行いを精算できると言うなら望むところだ。ボクは未来に進む為に過去に責任を持つ。リル達とそしてカノンと共に未来に進む為に何が起きても構わない」
来たー!痺れるセリフ。そして巻き込まれている!ここまで言われて立ち去る事は出来ない。
まぁ、隕石から地球を救う為の通過点だ。逃げるつもりは無い。
「分かったミッケ。私も問題無いよ」
私が言うとチエとモノもそれぞれ頷く。モノなんて手が震えているけど、口をギュッと結んで目の前のカノンを睨みつける。
カノンは確かめるように私達一人一人と目を合わせる。
「どうやら立ち去る奴はいないようだな……では、いくぞ!」
カノンは私達の覚悟を見届けると、右手の指二本で額あたり触れた後、スッと開いた右手を私達の目の前に突き出した。
「エッ!何?チョ、待っ……」
チエが迫力に負けてモゴモゴ言っているが、構わずカノンが叫ぶ。
「因果応報!!」
私達が凄みに気圧されて声を出せずにいるとカノンは右手を降ろし、クルッと後ろを向くと近くに放り投げていた自分のバッグを掴んだ。
「じゃあ、今日はここまでだ。無事だったら明日の放課後この場所で会おう」
「エッ?チョット!」
カノンはそう言うと、私達の呼びかけを無視して駐車場から出て行ってしまった。
「え~と、私達能力をかけられたって事だよね」
「そうだと思う」半信半疑ながらチエに応える。
「一日で結果が出るって事みたいですね。もし今までの行いがマイナスだったら、ここに戻って来れない可能性があると……」
モノは胸の前で手を握り締めて不安そうにしている。
「来るなら来いって奴さ。ウン、今日はおとなしく一旦帰ろう。そして明日またここに集まろうじゃないか」
さすがミッケは落ち着いている。ミッケの言葉を聞くと何とかなると思えてくる。
「そうだね、じゃあ、みんなまた明日の放課後、この場所に集まろう」
各々が頷き合い帰路につこうと数歩足を進めたとき……。
「ガシャーン!!」
背後の大きな音に驚いて振り向くと、今まで立っていた場所に金属製の工事の足場の一部が落ちている。隣の工事中のビルから落ちてきたのだ。
「アレ、私達が歩き出すのがもう少し遅かったら……」
「確実に当たってた」
取り付けが甘かったのか、自然に落下したようだ。工事の作業員は近くに居らず、気づいた様子もない。
流石にミッケも顔色を失っている。
でも……。
「これってカノンの能力を受けたから、逆に助かったのかもしれない」
私の言葉にチエが反応する。
「そうか、良い事が足りない分、悪い事が起こらなかったのかも。……良かったけど、もしかしてこれで差し引きゼロになっちゃったかな?」
「チエだとそうかもね〜。私は何か良い事が起こる気がしてきた」
「何をー!アタシだってきっと良い事がある。よし、勝負だ!明日報告し合おう」
悪い事を回避出来たという解釈で、皆前向きになった。やっぱり私達の中に悪事を働いてる人はいないだろう。逆に今までの行いに対してご褒美が足りないから、その分良い事が起こるはずだ。明日来れなくなる人なんてこの中にはいないだろう、きっと……。
私達はお互いの無事を祈りつつ帰路についた。
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