第15話 対峙

「チョット待ったー!」

 カノンが驚いて立ち止まる。


「ミッケがせっかく歌ってるのに、聴いてかないとは何事だ!」

「そこー!?」思わず私とモノも飛び出す。


「何なんだお前らは!あの変な奴の仲間か?」

 うっ、間近で見るカノンは、なかなかの威圧感だ。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。


「そうだ!変な奴の仲間だ!」

「リル、変な奴は余計です」

「そうだよ酷いよリル」

「あー、ゴメン……」


 私たちのやり取りを見てカノンは苛ついた表情を見せる。

「っていうか何?お前ら揃ってオレの事を慰めに来てくれた訳?」

「そうさ、みんな君の事が心配なんだ!」

 後ろから追いかけてきたミッケが叫ぶ。

 いや、ミッケ以外は初対面だけどね。


 彼女は深く息を吐いて、取り囲んだ私達を見回す。

「――オレが父親が事故に遭って悲しんでると思ったのなら、お生憎様。だって、オレがやったんだから」

「エッ!?今何て……」


 聞き間違いかと思い耳を疑った。私たちは理解出来ずに顔を見合わせた。

 痺れを切らした彼女が叫ぶ。

「何揃ってアホ面下げてんだよ、聞こえなかったの?オレが事故に遭わせたって言ったの!オレの『因果応報』の能力でね!」


 能力!!自ら口にした「能力」と!探している能力者の一人なんだろうか。でも、人を事故に遭わせる能力……?

「ちょ、ちょっとそれどういう事?どんな能力なの……」

 チエは涙目になっている。


「うるせぇ!そんな事教える義理は無い。じゃあな、帰るから退いてくれない?」

 カノンが私たちの間を割って強引に行こうとするとミッケが立ちはだかった。


「いや、行かせはしない。何故ならキミの心の鳥籠はまだ鍵がかかったままだから」

「ハァ?オマエ何を……」

「キミの中の小鳥は飛びたがってる、歌いたがってる。開けてもいいんだよ、鍵は自分のポケットに入っているのだから!」


 カノンは動揺している。かなり恥ずかしいセリフだが、彼女にはヒットしているみたいだ。やはりミッケの言葉には力がある。しかし、何故歌詞だとあんなになってしまうのか不思議だ。


 それにしてもこの織峰カノンという子って見た目よりも……。

「えぇ、口は悪いけど、中身は悪い人では無いようです」モノが耳元で囁く。

「わぁ!びっくりしたー、急に心を読むから」

「ごめんなさい。でも、もう少しです」


 モノの話が聞こえていたか分からないが、膝をガクガクさせながらもチエが一歩前に出てカノンと対峙する。


「ア、アタシたちも特殊な能力を持ってるの!このミッケは勇気を与える能力。さっきの言葉でも分かったように、あなたの心を癒やす事ができるし、こっちのモノは心が読める。あなたが偽ったって本心は分かっちゃうんだからね!

 だから――だから、アタシたち、あなたの力になれると思うんだ」


 チエ良く頑張った!カノンの表情が変わる。

「能力者集団?心が読めるってマジかよ……もしかして意識を戻せる能力者とかは……」

 カノンは弱々しい声で呟く。


「ごめん、医療系の能力者はいないんだ」

「だよな、そんな都合の良い能力なんか無いよな……でも、心が読めるんだったら……協力して欲しいことがある……」

 協力?入院中の父親の心を読んで欲しいのだろうか?それとも……。


「うん望むところだよ。君の力になる為にボクたちは声をかけたんだ……」

「でも、その前に!」

 急に厳しい表情に戻ったカノンがミッケの言葉を遮る。

「お前らが本当に善意で動いてるのか、何か企んでいるのかテストをさせてもらう」


 エッ、テスト?確かに急に見知らぬ人達に話しかけられるのは、怪しむかもしれないけど。


「ちょっとそこの壁際に全員並んでくれ」


 一体何をするのか?断るわけにもいかず、私たちは戸惑いながらもカノンの言う通りに壁際に並んだ。さっき父親は能力で事故に遭わせたとか言っていたの思い出し、とても不安になる。

 私たちが並んだのを見届けると、カノンは静かに語りだした。


「『因果応報』って知ってる?自分の行いに応じてその報いが必ずあるって奴。これはオレの考えだけど、報いが来るのって直ぐとは限らないんだよね。数年後か、死ぬ前か、もしくは死んだ後か」

「死んだ後?」チエが思わず声に出す。

「そう、散々悪事を働いたヤクザとか政治家とか、現世では贅沢三昧で何不自由無く暮らしても、死んで次に生まれ変わった時は、その報いで地獄のような環境に生まれると思ってる。例えば極貧な家庭だったり、戦争してる国だったり、あるいは人でさえ無いかもしれない。ネズミやゴキブリとかな。そうでなきゃ辻褄が合わない。真面目に一生懸命働いてる人が幸せになれずに、人の不幸で金稼いでる奴が楽しく暮らすなんてな」


 確かに、悪事を働いた人には、それ相応の報いを受けて欲しいけど……。


 思わずチエが口を挟む。

「言いたい事は分かるよ。そうであって欲しいとも思うけど、想像だよね?死んだ後なんて分からないし」

「そう、死んた後じゃ確認出来ないんだよ。そこでオレの能力だ―――オレが対象者の前で『因果応報』って唱えれば、そいつの今までの行いが全て精算されて、その報いがすぐに実行されるんだ!」


 なんだと……そんな!まさか?でも事実だとしたら凄い能力だ。

 うん?もしかしてそれを私たちに……!

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