第13話 三人目の能力者2

「勇気……勇気を与えるか……以前からボクにそんな力があるんだったら、あの時もやっぱり行動しておけば良かったんだな……」

 ミッケは、ふと何かを思い出したように遠くを見て、少し悲しそうな表情を見せる。


「あの時って……」

「いや、個人的な事なんだ。人に話すのはちょっと恥ずかしいな」

「そう、だったらいいよ。無理して話すことないし」

「でも、気になっちゃったよね。しょうが無い、ボクに付き合ってもらうんだから話すよ。隠し事は無しだ」


 ん?結局話すのね。でもミッケの顔は真剣だ。


「去年の……中三のときの話なんだけど、同じクラスにイジメられてる子がいたんだ。その子とは小学生の時に一緒のクラスで、特別仲が良かったわけじゃないけど、何度か遊んだ事がある位の関係だった。理由は分からないけど、中三ではイジメのターゲットになっていて、クラスに話しかける子はいなかった。さっきも言ったように以前のボクは気が弱かったから、気になってはいたけど話しかけるなんて出来なかった」


 さっきまでの堂々とした姿とは打って変わり、視線を落として話すミッケに私たちは耳を傾ける。


「それでその子は、二学期を過ぎたあたりから学校に来なくなったんだ。そのまま中学を卒業してしまった。噂では、どうやら遠くに引っ越したらしくて、今どうしてるかも知らない……その事がずっと心に引っ掛かっていて、何も出来なかった自分が嫌で、自分自身を変えようと思ったんだ」


 そうか、そんな事があったから前向きに生きる、他人も元気にしたいと思ったんだね。もう後悔しない為に……。


「うん、ミッケの思いはよく分かったよ。もう悲しんでる子を見過ごす事は出来ないよね、そのクラスの子を元気付けようよ。よーし!今からでも乗り込むか?」

 チエは飲み干したコーラの残りの氷を全部口に放り込む。


「い、今からは急だなぁ、ミッケも心の準備とかあるよね?」

 チエはやる気になってるけど、デリケートな問題だからなぁ、軽はずみに話しかけて余計に傷付けたくは無い。


「そうだね、何と言おうか考える時間も欲しいけど、その子の連絡先さえ知らないんだ。だから来週彼女が学校に来たら、帰る時に声をかけてみるよ。その時、良かったら一緒にいて欲しい。あー、大人数で押しかけたら、警戒されるかもしれないから、少し離れた所から見守ってもらおうかな。友達が応援してくれてると思うと力が湧いてくる気がするよ」


 友達――ミッケは出会ったばかりの私たちの事をもう友達と言ってくれた。ほんの小1時間話しただけだけどミッケは優しくて志しの高いナイスガールだって分かった。うん、躊躇してる場合じゃないか、出来るだけミッケの力になれるように頑張ろう。


「分かったよミッケ、私たちは隠れて見てるから、何かあったら呼んでよ」

 チエとモノと目を合わせて頷く。二人共ヤル気が伝わって来る。


「みんなありがとう!よし、早速帰って曲を作らなきゃな」


 ん?曲を作る……。


「ミッケもしかして、その子の前で歌を歌うんじゃ……」

「ボクは歌う事しか出来ないからね!」

「ク~!痺れるねぇー」


 ミッケの堂々とした言葉にチエが身悶える。イヤイヤ、これは大惨事の予感がするぞ。チエは勝手に痺れてろ、全く!


「あ、あのーミッケ?学校で歌うのは、目立ってしまうから、その子も嫌がるんじゃないでしょうか。ミッケの言葉の力なら、普通に話しかけるだけで効果的だと思いますよ」


 さすがモノ、歌うのは断固阻止しなければいけない。お互いの為に。


「あぁそうだね、校内で歌うのは厳しいな、帰宅中に人気が無い場所に誘い出そう」

「あ、え?それって歌う気では……」

「イヤイヤ、歌わないよー。歌わずに済めばそれに越した事は無いよね」


 何だ歌わずに済めばって、歌う気満々に見える。私がオロオロしているとモノが「まぁ、もし歌う事になっても、それが良い結果をもたらす可能性もありますし」と小声で言う。

 うーん、モノが言うなら、取りあえずいいか。しかし、チエみたいにハマる人はあまりいないと思うなぁ。あっ、もしかしてさっき聴いた曲が変わっているだけで、他の曲は普通なのかも……なんて、淡い期待を持ったりして。

 しかし、ミッケはいい人だけど、ちょっと掴み所が無い。今まで出会った事の無いタイプだなぁ。


 私たちはミッケと連絡先を交換して、その日は解散する事にした。LINEグループも作ったので、次の月曜日の帰宅時にミッケから連絡を入れてもらう段取りだ。

 因みにグループの登録名は何故か『ミッケファンクラブ』になった。

 取りあえず能力者探しは一旦置いておこう。私は不安と期待……いや、ほぼ不安を抱えて週末を過ごした。

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