第12話 三人目の能力者

「それで、以前の自分自身のように下を向いている人たちに、希望を持って前向きに生きて欲しいと思って歌っているのですね、素晴らしいと思います!」

 モノが目を輝かせる。


「本当に?ありがとう!……まるでボクの気持がわかってるような言い方だね?」

「あの……ごめんなさい。私、人の心が読めるんです」

 モノが申し訳無さそうに答える。


「心が読める!?――という事は、ボクが抱いてる野望とか、ビッグになったらあんな事やこんな事してやろうとか考えてるのも分かっちゃうの!?」


 ミッケはかなりうろたえている。いや、ビッグって!一体何をしてやろうと思ってるんだか。


「いえいえ!そんな具体的な事までは分かりません。でも、ミッケの人柄、志、善意で行動しているって事は伝わりました」


 モノは両手を胸の前で小さくギュッと握りながら力強く答えた。


「そ、そう?そうなのかな。イヤー、お恥ずかしい!」

 ミッケは大袈裟に照れている。


 しかし、あの歌にそんな意味があったとは……思えば前向きな事は言ってた気がする。ますますミッケという人物に興味が湧いてきた。


「私、路上ライブする人って、目立ちたがりで自己陶酔してるような人ばかりだと思ってた。ミッケみたいに真面目な人もいるんだね……」


 思わず自分の偏った考えを口にしてしまったが、ミッケは笑って応えた。


「そういう人もいるだろうけど、ほとんどの人は真面目に音楽が好きでやってると思うよ。やっぱり音楽って素晴らしいよ、辛さや悲しさは半分に、嬉しさや楽しさは倍にするのが音楽だと思う」

「ハァー、流石だね〜クー!」

 ミッケの名言にチエが唸る。


「でも、ミッケは中学まで気が弱かったんだよね?今は凄い堂々として見える。そんなに変われるものなんだね。私なんかコミュ障だから、知らない人達の前で歌うなんてとても出来ないよ」

 変われない自分との違いに、つい弱音を吐く。


「いや、リルが今までどんな生活をしてきたかは知らないけど、決めつけるのは早いと思うよ。自分の限界を自分で決めなくたっていいんだ。この世に変わらないものなんて無いんだから。そう、どんなに暗い夜でも必ず朝が来るようにね」


 おおっ、流れるように名言が出てくる。こんな普通だったら照れて言えないような事を真顔で言えるミッケって凄いなぁ。でも、ミッケが言うと説得力があって、ちょっと頑張ろうという気になってしまった。


「いやーしかし、能力者が見つかって良かったね」

 チエがハンバーガーを頬張りながら唐突に言う。


「ん、能力者?」

「そうそう、ミッケは『歌うまし』の能力者だよ」

「歌うましって!まあ、うまいとは思うけど、うまい人なんて沢山いるから、能力者っていうのは少し違う気がするなぁ」

「ちょっと二人共、ミッケに説明しないと意味が分かりませんよ」


 モノに言われてミッケを見るとキョトンとしている。そうだよね、でも能力者に協力して欲しい訳で、そうじゃないと説明してもなぁ……。

 するとチエがポテトをかじりながら話し出した。


「えっとねぇ、リルが隕石が落ちて人類が滅亡する夢を見たんで、能力者集めて止めようとしてるんだよ」


 雑っ!雑な説明!せめてポテトを置け!そんなんで納得しないでしょ。

 ミッケはコーラを一口飲むと真顔で応える。


「わかった、ボクにも手伝わせて欲しい」


 マジか!?即答!意味わかったの?


「そうか、君たちは心が読めるとか予知ができるとか特殊な能力者の集まりで、日夜人類の為に戦っていたんだね。ボクは歌を歌う位しか出来ないけど是非人々の為に協力させて欲しい!」


 な、なんか事が大きくなっているような。特に戦ったりしてはいないんだけど。あまり誤解があるとまずいな。


「あのー、そんな戦隊モノみたいなもんでは無いんだけどね。まぁ、人類を救おうとしてるのは間違いでは無いかもしれないけど……」

「そうだよリル、協力してもらおうよ!」


 チエは満面の笑みだ。チエはミッケを仲間に引き入れたいだけだろ全く。


「うーん、でも言い出しっぺが言うのもアレだけど、本当にそうなるかは分からないし、ミッケの期待に応えるような事が出来ないかもだよ。無駄な時間を使わせちゃうかも」


 私の弱気な発言を聴いてミッケが首を振る。


「どんな結果になろうと人生に無駄な事なんて無いさ。皆を救いたいと、その一歩を踏み出した事が最も価値がある事だよ。ボクはそんなリルについて行きたいと思う」

「えぇ!何かありがとうございます」


 何だかまだ勘違いが入ってるような気がしないでもないが、ミッケに言われるとヤル気が出てくる。


「私、分かりました!」

 モノがおもむろに身を乗り出す。


「え!何がだい?」

「ミッケの能力です」

「ボ、ボクの能力?」


 みんなの視線がモノに集まる。

「そう、ミッケは人に『勇気を与える』能力者ではないでしょうか」


 『勇気を与える』――確かにミッケの言葉には力があり、心に響いた。


「確かに歌もうまいけど、勇気を与える能力の方がピンとくるね!」とチエが飲み終わったコーラの氷を頬張る。


「能力って?……」ミッケは戸惑っている。

「うん、私が見た予知夢では、隕石の衝突を防ぐには5人の能力者が必要なんだ。それで、能力者を探してたんだよ」

「そうなんだ……ボクにそんな力があるとしてだけど、4人目って事か」

「あっ、いや残念ながらミッケで3人目だよ」

「エッ、でもここには4人いるから……」

「あー、ハイ、アタシは一般人です。何の能力もありません、あしからずー」

 チエがバツが悪そうに答える。


「あーあ、チエが重力を操る能力者だったらなー」

「おおーい!そんなの一人だけ能力のランクが違うだろ!」

「ハハッ、チエは普通の人なんだね、それは失礼!……でも、勇気を与える?本当にボクにそんな能力があるのかなぁ。もし、本当ならば、ちょっと今気になってる子がいるんだ」


 ミッケは口をギュッと結び、真剣な表情を見せる。


「エッ、誰なんだい?」

 チエが顔を覗き込んで尋ねる。


「うん、同じクラスの『織峰おりみねカノン』という子なんだけど、1ヶ月ぐらい前にお父さんが交通事故に遭ったらしいんだ。幸い一命は取り留めて入院してるんだけど、未だに意識が戻らないらしくて……。それで学校に来てもずっと塞ぎ込んでてさ、周りも腫れ物に触るような扱いでね、見てる方が辛いんだ……」

「そうなんだ、そんな子がいたんだね……うん、声を掛けようよ、少しでも元気になってもらうように。どこまでできるかわからないけど、ミッケの力を借りてさ!」


 おぉ、チエのフットワークの軽さよ。意識が戻らない父親を持つ、見ず知らずの子を元気付けるなんて躊躇ってしまうけど、すぐにやろうと言えるのがチエの素晴らしいところだな。


「あっ、でもゴメン。地球を守るという目的があるのにね」

「ううん、そっちは多分まだ大丈夫。気になるなら行動した方がいいんだと思う。ミッケの勇気を与える力も見てみたいしね」


 ミッケの能力は本物なのか、もう少し確認しておきたい気持ちもある。

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