第11話 バーガーにはコーラ
「あの、何年生なんですか?」
「ん?ボクは1年生だよ」
「1年生?な〜んだタメじゃーん!」
同い年とわかった途端のチエの変わり身よ。低姿勢で上目遣いだった態度から一気に背筋を伸ばす。
「しかし、歌上手いねぇ。いつも、ここで歌ってるの?」
「イヤ、実は今日初めてなんだ。いきなり3人もファンが出来て嬉しいよ!」
な、何かファンとして数えられてるんだけど……。
「へー、初ライブだったんだー!何か運命感じるね。アタシは市衣チエ、あっちの二人は藍川リルと遠童モノ。ヨロシクね!」
「ボクの名前は『
勝手に紹介されてしまった。取り敢えず愛想笑いをして会釈する。しかしシンガーソングライターってプロを目指してるのかな?あの歌で……。
私のぎこち無いであろう笑顔を見てモノが小声で話しかける。
「でも、あの人悪い人では無さそうですよ。力になってくれるかもしれません」
「エッ、そうなの?イヤ、悪い人じゃなくても、能力とかあるのかなー」
「詳しくは分かりませんが、ある気がします」
「エッ、あるの!?」
こういう、人を見た目で判断するのが私の悪い所だ。モノが能力があるというのなら確かめるしか無い。人見知りなんてしてる場合じゃないな。それに地球を救うっていう使命もある。ここは勇気を出して話しかけるんだ。
「あ、あの……」
私は勇気を振り絞って声をかけようとしたが、その3倍位のボリュームでチエが声を上げる。
「そうだ!私たちお昼食べに行く途中だったんだ。よかったらミッケも一緒に食べない?」
「エッ、一緒にお昼?まぁ、3時間程歌ったから、初日はこれ位でいいか……よし、じゃあ折角だから一緒に行こう!」
ミッケは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔で答える。
ちょっ!?3時間って事は、朝の8時から歌ってたの?それにしても、チエの距離感の詰め方よ。初対面でさっきまで歌を歌っていた、ギターを抱えたままの人を食事に誘うという大胆さ。しかも、またいきなり呼び捨てだし。
私の言葉はかき消されてしまったが、結果オーライと言うことで良しとしよう。
当初の目的地だったハンバーガー屋を目指し、4人で連れ立って歩く。ギターケースを背負って歩くミッケに、チエが「やっぱかっこいいね!」等とはやし立てる。ミッケは照れているが、まんざらでもなさそうだ。私とモノも愛想笑いで付き合う。まあ、実際見た目は悪くないと思うけど。
チエと会話しているところを見ているとさっきまで路上で歌っていた人とは思えない。中身は普通の高校生なのかもしれない。
程なくして店へ辿り着いた。冷房が効いた店内が心地いい。注文を終え、商品を持って席に着きホッと一息。
チエとミッケは「やっぱバーガーにはコーラだよね」等と言い合い、早くも打ち解けた雰囲気。人見知りの私には羨ましい限りだ。
でも、今回は負けてはいられない。私はミッケの事をもっと知りたいと思った。これから協力してもらうかもしれないって事もあるけど、路上でギターを弾きながら歌う人と知り合いになるとは思わなかったので、単純に興味もあったのだ。
「あ、あのー、ミッケは子供の頃から歌手を目指してたの?」
ぎこち無いながらも話しかける。
「ん?そんな事は無いよ。今年の春からだよ」
「今年の春!?ちょっと前じゃん」
意外な回答に素の反応をしてしまった。
「そう、中学卒業して、春休みにギターを買ったんだ。それで結構練習して、曲も作って、ようやく路上デビューってとこだね」
チエが感心して身を乗り出す。
「ヘェ~、たった数ヶ月でギターが弾けて、あんなに歌えるなんて、やっぱミッケは凄いなぁ。曲は他にも作ったの?」
「うん、さっき歌った『僕らの夢列車』の他には『未来へのペーパープレーン』と『動物たちのブルース』ってのがあるよ」
う〜ん、気になるタイトルだけど、聞くのが怖い。
「ミ、ミッケさんはどうして歌手になりたいんですか?」
モノが緊張感を漂わせながら質問する。
「フフッ、ミッケでいいよ。どうして歌手になりたいかと言ったらね、ボクは人々に勇気や希望を与える人になりたいんだ――な〜んて言ったら大袈裟だけど、ボクは中学までは結構意気地が無くて、気が弱かったんだ。毎日が憂鬱にも考えていた。でも、音楽に目覚めて、それじゃいけない、前を向いて歩かないといけないと思ってさ。そうすると何をやっても楽しいし、上手くいったりするんだ。まあ、高校デビューってヤツ?」
高校デビューというのか分からないけど、中学までは気が弱かったというのが意外だ。
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