第3章 三人目の能力者

第8話 週末

 今日は7月16日の金曜日、今週最後の登校日だ。この日も3人で集まって、今度は校舎内を回ることにした。


「今日も付き合ってくれてありがとね、モノ!」

「いえいえ、今日も頑張りましょう」

 モノは笑顔で応える。

「でも、そろそろ成果を出したいよねぇ。どこらへんに行けば能力者に出会えるだろう?今日のポイントはどこかなリル?」

「う〜ん、そうだね、音楽室から不思議なメロディーが流れてきたり、理科室から怪しい煙が漏れ出してくるとかかなぁ」

「相変わらず、マンガチックだなー。煙なんか出てたら消防車呼ぶ羽目になるけどねー」


 そんな会話をしながら、校舎の上から下までグルグル回ってみた。途中、モノをイジメているあのロングの髪の奴が「アイツに友達とかいるんだ」って言ってるのが聞こえたけど無視した。

 かれこれ4週位しただろうか。だけど、能力者は見つからなかった。今日の成果としては、階段の上り下りで足腰が鍛えられたこと。あと、モノに推しの漫画を貸したぐらいかな。


「ヤバいじゃん、リル〜!今週で5人揃っちゃうなとか言ってたのにね」

「まぁね、焦っても仕方ないよ。でも必ず見つかると思うんだ」

「どっから来るの、その自信はー!?」


 確かに根拠は無いのだけど、不思議と焦りは無かった。


「……ところで、二人とも明日暇?」

「んー?土曜日は学校休みだしね、特に予定は無いけど?」

「はい、私も大丈夫です」

「あのー、良かったら明日、池葉原まで付き合ってくれないかな」


 池葉原とは、つくし台から電車で40分ぐらいの場所にある繁華街だ。週末には結構な人出になる。


「あーまた、あの大型アニメ店行くのか」

「流石チエちゃんよく分かってる。明日、新バージョンのシャドヴィのアクキーの発売日なんだ。あぁ、アクキーってアクリルキーホルダーの事ね」

「シャドヴィのアクキーなんてあるんだ。リル以外に買う人いるのかね?」

「いるから売ってるんですー!せっかくチエにも買ってあげようと思ったのに」

「イヤイヤ、特に欲しくないし」


 全く小憎らしい態度だ。まぁ欲しくないのは分かっていたけど。

 チラリとモノを見る。

「あっ、私はまだ勉強中なので、グッズ類は結構です」

 ですよね。


「つーか、リルさぁ!買い物なんかしてていいの?あと、1週間で夏休みになっちゃうけど」

「まぁそうなんだけど、土曜に学校来てもしょうがないし。繁華街で探すのもいいと思うんだよねー」

「あー、後付けだな。後付け設定だ。買いに行きたいだけのくせに。それに能力者はうちの生徒なんだよね?人混みだわ、私服だわで、見つかる気がしないよね」


 ぐぬぬ、返す言葉が見つからない。モノも苦笑いだ。


「まぁ、可能性が無い訳じゃないし、逆にいけるかもしれないしね……」

「逆にの意味が全く分からんが、まぁ何言ってもどうせ行くだろうしね。しょうがない付き合うよ」

 なんだかんだ言っても、チエは優しい。


「モノはどうかな?無理にとは言わないけど……」

 見ると余り浮かない顔をしている。チエがすかさず声をかける。


「もしかして、人混みとか苦手かな?」

「えぇ、得意ではないです。周りの人の色々な感情を沢山感じてしまい、辛くなる事もあって……でも、せっかく誘ってもらったし、このままじゃいけないと私自身思っているので……是非同行させてください!」と、両手をグッと握って決意の表情でこちらを見つめる。


「同行って硬いなー。よし、それなら一緒に行こう!でも、辛かったらすぐ言うんだよ」


 チエの言葉に「はい!」と応えるモノ。二人共ありがとう、こんな私の趣味に付き合わせてしまって。

 しかしあれ以来、特にこれといった夢は見ていない。能力者との出会いのヒントになる様な夢でも見れたらいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る