第7話 友達

 そうこうしている内に女子陸上部の近くまでやって来た。近くといっても昨日の反省を元に、見ているか分からないぐらいの距離でさり気なさを貫く。

 15人ぐらいだろうか、当然だが部員は真面目に黙々とトレーニングを行っているようだ。


「結構人数いるね。どうかな、脈の有りそうな子はいるかな?」

 チエがモノに話しかける。


「う〜ん、遠目なので分かりづらいですが、特殊な能力を持ってそうな感じは今の所ありません。ただ、皆さん真剣に練習してますね、大会も近いようですし」

「大会近いとか、心を読んだの?」

「いえ、夏季休暇中に大会があるのは知ってました」

「あぁ、そうなんだ。……しかし、考えてもしょうが無いけど、陸上やって隕石に影響する能力発現とかするかなー?隕石と接点がある種目とかあるかねー?」

「うーん、やっぱ砲丸投げとか?」

「また形!?リルはそればっかだなー」

 私とチエのやり取りを見てモノが笑う。

 ただ、あいにく砲丸投げの練習をしてる部員はいない。まぁ、本当に砲丸投げの選手が能力持ってるとも思ってないけど。

 

 陸上部員の人達は、走り込みなど続けている。向こうの方では、走り高跳びの練習も始まったようだ。

「おっ、何か始まった。へぇ~、あれ飛ぶんだ凄いな……で、そろそろ能力発動するかね?」

 チエが意地悪く話を振る。

「そうだね、飛ぶ時、あのバーに当たりそうになったら、体が浮いて回避するかもしれない」

「へぇ~、そん時は、やっぱり発光とかするのかな」

「あぁ、僅かに発光するだろうね、その瞬間を見逃さないようにな!」

 走り高跳びの練習は淡々と行われている。もちろん体が浮いたり、発光したりはしない。

 そんな不毛なやり取りと雑談を続けている内に少し日が落ちてきたので、今日は解散となった。帰り道の夕日が切ない。

 

 夜、自分の部屋で今日の事を振り返る。

 私は一人っ子なので自分だけの部屋がある。6畳の部屋にベッドと机、それに本棚。本棚にはギッシリの漫画本とお気にいりのフィギュアが数体飾ってある。好きなものに囲まれたこじんまりした部屋は、とても居心地が良い。

 大概、寝る前には机に向かって想像を巡らす。誰にも邪魔されないこの時間は、私だけの自由時間だ。

 誰にも見せたことは無いけれど、小学生の頃からノートに自作の漫画を描いている。毎日描くわけではなく、気が向いた時にちょこちょこ描き進めるだけなんだけど、今はかれこれ5作品目を描いている。現在描いているのはシャドヴィに影響された能力バトル物だ。とても人に見せられる代物じゃないが、最初の頃のを見返すと随分成長したなと思う。そりゃ最初は小学校1年生の時に描いたものなんだから成長してるのは当たり前だけど。


 漫画を描き始めたきっかけは、小1の時仲の良かった子に絵を褒められた事だ。ノートの隅に描いた落書きを見て漫画も描けるんじゃないかって言われ、調子に乗って描き始めたんだ。ただ、描いた漫画は恥ずかしくて見せる事は出来なかった。

 その子も小学生の内に引っ越してしまったんだ。元気にしてるだろうか。

 それ以来、私に仲の良い友達は出来ていない。学校で少し話すぐらいの友達はいたけど、中学を卒業してから交流は途絶えている。


 今日は能力者は見つからなかったけど、モノと結構話が出来た。まあ、主に私が好きな漫画やアニメの事を一方的に語る時間が多かったかもしれないけど、ニコニコして聴いてくれるので、こっちも嬉しくなる。

 心が読めるといっても変に気を使う必要は無いように思える。

 何より新しい友達が出来た事が嬉しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る