第6話 再び能力者探し

 次の日の放課後。


「ほらチエ、元気出して!頑張って探しに行くよ!」

「ハァー、何で日本人が英語覚えなきゃいけないんだろうね。海外で働く仕事なんか就かないし、今はネットですぐ翻訳もできるしさぁー」


 チエは返ってきた英語のテスト結果が予想以上に悪かったらしく、かなり凹んでいる。


「英語出来なくても生活出来るだろうけど、出来た方がカッコイイじゃん?私はYou Tubeの海外からのコメントを訳さずに読めるようになりたいから、嫌いじゃないんだな。まぁ次頑張ろーよ。それよりも、モノが待ってるよ」


 チエは私の適当な返事にぶつぶつ不満を言っていたが、身支度を整え二人で校庭へ向かった。


 校庭の入口へ行くと、木陰でモノが微笑んでこちらを見ている。

「やぁ、モノ!ちゃんと来てくれたね」

「えぇ、もちろんです!」

 モノは何だか嬉しそうだ。


 校庭ではいくつかの運動部が活動しているが、ほとんど男子生徒だ。女子は向こうにいる陸上部ぐらいかなぁ。


「じゃあ、ちょっとグルっと回ってみようか。今日は少し遠目から見てみようかな」

「そうだね昨日の事があるからね」

 チエがニヤッと笑う。少し憎たらしい。

「モノは何か感じたら教えてね」

「はい、わかりました!」

 モノは力強く返事をする。なかなか気合が入っているみたいだ。


 今日は曇っているので、あまり暑くなくて良かった。3人で校庭の外側のフェンスに沿って話しながら歩いていく。


「今日は……靴は平気だね。何かされたりしなかった?」

 昨日の事もあって、チエがモノに声をかける。


「はい、大丈夫です、お気づかいなく。普段はそんな大した事はされません」

「大した事はされないという事は、小さい事はあるのかな?」

「……まぁ、些細な事です。ちょっとぶつかって来るとか、机の上のペンケースを落とすとか……」

「カァー、小学生かよ!鬱陶しいなぁ。周りの人は何も言わないの?」

「えぇ、関わりたくないという感じで見て見ぬ振りです。担任も仕事だから教師をやっているという感じで、面倒な事は出来るだけやりたく無いと思ってるみたい……」

「そうか、心の読めるモノだから分かっちゃうのか」

「はい、だから、そんな大事にはならない事も分かるし、もし、もっと酷いことされる様になったら相談するので、気にしないでください。それより……」

「それより?」

「こうして誘ってもらえたのが嬉しいんです。高校に入って初めて普通の会話が出来て……」


 モノはおとなしい上にイジメのターゲットにされたから、周りも余計話しかけないのだろう。私もチエがいなかったら、どうなっていたか……。


「モノ!能力者として誘いはしたけど、それを別にしても、良かったら……友達になろう!」


 モノは凄く驚いた表情を見せたが、次の瞬間に明るい表情に変わった。


「あ、ありがとう……私、リルもチエもいい人だと思ったので、心が読めるって、思わず話してしまって……昨日、家に帰ってから少し後悔したんです。そんな心を読まれるなんて、気持ち悪いんじゃないか、必要以上に近付きたくないだろうなって。それなのに友達になろうなんて言ってもらえて……」

「や、そんな、気にしなくていいよ。チエなんて、言っちゃ駄目な事も言っちゃうぐらい嘘つけないから、読まれてもノーダメージだし。私は、うーん……推しキャラがバレるのはちょっと恥ずかしいかもだけど」

「ハハッ、話す手間が省けていいんじゃないの?どうせアレでしょ、あの癖のある漫画の」と言ってチエが冷やかす。

「癖のあるって!まあそうかもしれないけど……今は『シャドウヴィジター』のヒューマが一推しなんだ」

 思わず自分から言ってしまった。


「あっ、シャドウヴィジターの名前は知ってます。確か、週間少年ジャンピングで連載してる漫画ですよね」

「おー意外!そんなマニアックな漫画知ってるんだ!おかげでリルは発売日の月曜には、ソッコー帰宅するからね。まぁ、掲載順いつも後ろの方だから、その内打ち切りになると思うけど」

「コラー!なんて事言うんだチエは!一般受けはしないけどコアなファンが沢山いるんだよー。ていうか、モノも『シャドヴィ』知ってるんだね?今、敵の正体が段々分かってきて、スゴイ盛り上がってきてるんだよねー。今度単行本貸すね?」

 モノは飛び切りの笑顔で「ハイ!」と返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る