第5話 二人目の能力者2

 私達が喜んでいるのを見て、今度は眼鏡の子が驚いている。私は慌てて話しかける。


「アッごめんね、実は私達能力者を探してて、本当は隕石の軌道を変える能力者が良かったんだけど、人の心が読めるなんてとびきりの能力だし、それでもいいかななんて……」

「リル、ちょっと待ちなって!」


 興奮して早口で話す私をチエが制止して眼鏡の子に話しかける。


「ちょっと訳わかんないと思うけど、何かしらの能力を持ってる人を探してるんだ。心が読めるなんて凄い事だけど、それって本当なの?」


 チエは意外と冷静だった。私は恥ずかしくなってしまった。でも、チエの言う通りだ。心が読めるって発言をそのまま信じるのは早計だ。

 眼鏡の子は私達を交互に見て、伏し目がちに応える。


「そうですよね、ちょっと思いきって言っちゃいましたが、本当に心が読めるかと言われると、何となくそう思えるだけで、正しいかどうか確かめた訳じゃないんです、ごめんなさい」

「イヤイヤ、いいんだよ。何となくでも凄い事だよ。アタシなんか、さっきの二人組、嫌な奴にしか見えなかったよ」


 チエがオーバーリアクションでそう言うと眼鏡の子は少し微笑んで応える。


「うん、今までも何度かちょっかい出されていて、笹木さんは口には出さないけれど、いつも私に対して申し訳無く感じてるように見えるんです。ヤラないと自分がヤラれると思ってるんだと思います」

「あー、あるよねそういうの」

「今回は私が濡れたままの靴を履いたら満足すると思ったので、そうしました。ある程度満足すれば深追いしてきませんので」

「なるほど!」


 チエは感心しているが、これはよく漫画であるような「心を読む」というより、相手の性格を考えて行動を予測しているだけなのではと思った。

 すると眼鏡の子はチラッとこちらを見て

「はい、心を読むというより、その人の顔を見て考えてる事を予想していると言った方が正しいのかもしれません」と私に話しかけた。


 ギクッ!心を読まれた!?私があたふたしていると、眼鏡の子は

「ごめんなさい、疑問に感じてるかなと思ったもので」と言って顔を赤くした。

「いや、本当にそう考えてたから驚いたよ。これは心を読めると言っても言い過ぎではないかもしれないね、凄いと思うよ」

「ありがとうございます……でも、このお陰で周りの人の考えや悪意がわかるようになって、他人と深く関われなくなってしまったんです」


 眼鏡の子の告白にチエは深く頷く。

「あーそうかもしれない、知らなくていい事まで知ってしまうみたいなねぇ。誰しも自分が一番だからねぇ、人知れず苦労してきた訳だ」

 何か上から目線だな、チエよ。


「ところで、心が読める事って誰か他の人は知ってるの?」

「いいえ、話したのは初めて。親にも話した事無いんです」


 親にも話した事が無い!?チエが驚いて聞き返す。

「エッ!初対面の私達に話して良かったの?」


 眼鏡の子は少し恥じらいながら答える。

「あの……私を心配して声をかけて来てくれたし、二人共、顔を見た瞬間に悪い人じゃ無い、信頼出来る人だって思えたんです」

「え〜!照れるなぁ、そんな大したものじゃ無いんだけどねぇ、リル〜」


 チエは褒められるのにめっぽう弱い。それにしても、こっちこそ、この子は信頼出来そうだと思った。おとなしそうだからコミュ障の私でも話しやすいし、是非協力してもらいたいけど、私の言う事を信じてくれるだろうか?心を読んで貰えばいいのかな?でも、心を読めるのってどこまでなんだろう。


「あ、あのー、信頼してくれてありがとう。実は私も秘密があって……それがなんだか分かったりする?」

「……いえ、何か秘密にしている事があって、それを打ち明けたい気持ちは伝わりますが、具体的にはわかりません」

 眼鏡の子は申し訳無さそうに言った。


「あ、イヤイヤ全然いいんだよ!えぇとー、私の能力は、あのー、突拍子も無い事なんだけど……よ、予知夢みたいなのを見る事があるの」

「予知夢ですか!」


 眼鏡の子の表情が明るくなる。良い反応をしてくれたので、挫けずに続ける。


「……で、これまた突拍子も無いのだけど、もうすぐ地球に隕石が落ちて人類滅亡かっていうのを、5人の能力者が防ぐっていう夢を見たの」

「エッ!はぁ……」


 ヤバい、引いている。我ながらツッコミどころ満載だからな。

 私がなんて言おうかあたふたしていると、眼鏡の子は私の考えを全て理解したかのようにニコリとして応えた。


「その二人目の能力者として私が選ばれたのですね。分かりました協力します!」


「エー!いいの?隕石ってぇ〜とか、何だ能力者ってぇ〜とか……」

 チエが驚いて口を挟む。

「オイコラ、チエが言うなって!でも、いいの?こんなフワッとした事に付き合ってもらって……」

「えぇ、自分自身でも正確には分からない所があるんですよね?でも、あなたが本気という事は分かりました。私なんかで良ければ、協力させてください」


 言葉に出来ない自分の気持ちが伝わっているみたい。何だか痒いところに手が届く感じだ。


「ありがとう!こちらこそ是非お願いします!そういえば、名前も言ってなかったよね、私は1年1組の藍川リル。こっちは私の唯一の理解者、市衣チエっていいます。あなたは?」

「1年4組の『遠童えんどうモノ』です。よろしくお願いします」


 ペコリとお辞儀するのを見て、チエも声をかける。


「よろしくね!でもさぁ、隕石落ちて来て、人類の大半が滅亡するとか言うんだよ、信じられるかい?」

「あれ?チエは信じてなかったの!?」

「イヤイヤ、半信半疑っていうか、隕石落ちるとか信じたく無いってのもあるしさ。リル自身だって100%信じてるわけじゃないでしょ?」


 もちろん予知夢ではなく、ただの夢の可能性もあるんだけど……他人を巻き込むので、ハッキリさせたいという、チエなりの気遣いなのかな。

 私達のやり取りを見てモノちゃんが問いかける。


「あのー、隕石が落ちてくるのはいつ頃なんですか?」

「あぁ、言ってなかったね。今年の夏らしいよ。そんなすぐなら、もう発見されててもいいんじゃないのかね?」

 と、チエが小馬鹿にした口調で言う。


「でも、隕石とか自ら発光しているわけじゃないし、月みたいに大きくはないだろうから、余程近づかなければ、発見できないかもしれませんね」

「あ、そういうもんかね?モノはそういうの詳しいの?」


 オイオイ、会ったばっかりなのに名前呼びすてかい。相変わらずチエは馴れ馴れしい。だからこそ、誰とでもすぐ仲良くなったりするんだけどね。


「いえ、詳しくは無いのですが、宇宙とか考えるの好きなんです。宇宙に比べると私ってなんて小さいんだろうって。些細なことで悩むなんてバカバカしく思えてくるんです……って、ごめんなさい話が逸れました。藍川さん自身も確証が無いってことも分かります。でも、可能性がある限り最善を尽くすのが良いと思います」

「ありがとう、協力感謝します!あと、さん付けとかよそよそしいからさ、私の事リルって呼んでくれていいよ。こっちはチエね。私も……モノって呼んでいい?」

「あっ、はい!モノって呼んでください………リル」

 頑張って言った感が可愛らしい。


「……うん、あと、敬語じゃなくていいよ、同じ1年生なんだから」

「あっ、それなんですけど……癖なんです。何か、こういう話し方じゃないと話せなくて。良く言われるんですけど……」

「あっ、そうなんだ!イヤ、いいよ特に問題は無いから」


 心が読めるせいで、他人と深く関われないと言っていたから、それもあるのかもしれない。


「よっしゃ~、そうと決まれば、まあ、明日から?3人で能力者探ししよう!モノの能力があれば、すぐ見つかるかもね」


 チエもモノが協力してくれてホッとしたようで、テンションが高い。


「そうだねー、モノは放課後、用事とか大丈夫?」

「はい、部活などは入ってないので空いています」


 それから3人で少し話しながらつくし台高校の最寄り駅――つくし台駅へと向かった。3人とも電車通学で私とチエは下り方面だけどモノは上り方面で、4つ程先の駅から通っているそうだ。


「また明日ね」

「はい、よろしくお願いします」


 駅に着くと、明日の放課後に、校庭の入口周辺で待ち合わせる事を約束してモノと別れた。モノの靴はすっかり乾いていた。


 電車の中でチエが話しかける。

「しかし、一時はどうなるかと思ったけど、能力者出会えたね」

「そうだね、大人しいタイプだから初対面なのに、あまり緊張しないで話せたよ。まぁ、モノも同じように思ってるかもしれないけどね」

「そうだねー、でもリルは仲良くなると図々しいけどね、よくわからない漫画勧めてきたり」

「ちょっと、よくわからないって事は無いでしょ!」

「ゴメンゴメン、冗談だよ!それにしても今日が水曜日でしょ、この調子なら、今週中に5人揃うんじゃないかなー」

「ははっ、だといいけどね」


 相変わらず隕石を防ぐ方法は思いつかないが、早くも一人能力者を見つけた事で、何だか上手くいくような気がした。私の冒険の幕開けだ。そんな高揚感を抱えながら、それぞれの家路についた。

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