第2話 藍川リルと市衣チエ

「あのぉ、高校に入る少し前の話なんだけどさ、私ってかなりの人見知りじゃん。それでこの高校には誰も知り合いいないからさ、ボッチになったらどうしようって凄い心配してたんだ。そしたら、夢見たんだ、隣の席の子と仲良くなって楽しく高校生活を送れるっていう……だから不安だったけど本当に隣のチエが話しかけてくれて仲良くなれて……うん、チエには感謝してるみたいな」

「おいおいー、なんだよーいい話になっちゃってるじゃないかー」

 そう言いながらチエも照れ臭そうにしている。


「ハァー、まあいいや、リルがここまで主張するのは好きな漫画を勧めるとき位しかなかったからな、真剣に話を聞こうじゃないか。で、隕石がどうしたって?」


 何だかぎこち無い空気になってしまったが、やっと身を乗り出してくれた。私はようやく本題に入る。


「……でさー、それが巨大隕石の衝突を回避するには5人の少女の能力者が必要っぽいんだよ」

「能力者ねー、それはどこにいるんだい?」

「それを探すのを手伝って欲しいのさ!」

「探す〜?日本中をかい?そういうのも夢で見てないの?」

 チエの眉毛が片方だけ上がり、渋い顔をする。


「うん、それがね、顔とかは分からないんだけど、5人共うちの高校――つくし台高の制服を着てたんだ」

「全員うちの生徒〜?随分手近で済ませたなオイ。そんな近くに能力者っている〜?」


 チエは顎にシワを寄せ、ますます渋い顔をする。かなり憎たらしい顔だ。


「だってそうだったんだから仕方無いでしょ!」

「じゃあ、その内集まるんでしょ、夢の通りなら」

「それが先に見た夢では、巨大隕石が落ちて地球が壊滅状態になっちゃったんだよ。それを実現させたくないって思ってて見たのが5人が集まって防いだ夢だから、これは頑張って5人集めないと先に見た夢の通りになっちゃうと思うんだ」


 そう、この5人集めるという条件の達成は、私が人見知りな事もあり、とても困難に思える。その為にチエに協力を頼みたいのだ。


「しかも夏服だったから、今年の夏の出来事だと思うんだ。だから急いで集めないといけないんだよ」

 チエは相変わらず渋い顔で応える。


「え〜そうなの?急だなぁ、しかし能力者を集めるっていってもねぇ、一体どんな能力よ?」


 それはもっともな疑問だ。能力の中身については夢に出てきていないので、確証は無いけど……。


「……まずは、私の予知夢の能力でしょ」

「あー、リル入ってんだ!」

 チエは半笑いだ。かなりムカつく。


「そりゃそうでしょ、予知夢で人類の危機を未然に防ぐ。キーマンでしょ」

 ちょっと勢いで言ってしまった。


「ふ、ふーん。自分で言うんだ。まぁそれは良いとして、後の人の能力は?」

「そうねぇ、やっぱ隕石を操る能力かな」

「おーい!!そんな都合の良い能力あるかー!?そいつ1人いれば充分じゃね?」

「ま、そうだよね……じゃあ隕石を弾く能力とか?」

「って、さっきから能力がストレート過ぎるでしょ!もしあったとしても、そいつ自分の能力確かめる機会無いよね?もうーリルさぁー、真面目に考えてんの?」


 我ながら無理があるなとは思うけど、これというのは考えつかない。


「いや、考えてはいるんだけど……あっ、先生入ってきた。帰りのホームルームが終わったら、ちょっと探しに行こうよ!」


 そう言って私達は座り直し、何となく担任の話を聴く。テストが終わったからと言って浮かれるなとか、ありきたりな事を話しているが、私は見た夢の事で頭が一杯だ。

 今日は7月14日の水曜日、やっと期末テストが終わり、あと2週間もすれば嬉しい夏休みなのだが、休みに入ると他の生徒と会いづらくなってしまうので、出来ればそれまでに見つけたいと思っている。


 巨大隕石が落ちて人類が滅ぶなんて、とんでも無く恐ろしい事だ。

 本当に予知夢だったのか確証があるわけじゃない。ただの夢の可能性もある。でも隕石が落ちた時の衝撃を覚えている。その時私が生き残ったかどうかは定かじゃないけど、とても辛く悲しい気持ちが脳裏に焼き付いている。

 もしこのまま行動しないで、その時を迎えたらどんなに後悔するだろう。だったら例え無駄になったとしても行動するべきではないかと思う。

 それに私が地球を救うんだというヒーローチックな妄想で、少しワクワクしてしまう自分もいる。しかし、隕石から守る能力っていったい何なんだろう?肝心な能力を使ってるような場面は夢に出てきていないのだ。

 

 日直の号令で1日が終わる。さて、これからが本番だ。でもどこから探せばいいやら……。


「さあ行こうかチエ!」

 とりあえずチエに声をかける。


「あー、行く?探しに、やっぱり?」とチエは怠そうに返事をする。


「行くしかないでしょ……と言ってもどこ行こ?」

「わー、ノープランかよ!仕方無いな〜能力持ってそうな人がいるとこだよねー……いやー、全く思いつかない」

 チエが両手を広げておどける。


「ちょっと、全然考えて無いでしょ!……うーん、例えばボール使う競技の人とか……」

「えっ、もしかして隕石も丸いからって発想?」

 図星だ。チエに悟られるとは。


「いーじゃん!普段使ってる技が発展して能力発現するとかね」

「ほう、さすが普段漫画ばかり読んでるだけあって想像力豊かだね」

「ん?褒めてるのか、バカにしてるのか……」

「褒めてるに決まってんじゃーん!よし、それじゃあ、校庭と体育館、どっちがイイ?」


 二人で窓の外を見た。太陽がガンガンに熱を放っている。


「体育館……だな!」


 そう言って私達は教室を後にした。

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