6話 ミフネ「過去と現在」

   △



「…………!!!」

「今のわたしは、あの頃と違う。ただった頃とは違う。生きとし生けるものとして、生き物と同じ肉体からだを持って、この世界こっち側るんだよ。」


 おれの知らなかった、おれがずっと知りたかった、たったいま本人の口から聞かされた、『あの時』の真実ほんとう


「もう視えなくなったりしない。今度は、れ合うことだってできる。だから……んへへっ。 こうして逢いに、きたんだよ……」

「まじでか、そんな…………」


 なるほど。それが先刻さっきおれに何か違和感のあった理由だ。

 そう、コンねーちゃんは人間じゃない。勿論そのことは幼いながらにも理解できてた。動物耳と尻尾があって、すり抜けてさわれなくて、いつだって森の中にいて……きっとユーレイか、ヨーカイか何かだろうって。

 だから、服つかまれたり、手を引いたまま走ったり……、なんて。

 そんなの、できなかった。できなかったはずだ、不可能だった。あの頃は……!


「まじか……。いや、マジで……?」


 ………………、だ。

  だ。

 おれが、今……(マジかよ)と思っているのは…… 正直いうと、そこじゃない。

  

 申し訳ないが そこじゃない。すごい話なハズなのに、イマイチあたまに入ってこない。おれにとっては、それよりも。




『ヒッ、ク、ぐす……っ、ぅ。 コンねーちゃん……おれの、こと……っ、キライになっちゃったの……?』


『う゛ぅ……っ!ずび! っう゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーっ………………』 


『あやまるから……でてきてよ、もどってきてよ あいたいよ……』


『おれ……、 コンねーちゃんのことが、すき でした』


 

 ・

 

 ・

 

 ・


  

(あれ、ぜんぶ聞かれてたのかよおおおお……………………!!!!???!?!??)



 うそだろ。

 本当にいないと思ってたんだぞ。だから……っ、

 幼かったとはいえ、あんな。

 あんな……おれの、おれの…………アンナ……!??



「あ゛あああああああああああ!!!!!!!!!?!!!!???!?(発狂)」

「なわぁっ!? なっえっ、なにのじゃあ!!? え!?」

 

「ア゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 

 落ち着くまでに、3分くらいかかった。

 


 ・


 ・


 ・ 

   

 

「まっ、まぁ……その、うん。 納得いったよ、あの時のこと。……だから………………さっきは。責めるみたいに、おれ、怒鳴っちゃって…………ごめん。」

「そんな、そんなの全然っ……! わたしの方こそ、誤解させちゃって…… 幼いあなたを傷つけたこと、ごめんなさい。本当に…………」


 おれが無事に平静を取り戻した(?)後、ふたりお互い これでもかってほど頭を下げあって、謝罪を交わした。


「うん……大丈夫。コンねーちゃんは悪くないよ」

「ん……」


「………………」

「………………」


 …………双方、沈黙。

 いや、それで……なんだろう。うん……どうする?どうすればいいかな、ここから?

 そわそわ…………あ、目が合った。


「うぁっ? わ、えと………… んへ、えへへっ」


 小さき少女、ぱっちりと目を見開いて、一瞬わずか視線を逸らし。ぽっぽと頬を赤く染め……、

 はにかみながらの、照れ笑い。


「………………!!!?」

 

 は? なんだ、それ?

 コンねーちゃん……。




 

 かわいいな。



 


「だぁ?!!!!!!!!(中国拳法の構え)」

「ひゃあ!?」


 思わず浮かべてしまったIQ3くらいの感想を、ドンと足で地面を踏み抜き 気合と共に吹き飛ばした。ビクゥ!と驚いて声をあげてしまうコンねーちゃん。瞳に怯えの色が混じった。いかん、おれが奇人だと思われてしまう。


 適当に話を振って誤魔化さねば……いや、そもそも何を話そう? このひと(?)とは、そりゃあもう、たくさんの話したいコトがあったはずだけど……でも こんなさ、いきなりでさあ。……困るわ。余裕も、アポもなしにさぁ……アポて。あぁ、ダメだ。まだギリギリ頭がついてこれてないな? んぇーっと……、話題、アレだ、かぶとむし…………


「………………そっ、それで、そのぅ……」

「っは」


 おれがゴチャゴチャと、混乱とっ散らかった思考に深く迷い込んでるうち、向こうが先に口を開いた。


「これでもう……あの時の誤解は解けたよね? だからっ、ほら……! ね!? みぃ君……ねっ!!」


 もじもじ、あせあせ。ほっぺを赤くしつつ、ちらちらと視線を上げたり下げたり。

 くっ、そういうの、キュンとする。…………いや、そうじゃあ ないよ馬鹿。

 

 しかし…… 「ね!?」と 言われても。わからんぞ、なんでしたかね……?


「〜〜〜〜〜っっ!! だから、はなし!戻すけどっ、 …………みぃ君の答えは……どっ、どうのじゃ?」


 答え。 え、答え…………?

 そして、なに? どうのじゃ?

  “どうのじゃ”…………???


「みぃ君は わたっ、わたしの! コンのこと……っ! “お嫁さん”にっ!!! ………………して、く、くれっ ますか…………?」

「 あ 」


 そっか。そうだった。

 そういえばだ。そうじゃん最初に言ってたよ。おれの所に来た理由。

 もとはと言えば、おれの方から告白していたわけで。独り言のつもりだったそれは、実は聞かれていたわけで。向こうからすれば、おれの告白を受けてからの このプロポーズとなるわけで……。


 そうか…………。

 

 なるほど、そうか。 

 ………………よし。ここは男らしく、ビシッと答えを出さなきゃだ。


「コンねーちゃん」

「!!! はっ、はいっっ!!!」




「ごめん」




「…………………………え」




「コンねーちゃんの想いには、応えてやれない。ごめんよ」

「なっ、あっ?えっ??? ………………っぁ、そ、んなっ、どうして……」

「…………」



 

「こうして会いにきてくれたのは……素直に嬉しいよ。でもコンねーちゃん、おれは……っっっ!!」




 



「もう恋人こいびとがいるんだよね」

「ええーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!??!?!!?!???」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る