第7話 浜辺

一緒に稽古をするようになって初めて知った。

同じくらいの技量だからこそ、鏡写しのように相手のことがわかる。そして相手を見ていると自分のことも今までよりよくわかる。

いつしか互いのことを『アッシュ』『アルペ』と呼ぶようになって、稽古以外の時間も一緒に過ごすようになって、デートにも行くようになって。


月日が経つのは早いもので、二人が出会ってから八年もの歳月が流れていた。

この日、アスターとアルペストリスは近くの浜まで来ていた。


「やっぱりここの海は良いわね。澄んでいて、深くて、美しい。時に残酷なまでに。何より万が一の時は天然物の要塞にもなるわ」


ざ、ざざ、と今は穏やかに寄せては返す海を見て言う。


「そうだね。僕らは海で育ったからね。ここで戦う僕たちにとって、海はゆりかごで墓場だ」


アルペストリスも燦然と陽光を受けて輝く波に目を細めながら返す。

ふと下を向いたアッシュが何かに気づいて声を上げる。


「あっ、見て!この貝殻とあの貝殻、ぴったり合うんじゃない?」


アルペストリスもすぐに二つの貝殻に気づく。


「ああ、ほんとだ。元々ひとつの合わせ貝だったんだ。よく見つけたね」


そっと大切そうに二つとも拾い上げる。


「……なんだか私たちみたいね。二枚貝は対の貝殻以外とは合わないらしいから」


拾い上げた一対の貝殻は、恥ずかしげに染まったアッシュの頬と同じ色をしていた。

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