第6話 変化
スカビオサ家にアルペストリスが来てから一週間。二人はお互いに相手と互角であることを悔しく思っていた。もちろん今まで負けなしだったわけではないが、負けた時でもこれから研鑽を積めば勝てるイメージができた。速さが足りない、動きの正確性が足りない。それさえ克服すればこの相手には勝てる━━。しかし今、彼らはどれだけ鍛錬を重ねようと相手に勝てる日が来るとは思えなかった。自分が強くなったところで、相手も確実に同じだけ、いやそれ以上に強くなっている。それがわかっているから、来る日も来る日も欠かさず鍛錬に励んだ。少しでも相手を追い越すために。
「あっ、最後の一矢だけ外した……」
アスターはこの日は三十射の弓を引いていた。三十射目を引き終わったところで、既に今の射のどこがいけなかったかを考えはじめていた。
そこへ普段から一緒に鍛錬をしている少年たちが寄ってきて口々に言った。
「わっすごい、アスターほぼ全部当たりじゃん!」
「しかも真ん中ばっかり……!」
「どうやったらこんなに当たるんだ……」
「え、あぁ……自分と的以外何もないと思えるくらい集中すること、かな?」
少年たちの称賛を曖昧に聞き流し、おそらく彼らにはわかってもらえないであろうアドバイスを口にする。
本当は彼女自身が第三者視点のアドバイスが欲しかった。けれど彼らにはそれを求められないのも理解していた。今は父も兄たちも忙しい。自分で気づくしかない。でも自分一人では限界がある。悔しい、まだ強くなれるのに。
すると。
「……今のは、風の流れを読み切れてなかった。あとはちょっと力みすぎ。ちゃんと息をした方がいいよ」
今まで静かに見ていたアルペストリスはそう言った。
アスターが驚いて彼の方を見やると、アルペストリスは出会った時と同じ真摯な目でアスターを見つめていた。
「……ありがとう。自分じゃ気づけなかったから、助かった」
「うん、助けになったなら良かった。ねえ、僕のも見てくれないか」
「もちろん、私で良いなら」
「多分君が一番わかってくれるだろう」
「……そうかもね」
こうしてアスターとアルペストリスは共に鍛錬を重ねるようになっていった。
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