第2話 幼子の才能

「もーいーかい?」


子供特有の元気な声が響く。


「まぁーだだよ!」


叫んだ男の子の変声期前の甲高い声に、少女━━アスターも負けじと叫び返す。今は何人かの友達と共にかくれんぼをしている。今日は彼女の六歳の誕生日なのだ。

まだ幼いながらに、既にアスターは島一番の美貌の持ち主として評判だった。特に、彼女の輝くばかりの豊かな銀髪と海を写したような碧眼はまるで宝石のようで、誰もが振り返るほど。


「アスター、みぃーつけた!」


鬼役の少年は嬉々としてそう言い、アスターの腕を掴んだ━━いや、彼が掴んだと思ったのは細枝だった。


「ふふ、私はこっちだよ〜」


その様子を少し離れた木陰から見ながら、歌うように小さく呟いた。

こうしてあちこちを逃げ隠れしながら走り回ること一時間後、アスターの二番目の兄ロバートが彼女を呼び戻しにやってきた。


「やあ、楽しそうだね。かくれんぼかい?アッシュはどこかな」


「あ、ロバートさま!こんにちは!今はかくれんぼしてるんですけどね、アスターがね、全然見つからないの」


「そうか、教えてくれてありがとう。それじゃあ私も一緒に探そうかな」


そう言ってぐるりと見回し、声を張り上げる。


「アスター、そろそろ君の誕生パーティーに行く時間だよー」


だがロバートも鬼役の少年と同じくアスターを見つけられなかった。


「おーいアッシュ、どこに居るんだ?かくれんぼはもう終わりだよ。家に帰ろう」


もう一度大きな声で呼びかける。すると突然、アスターがなんと視界の上から飛び込んできた。


「本当?本当にもうかくれんぼ終わったの、兄様?」


「なっ、アスター?!お前今どこから……!」


きょとんとした顔でロバートを見上げて言う。


「どこって、あそこの木の上からだよ?ほら、あの枝から飛び降りたの」


その高さを見てロバートはぎょっとする。


「何をしているんだ、怪我でもしたらどうする!」


「大丈夫よ、もっと高いところから降りたことだってあるんだから!」


ロバートはもはや驚きすぎて声も出ない。

そこへ鬼役の男の子が口を挟む。

「えー、アスター木の上にいたの!君いっつも隠れ方が違うし、突飛もないところに居るから全然見つけられないんだよぉ。そのくせ僕らのことはすぐ見つけちゃうし」


「ふふふ、私こういうのは得意なの」


憧憬と少々の不満を口にした男の子に自慢げに返して、急かすように兄の手を取る。


「ほら兄様、早くしないとパーティー始まっちゃう!」


ロバートはアスターに手を引かれるまま帰路を歩きながら、目を見張るべき妹の身体能力と観察眼について想いを巡らせていた。

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