ファイル8
その日の夜。
寝支度を整えた侑芽は、いつものようにレムに寝る前の挨拶をしにリビングに入った。
「レム、謎が解けたよ。今日は推理ショーから始めるから、よろしくね」
レムの頭を撫でながら、侑芽は声を掛ける。
おやすみ、と言って2階の自室に上がった。
ベットに入ると、気持ちが昂っているからか最初は目が冴えていたが、しだいにまどろんできて夢の世界に落ちていった。
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目を開けると、昨夜いた『Cafe &Bar カモミール』の入り口前にいた。
周りには誰もいない。
扉を開けて中に入ると、関係者全員が揃っており、侑芽の方へ一斉に視線を向けた。
「越智先生!犯人とトリックが分かったって本当ですか!?」
舟漕警部がズレたメガネを直しながら、驚きを隠さずに問いかけた。
他の面々も、皆一様に落ち着きなくそわそわしている。
「はい。そして宝石がどこにあるかも分かりました。
今から皆さんに今回の事件の真相をお話しします」
侑芽は顎に手を当てて、店内をゆっくりと歩き始めた。
「まずお話ししておきたいのは、この宝石泥棒は事前に計画した犯行ではなく、突発的な犯行だったと言うことです」
「なぜそうだと?白昼堂々の犯行だったからですか?」
「それもありますが、宝石店から出てきたご婦人のカバンをひったくった点です。
店を出た所をいきなりひったくられたということは、犯人はご婦人が店から出てくるのを見張っていたことになります。
しかし、宝石店は1日に何個も商品が売れるわけではありません。したがってターゲットの数は必然的に少なくなります。それに店内にお客さんがいるからといって必ず購入するわけでもない。
そんないつ店を出てくるかも分からない、宝石を購入しているかも分からないお客さんを狙うために、こんな晴れた中、レインスーツという目立つ格好で事前に宝石店を見張るなんて不自然だと思います」
「た、確かに言われてみればそうですね」
警部は侑芽の推理を警察手帳にメモしていく。
「おそらく犯人は、偶然ガラスのショーウィンドウ越しに購入手続きをしている婦人を見たんでしょう。
そこで泥棒する事を思いついた犯人は、持っていたレインスーツを着用し、犯行に及んだのです。
ところが、警部たちがたまたま近くをパトロールしていたので、思いのほか早く警察に追われることとなった。
だから仕方なく、このお店に一旦逃げ込んで、警察をやり過ごそうとしたんです」
店内の緊張感がどんどん上がってきた。
全員身動きをせず、固唾を飲んで侑芽の推理に耳を傾けている。
「それで、越智先生。その犯人は一体誰なんですか?」
「それは、1つの疑問点から推理できます。
これが突発的な犯行だとすれば、なぜ犯人は変装用のレインスーツを都合良く持っていたのか?という点です。
さっきも言った通り、今日は綺麗な秋空で、過ごしやすい気候です。そんな天気でレインスーツを普通は持ち歩かないと思います。
しかし、この中で1人だけ、レインスーツをあらかじめ持っていた可能性が高い人がいます」
容疑者たちはお互いの顔を見合わせて、それぞれ微妙に距離を置いた。
「消去法で行きましょう。
まず、別戸さん。別戸さんは徒歩と電車でここまで来たそうなので、持っていた可能性は低いです。
次に根牟田さん。車通勤だそうですが、傘ならともかく、屋根がある車にレインスーツを積んでいる可能性は低いと思います」
侑芽はそこまで言うと、歩みを止め、残る人物に視線を向けた。
「・・・そして間倉さん。あなたはバイクで駅まで来たそうですね。バイクに乗る方は、突然雨が降ってきても良いように、シートの下の荷物入れに常時レインスーツを入れてる方がいると聞きます。つまり」
1番の見せ場であるここで、侑芽は掌を該当人物に差し向けて高らかに宣言した。
「宝石泥棒の犯人は間倉さん、あなたです!」
探偵は夢中で捜査中 雪片花 @yukikatahana
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