ファイル7
「面白かった〜!原作に忠実って感じだし、役者さんもピッタリだし。あのトリックは映像で見た方がわかりやすいね。あ〜見て良かった!」」
帰り道、望夢相手に侑芽は楽しそうに映画の感想を語った。
そんな侑芽を、望夢は自転車を押しながら眺める。
「そりゃ良かったな。でも、今からうちで何を食べるかも考えておいた方が良いよ」
今から望夢の自宅でもあるカフェでお昼ご飯を食べるのだ。
しばらく歩くと、昨夜の夢に出てきたカフェによく似た、ログハウス風の店が見えてきた。
看板には『Cafe&Bar ジャスミン』と書かれている。
望夢はガレージに自転車を停めて、カゴに入れていた侑芽のポシェットを取って渡した。
ドアベルを鳴らしながら中に入る。内装は昨夜のカフェより少し広く、テーブルが1つ多い。
「侑芽ちゃん、のんちゃん、おかえりなさ〜い!カウンター座ってて。すぐ行くから〜」
望夢のお母さんが男性のお客さんにサンドイッチを出しながら、こちらに声をかける。このお客さんも常連なので「おう!2人ともおかえり!」と声をかけてくれた。
席に座って荷物を置くと、すぐに望夢のお母さんがお冷とメニューを持ってきた。
「いらっしゃい!侑芽ちゃん久しぶりね。映画面白かった?」
「おばちゃん、お久しぶりです。映画とっても面白かったですよ。入場前にのんちゃんが売店でジュース買ってくれたんです。ありがとうございました」
「まぁまぁ良いのよ。そのためにお金持たせたんだから。こちらこそのんちゃんの映画行くのに付き合ってくれてありがとうね〜」
「母さん、余計なこと言うなよ!
ったく、2人とも!のんちゃんはやめろって言ってんのに・・・」
2人が楽しそうに話す横で、望夢は苦い顔で頭を抱える。
「さ、侑芽ちゃん。お腹空いたでしょ?なんでも好きなもの頼んで良いからね。お代は心配しなくて良いのよ。おばちゃんご馳走してあげるから」
望夢のお母さんが小さいアルバムのようなメニューを侑芽に渡す。
「ありがとうございます。でも、私もお母さんからお金をもらっているので、払わせてください」
「あら、正子さんてば気を遣ってくれたのね。じゃあ、ありがたく頂戴することにするわ」
メニューを開くと、美味しそうなご飯とドリンクの写真が次々目に入ってくる。
悩んだ挙句、侑芽は大好物のオムライスと食後にアールグレイのアイスティーを。
望夢はナポリタンと食後にクリームソーダをそれぞれ注文した。
待つ間、望夢とさっきの映画のことを話していると、望夢が着ているパーカーの襟元に、ワイヤーのような透明で細い輪っかがついていることに気がついた。
「あれ?のんちゃん、首のところなんかついてるよ?取ってあげようか?」
そう言うと、望夢はバッと襟元に手をやった。
「え?・・・うわ、最悪。大丈夫、自分で取れるから・・・」
望夢はカウンター席を降りて、レジのところにあるハサミで輪っかを切った。
「昨日タグ全部切ったと思ったのに・・・。なんでこんな所についてんだよ・・・」という望夢の愚痴は、幸いなことに侑芽には聞こえていなかった。
その後、運ばれてきた料理は相変わらずどれも絶品で、侑芽は幸せな気持ちで食事を終えた。
食後のドリンクが運ばれてくる前に、2人の前にフルーツタルトが置かれた。
「あれ?おばちゃん、ケーキは頼んでないですよ?」
「良いのよ。これはおばちゃんからのサービス。新メニュー用に試作したケーキなんだけど、良かったら食べて」
「やったぁ!ありがとうございます!」
宝石のように輝くフルーツタルトを眺めていると、不意に望夢のお母さんが「あ!」と声を出した。
「ん?どうしたんですか?」
「ごめんね侑芽ちゃん。おばちゃんうっかりしてて、アイスティー淹れるの失敗しちゃった。
すぐに作り直すからちょっと待っててくれる?」
望夢のお母さんが失敗したアイスティーのグラスを目の高さに掲げで、申し訳ない表情をする。
「なーんだ。そんなの全然気にしないでください。
あ、もしかしてそれが前におばちゃんが言ってた・・・」
「そうそう。侑芽ちゃんよく覚えているね。こんな風になるのがいわゆる───」
その後の言葉を聞いて、侑芽の頭には昨夜の夢中町の出来事が一気に駆け巡った。
そして次の瞬間、全てが一本の線で繋がったのである。
「そうかそうだったんだ・・・。この方法なら出来るかも。まさかこんな前の記憶が元になったトリックだったなんて・・・」
呟く侑芽に、隣にいる望夢が訝しげは視線を向ける。
「侑芽?何、何の話?」
「あ、いや、何でもないよ!昨日読んだミステリー小説のことでちょっとね」
あはは、と笑って誤魔化す。
そうこうしているうちに、2人のドリンクが運ばれてきて、デザートタイムとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます