ファイル6

ピピピッピピピッ


朝7時を知らせる目覚まし時計の電子音がベットの横で響き渡る。

侑芽は布団から手だけを出してその音を止め、ムクリと起き上がると、あくびをしながら大きく伸びをした。


「ふあ〜。もう朝かぁ。もう少しで解決しそうだったんだけどなぁ。

ま、続きはまた今夜頑張ろうっと!今日はのんちゃんと約束してるから準備しなくっちゃ」


(これまでの経験から、時間の体感は、睡眠時間1時間で夢中町の約15分にあたることが分かっている。つまり4時間睡眠で1時間、8時間睡眠で2時間を夢中町で過ごせるということになるのだ)


侑芽はベットから降りると、部屋を出て1階への階段を降りていく。

洗面所の扉を開けると、侑芽のお父さんが寝ぼけ眼で歯を磨いていた。


「侑芽ちゃんおはよぉ〜。お休みなのに早起きだねぇ」


「おはよう、警部・・・じゃなくてお父さん!今日はのんちゃんと映画に行くから10時に駅で待ち合わせしてるの」


けいぶ?と不思議そうに首を傾げるお父さんだが、深掘りはしてこなかった。


「気をつけていってらっしゃいね。お昼ご飯はどうするの?」


「のんちゃんのおばちゃんのお店で食べることになってるよ」


「それはよかったね。おばちゃんによろしく言っといてね」


のんちゃん、とは侑芽の幼馴染で幼稚園からの同級生。家族ぐるみで仲良くしている子だ。

のんちゃんの両親は自宅の1階でカフェ&バーを営んでおり、昼のカフェタイムはお母さんが。夜のバータイムはお父さんが担当している。

侑芽は小さい頃からこの店によく通っていた。


侑芽が洗面所で身支度を整え、キッチンに入ると、侑芽のお母さんが朝食の用意をしていた。


「あ、侑芽ちゃんおはよう!今日はレムのお散歩行けそう?」


「うん。今から行ってくるね」


「気をつけてね。帰ってきたら朝ごはん食べられるようにしておくから」


テキパキと家事をするお母さんの左手の薬指には、ブラウンに輝く指輪が光っている。


「ねぇ、お母さん。その指輪についてる宝石ってブラウンダイヤモンドだっけ?」


「うふふ。そうよ!綺麗でしょう?

そう、これをお父さんがくれたのは、初雪の降る12月のことだったわ・・・」


うっかり例のエピソードが始まりそうだったので、侑芽は慌てて話を切り上げて、リビングのクッションの上でまどろんでいるレムのそばに行った。

頭を撫でながら朝の挨拶をする。


「おはよう、レム。昨日はお疲れ様。なかなか興味深い依頼だったね。今夜もアシストを頼んだよ」


レムはクゥンと鳴いて、尻尾を振りながら侑芽の腕に鼻を擦り付けた。


「よしよし。まずはお散歩だね。久しぶりに私と行こう!」


レムの首輪にリードをつけて家を出る。

外は昨夜の夢中町のような、晴れ渡る秋空が広がっていた。



##########




10時。侑芽は待ち合わせ場所である、映画館の入り口前にいた。

本を読んで待とうとポシェットをゴソゴソしていると、後ろから足音がした。


「侑芽〜、待たせてごめんな。自転車の鍵がなかなか見つからなくて時間食った」


侑芽が振り返ると、そこには白のパーカーに濃紺のデニムを履いた少年が立っていた。


「あ、のんちゃん!私も今来たところだから大丈夫だよ」


そう、この少年は『のんちゃん』こと侑芽の幼馴染で同級生の宇筒望夢うつつのぞむである。


「しー!外では望夢君って呼んでって言っただろ?もしくは宇筒君!」


「えぇ〜。のんちゃんはのんちゃんなのに・・・」


釈然としない侑芽だが、上映時間が迫っているので、ひとまず自分を納得させて望夢と映画館に入った。


今日は侑芽の好きな推理小説が実写映画化したので、それを見に来た。

クラスで友達に、見に行きたいと思っていることを話していたら、望夢が「俺もそれ読んだことあるし、行く?」と話に入ってきた。それで今回見に行くことになったのである。


(でも、のんちゃん、小説はノンフィクション物しか読まないって前に言ってたけど・・・。フィクションも読むようになったのかな?)


入場の列に並んでいる時に、侑芽の頭にはこんな疑問がよぎったが、特に気にも止めなかった。

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