ファイル5

侑芽、レム、警部の3人は一旦店の外に出てテラス席に座った。

容疑者達は店内で待機してもらい、警官が見張っている。


侑芽はお手拭きで手を拭いてから、先ほど注文したアイスティーを一口飲んだ。


「はぁ〜美味しい!ティーパックも良いけど、茶葉から入れた紅茶は贅沢だなぁ」


「侑芽ちゃん紅茶好きですもんね。僕も入れてもらったホットミルク頂きます」


レムは相変わらずニコニコしている。ご主人様が楽しそうならこの男は満足なのである。

そんな2人を尻目に、警部はお冷の入ったグラスを一気に煽る。

お冷グラスの氷がカランと音を鳴らしたと同時に、話を切り出した。


「で、越智先生。どうでしたか?犯人の手がかりは何か掴めましたか?」


聞いていた感じでは、侑芽は事件に関係がありそうな、ないようなことを聞いていた気がする。

ところが、侑芽は確信めいた瞳を光らせた。


「はい。犯人の目星はつきました」


「えぇ!?ほんとですか!?」


警部は思わず立ち上がった。


「で、では宝石の場所も・・・?」


「見当はついていますが、確信はまだ。そこで警部に確認したいことがあります」


「な、なんでしょう?」


警部はネクタイを締め直して、再び腰を下ろした。


「警部達がここに踏み込んだ時、容疑者の方達はみんなカウンター席の所にいたんですよね?

でも私が来た時には、別戸さんや間倉さんのお冷やアイスティーのグラスが何もなかったです。片付けちゃったんですか?」


「あぁ、それはですね。身体検査の時にちょっとしたハプニングがありまして・・・」


それは容疑者達の持ち物と身体の検査をしていた時。

男性は警部、女性は婦人警官が担当し、根牟田→間倉→別戸の順で検査を行った。

間倉が席に戻り、別戸が化粧室に向かった時に、カバンが間倉のアイスティーのグラスにぶつかってしまい、床へ盛大にぶちまけてしまったのだ。


「幸いグラスは割れなかったんですが、フローリングが水浸しになりましてね。

別戸さんが謝りながら慌てて氷を拾おうとしたんですが、間倉さんと根牟田さんが『自分たちが片付けるから大丈夫』とおっしゃったので、私を含めた3人で床を掃除しました。その流れでカウンターの上も片付けたのです」


この話を聞き、侑芽はほくそ笑む。自分の考えは確信めいてきた。しかしまだ何かしっくりこない。


「確かにこの方法なら宝石を隠せるかもだけど・・・。でもなぁ〜すぐバレそうな隠し場所なんだよね・・・何かトリックがあるのかな」


侑芽はブツブツ言いながら、思考の海に沈む。


この世界では、侑芽の知らないことは出てこない。

覚えているかどうかは別として、現実世界で夢が1度は見聞きしたことで形成されているので、今回トリックがあるとすれば、必ず今までの生活にヒントがあるはずなのだ。


「こうなったら、もう一度現場を見て捜査をしよう!」


侑芽が椅子から立ち上がり、入り口に向かおうと歩き出す。

しかし、その横で空を見上げていたレムに袖を引かれた。


「ん?どうしたのレム?」


「侑芽ちゃん、残念ながら今日の所はタイムオーバーのようです」


侑芽はレムと同じように空を見上げる。

晴わたる青空に、少しずつ霧のようなモヤがかかり始める。

そしてそれはあっという間に侑芽の周りを覆い、次第に意識が遠のいていった。

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