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「お話ありがとうございました。このお店と皆さんの持ち物などから問題の宝石が出てこなかったことは警部さんから聞いています。それを踏まえていくつか質問させて下さい」


侑芽はまず店長の根牟田に視線を向けた。


「まず根牟田さん。事件当時はあなたを含めた3名が店内にいたことは分かりましたが、それ以前は?ひったくりの犯行時刻である1時半にお客さんといたのなら、あなたにはアリバイがあることになるのですが」


「それが・・・今日は1時過ぎからこのお2人が来店するまでノーゲストだったのでアリバイがないんです。電話もかかって来なかったですし・・・」


「なるほど。では次に別戸さんと間倉さんの来店時を教えてください。。警部が来た時刻とより近い時間の方が犯人である可能性が高いです。

それと、お2人の来店された時の状況をできるだけ細かく、詳しくお願いします」


根牟田は口髭を触りながら目を閉じて、当時の状況を思い出そうとしている。


「はい・・・。まず、お2人の来店時間はほぼ同時刻でした。ええと・・・先に来店されたのは間倉さんですが、腹痛に見舞われたのでトイレを貸して欲しいとの事でお貸ししました。

その少しあと、別戸さんがされました。ちょうどその時、外でパトカーのサイレンが聞こえたので、何かあったのかな?って2人で話していたんです。それから『コーヒー豆100gお願いします』とご注文頂いて・・・」


「あ、違うわよ根牟田さん。私が買ったのは150gよ」


「え?あ、すみませんそうでした。ちょっと緊張していまして」


根牟田は相変わらず額の汗をとめどなく拭いている。


「大丈夫ですよ。どうぞ続けてください」


「はい。別戸さんがご注文したと同時くらいに、間倉さんがトイレから出てこられて、飲み物を頼まれるとの事だったのでカウンター席にご案内し、お冷とメニューを出しました。すぐに『アールグレイのアイスティーで』とおっしゃったので作り始め、別戸さんにも座ってお待ち頂く為にカウンター席にお座り頂き、お冷を出しました。

あ、そういえばその時別戸さんもお手洗いに行かれていましたね。手を洗うとの事で」


細かく、と言う侑芽の言葉に忠実に答えてくれる根牟田店長は、細かすぎるくらい細かい話を続ける。


「間倉さんのアイスティーをお出しした後、別戸さんとお話ししながらコーヒー豆を紙袋に詰めていたら、こちらの刑事さん達がこられたと言うわけです」


「なるほど。一応こちらのメニュー表を見せてもらえますか?」


根牟田から渡された小さいアルバムのようなメニューを開き、侑芽は目を通す。アイスティーの欄には


『アイスティー(EG)(DJ)(JT)からお選びできます』


と書かれている。

(ちなみにそれぞれ、アールグレイ、ダージリン、ジャスミンティーの略称)

コーヒー豆の欄には


『コーヒー豆テイクアウトできます。

100g、150g、200gからお選び下さい』


と書かれている。証言に矛盾はないようだ。


そして、さっきの根牟田の話なら、誰にでも犯行は可能である。

侑芽は口元に手を当てて、さながら探偵のポーズをしながら、後ろで控えている警部に小声で尋ねた。


「警部さん、ちなみにですけど、犯人の性別や服装は分からないんですか?追跡の時に見た特徴とか」


「それが・・・上下黒のレインスーツを着ており、フードをかぶっていたので年齢や性別は不明です。

しかも、それらは途中のドブに捨てられているのを発見したと先ほど連絡がありました。汚れがひどく、この証拠品から犯人の痕跡を見つけるのは難しそうです。体格も中肉中背としか・・・」


侑芽は容疑者たちを観察してみるが、3人ともまさしく中肉中背。先ほど並んで立ってもらったが、身長差もせいぜい3〜5センチと言ったところ。手がかりにはなりそうもない。


「詳しいお話ありがとうございました。あ、ちなみに根牟田さんのご自宅はどちらですか?」


「ここから少し西に行った所にある、坂を登った先です」


「では、店の横に停めてある車も根牟田さんのものですか?」


「は、はい。通勤や買い出しに使っていますが・・・」


侑芽はメモを走らせ、次のページをめくった。


「ありがとうございました。では次に別戸さんに質問させて下さい。ここにはよく来るとおっしゃっていましたがご自宅はお近くなんですか?」


「いえ、自宅は隣町なんですが、パート先がこっちの町なんです。ここから歩いて2、30分かな?

なので退勤後にここへコーヒー豆を買いに来たんです。今日は秋晴れで気候が良いですし、ウォーキングやランニングが好きなので」


「なるほど。それで、あなたは1時半頃何をしていましたか?」


「その頃は職場を出て、ここに向かって1人で歩いていたのでアリバイはないですね・・・」


「そうですか。あ、ちなみにご自宅から職場まではどうやって来たんですか?」


「どうやってって・・・」


なんでそんなことを?と言いたげな表情を浮かべる別戸だが、怪しみながらも口を開いた。


「自宅から駅まで歩いて、電車に乗りましたけど・・・それがどうかしましたか?」


「いえいえ。何が手がかりになるか分からないので色々と聞いているだけですよ。

それから、あなたがこのお店に来るまでに、逃走中の犯人は見なかったんですね?」


「はい。そりゃあ何人かすれ違いましたけど、別に犯人っぽい人はいませんでした。

お巡りさんが忙しそうに走り回っていたので、何かあったんだろうなとは思いましたけど・・・」


その後、店に来店した後の話は根牟田の証言と同じだった。

侑芽はチラッと別戸の足元に目を向ける。男性2人はスニーカーを履いていたが、彼女はローヒールパンプスだ。宝石をひったくった後、走って逃げるなんて不可能だろうか?

しかし最近は『走れるパンプス』なるものもある。実際、侑芽のお母さんもそれを履いている。


「ありがとうございました。とても参考になりました。次は間倉さん、お願いします」


「はいはい。俺は何を言えば良いわけ?犯人なら見なかったし、家なら俺も隣町だけど?」


「では、あなたもここまできた方法を教えてもらいま───」


「家から夢中駅までバイク。駅の駐車場に停めて、テキトーに散歩してたら、さっきも言った通り腹痛くなってここに来たんだよ」


「なぜ電車でなく、わざわざバイクで───」


「こっちのスーパーは米とか水が安いから帰りに買ってバイクに積もうと思った。それだけ。

あと1時半くらいなら1人で散歩中だからアリバイはねぇよ」


間倉は侑芽の言葉に被せるように、矢継ぎ早に言葉を続ける。早く話を終わらせようとしているのが丸わかりである。

レムは間倉の態度に耳をピクッと動かしたが、侑芽はそんなレムの膝に軽く手を置いて、それを制した。


「なあ、俺はこれ以上話すことないぜ?もう良いよな?」


「あ、あと1つだけ。このお店でアイスティーを注文したと言ってましたが、ストレート、レモン、ミルクのどれを注文したんですか?」


「はあ!?それが事件になんの関係があるんだよ!?くだらねぇ事聞いてんじゃねえぞ!」


間倉は机を拳でバンッと叩いた。周りはビクつき、レムは侑芽を庇おうと腰を浮かしかけたが、侑芽は相変わらず余裕そうにエスニックスマイルを浮かべている。


「すみません。細かいことが気になるタチなもので。

で、どれを注文されたんですか?」


侑芽の動じない姿に少々気圧されたのか、間倉は渋々と言った感じで、「・・・ストレート」と答えた。


さりげなくカウンター席の方に視線を向ける。

今はアイスティーやお冷のグラスは乗っていない。


ふむふむ。とメモを眺める侑芽の姿を舟漕警部は期待

の眼差しで見つめる。


「どうですか?越智先生。何か分かりましたか?」


「そうですね・・・。とりあえず、根牟田さん」


急に名指しされて、根牟田は少々上擦った声で「はぃ!?」と返事をする。


「私にも、アイスティーを下さい♡」

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