第5話 チンピラに絡まれる


 個人的に大事なものを思い出したので買っておいた。布団である。

 俺が今眠っているベッドはアルシュカに貸すとしても、一緒に寝るわけにはいかない。

 よしんば俺が眷属でアルシュカを襲う心配がないとしても、だ。


 うん、毎日同衾はつらすぎる。

 男の子の色々なあれが保たない。


 布団を買い、買い物袋に入れ……後は夕食だな。

 流石に昼も夕方も外食というわけにはいかない。

 適当にカレーでも作るとするか。


 というわけで一階の食品売り場でカレーの材料を買うことに。

 アルシュカにはフードコートで荷物を持って待ってもらっておくことにした。

 布団を持ちながら買い物は流石にキツイからな……。


「よー、ねえちゃん。俺等といっしょにどっかいかね?」

「君、可愛いしさぁ~~~」


 一通り買い物が終わって、二階のフードコートに戻ると、アルシュカがチンピラたちに絡まれていた。どうする……、助けるか? でも吸血鬼の力でなんとでもなるはずだろ!?


 そう思っていると、アルシュカがこちらを見てぱちんっとウィンクした。

 その瞬間、体の中で何かが沸騰した気分になる。


「おい、何してる。俺の連れだぞ」


 気がついたらチンピラたちに話しかけていた。

 な、何をしてるんだ俺!? 喧嘩はそんな強くないんだぞ!?


「ああ!?」

「なんだテメーッ!」


 ガンを飛ばしてくるチンピラ。しかしまったく怖くない。

 これが吸血鬼──眷属になった影響なのだろうか。

 だとしたら……かなり怖いな、これ!!


「邪魔だって言ってるんだよ」

「テメェ……生意気だぞ!!」


 チンピラの1人が拳を振り上げ、殴りかかってくる。

 俺はそれを素早く掴み、思い切りひねった。


「あだだだだだだだっ!?」


 意図せずして柔道の技をかけているようになってしまった。

 しばらく膠着した後離してやる。


「け、ケンちゃん!? テメェ……!」


 もう一人もこちらに殴りかかってきた。

 素早く躱し、チンピラの眼の前まで拳を振るう。

 当たる直前で止める。


「こ、こいつやばいよ……逃げよう!」

「くっ、覚えてろ……!!」


 怖気づいたのか、慌てて二人が逃げていった。ふぅ……と内心溜息をつく。

 アルシュカの方を見ると、ソファの背もたれに頬杖をつきながらにやにやとこちらを見ていた。


「おい、あんなやつら吸血鬼の力でなんとでも出来ただろ!?」

「まぁね。でも一回やってみたかったんだよねぇ。お姫様ってやつ?」

「はぁ……まぁいいけどよ」


 アルシュカの向かいにあるソファにどっしりと座る。

 なんだかどっと疲れてしまった。


「それより驚いただろ? 自分の能力が上がってることに」

「ああ、めちゃくちゃ強くなってる」


 昨日の俺なら普通にボコボコにされていただろう。

 それが適切な対処をして、相手を退かせるまでになっていた。


「当然だろ? 僕はこうみえてもけっこう上位の吸血鬼なんだ」

「へぇ、それが関係あるのか?」

「上位の吸血鬼の眷属が、一般人に負けるわけないってことさ」

「ふぅん……」


 自慢げな表情をしているアルシュカだが、正直戦うことなんて俺にはないだろう。

 不良との喧嘩だって、そうそう起きると思わない。せっかくだが無駄な力だな……と思ったが、不良を撃退できたのは素直に気持ちよかったので言わないことにしておいた。


「それじゃあ帰るか」

「うん、でもかっこよかったよ相馬くん♥」


 そう言って腕に抱きついてくるアルシュカ。

 くそっ……! 悪い気はしない……!!

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