第15話 廃屋の少年霊

 僕たちが悪霊を狩りに行くため屋敷を出ようとすると、一階にいたリーナさんに呼び止められる。


 「あれ、エリックとダンさん?どこに行くの?もうすぐ夜になるけど」


 「リーナ様、エリックの実力がどれほど伸びたか確かめるために、悪霊を狩りに行くのですよ」


「へえー、そうだったんだ。頑張ってね、エリック!」


 「はっ、はいっ!」


 両手でぐっとこぶしを握り、励ましてくれるリーナさん。


 「では、行きましょうか」


 「はい!」


 そうして、僕たちは屋敷を出た。



 ......道中。


 「あの、今回の悪霊はどんな霊なんですか?」


 「ああ、言っていませんでしたね。今回の悪霊はこの町の外れにあるとある廃屋に出るようです。その廃屋に近づいた者は気分が悪くなったり、中には倒れた人もいたそうです」


 「近づいただけで......」


 それってかなり危険な悪霊なんじゃ......


 「ええ。ですが、今のところは死者は出ていないので、Dランクの霊だと仮定しました」


 「そ、そうなんですか」


 そうして、僕たちはその廃屋に向かう。



 ◇◇◇◇◇◇



 歩くこと約三十分、あたりはすっかり暗くなっていた。


 「見えてきましたね」


 「あれが......!」


 目指していた廃屋は、町の外れにある森の中にひっそりとたたずんでいた。村にあるものと同じような造りの家で、人がいなくなってかなり経つのか、随分とボロボロになっていた。


 「......まだ何も見えませんね。家の中に入ってみましょうか」


 「......はい」


 家の周りを見てみたが霊が見えなかったので、ダンさんを先頭にして家の中に入ってみる。


 家の中はだいぶ荒れており、色々なものが散乱していた。


 「これは」


 ダンさんが驚いたような声を出したので前を見てみると、床や壁の一部が赤黒く染まっていた。


 「うっ......」


 「血の跡、ですね。ここで誰かが、その、殺されたのでしょう」


 かなり気分が悪い。吐き気がする。


 「だぁれ?」


 「「っ!」」


 誰もいないはずの家の中、奥の方から、子供の声がした。僕とダンさんはバッと声がした方を向く。


「子供?」


 そこには、僕と同じくらいの歳に見える子供がいた。服はボロボロでところどころ赤く染まっていて、至る所に切ったような穴が空いている。体には無数の刺し傷のような傷跡が刻まれている。


 髪は癖のある短髪。目は黒く暗く光を灯していなかった。


 「おかあさん?......違う、違う違う!」


 子供の霊は僕たちのことを見て一瞬首をかしげたと思うと、いきなり発狂しだしてこちらに向かってくる。


 「エリック!対処しなさい!」


 「...っ、はい!」


 僕は子供だと思い一瞬躊躇したが、両手を子供の霊に向け、魔力を全身に巡らせ魔法を使う。


 「風刃ウィンドカッター!」


 今までで一番大きく速い風の刃。それが、子供の霊に向かって飛んでいく。


 「ぐがぁぁぁ!」


 それは子供の霊の体を大きく切りつけた。


 子供の霊は一瞬ひるんだが、再度僕のことを見るとまた襲ってくる。


 「もう一回!」


 魔法を打とうとすると、想像以上に霊との距離が近い。このままだと、僕が魔法を使う前に霊の攻撃が届いてしまう。


 (まずいっ!)


 「土弾ストーンバレット


 ダンさんの声がしたと思ったら、子供の霊に土玉が当たった。


 それにより、子供の霊は一瞬ひるむ。


 「今です!」


 「はい!」


 僕は魔力を込め、魔法を放つ。


 「風刃ウィンドカッター!」


 これも子供の霊に直撃し、体を大きく切り裂く。


 「うごぁぁぁ!」


 断末魔のような叫び声をあげ、子供の霊は倒れる。


 (狩れたのかな?)


 もう狩ったものだと油断して倒れた子供の霊に近づくと、その体がビクッと跳ねる。


 「エリック!まだです!」


 「がぁぁぁ!」


 子供の霊は僕に向かって飛び掛かってくる。


 「っ!」


 僕は咄嗟に体を捻って子供の霊の攻撃をかわそうとしたが、それでも少しかすってしまった。


 しかし、痛みはない、攻撃を受けた感覚もない。代わりに、体内の魔力が減ったような感覚がする。


 子供の霊は僕に飛び掛かり、そのまま壁に激突する。


 「風刃ウィンドカッター!」


 壁に激突してまた倒れた子供の霊に向かって、僕は魔法を叩きこむ。


 「がぐぅぅぅ!」


 魔法は子供の霊の体を両断する。


 「お、おかあ、さん......」


 子供の霊は泣きながらその言葉を残して、灰となり消えていった。

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