第16話 過去:廃屋の少年霊
僕の名前はジャン。とある町に住んでいる普通の男の子だ。
僕のお父さんとお母さんは小さなお店を二人で切り盛りしていて、そんなに裕福じゃないけど幸せな生活をしていた。
お父さんはちょっと怖いところもあるけど優しくて、僕たちのために毎日必死に働いてくれている。
お母さんはとっても優しくて、温かい人だ。毎日父さんと一緒になって頑張って働いてくれている。
毎日が楽しかった。
そんなある日のこと。
「聞いてくれ!なんと、この店がとある大きな商会の傘下に入らせてもらえることになったんだ!」
「すごいじゃない!」
「ああ、これでお前たちに今よりもずっといい生活をさせてやれるよ」
僕にはお父さんとお母さんが話していることはよくわからなかったが、二人とも嬉しそうだったので、僕も嬉しくなった。
「ジャン、これからはもっと美味しいものを食べたりきれいな服を着たりできるからな!」
「うん!」
それから約三か月。
「......お父さん、遅いね」
「最近仕事が忙しいみたいなの。先に寝ていてもいいのよ?」
「ううん、お父さんが帰ってくるまで起きてる!」
前は家族みんなで一緒にご飯を食べていたのに、最近はお母さんと二人で食べるようになった。
お母さんが言うには、最近はお父さんの仕事が忙しいらしい。
ガチャ
「あっ、お父さんだ!」
僕は急いで玄関に向かう。すると、とても疲れているような顔をしたお父さんがいた。
「お父さん、おかえり!」
「......ああ、ただいま」
「あなた、ご飯できてるけど...」
「ああ、すまない、今日はもう寝る」
そうして寝室に入っていってしまった。
「お父さん、大丈夫かな......」
「大丈夫、よ。大丈夫、大丈夫」
僕が不安そうに尋ねると、お母さんは僕のことをぎゅっと抱きしめながらその言葉を繰り返した。
それから約二か月。
「お父さん、まだ忙しいの?」
「...そう、みたいね。もう寝なさい、遅いから」
「......うん、わかった」
そうして、僕は寝室へ向かった。
「ーー!ーーー!」
(えっ、なに!)
隣の部屋、リビングから何かもめているような叫び声が聞こえる。
布団から出てドアを少しだけ開けてこっそりと覗いてみる。
すると、お父さんとお母さんがテーブルに座って何か話していた。
「ちょっと、それどういうこと!」
「だから、騙されたんだよ!大きな商会の傘下に入るってのも全部!」
「だから、どうして...!」
「俺だって今日初めて知って混乱してるんだよ!少し寝かせてくれ!」
そうして、お父さんは自分がいる寝室に入ってくる。僕は慌てて布団の中に潜り込んだ。
(なんであんな大きな声で喧嘩していたんだろう......)
僕は、お父さんとお母さんが話している内容はわからなかったけど、見ていて少し怖く感じた。
それから約一週間。
一日経ってもお父さんが帰ってこなかった。
「お母さん......」
「大丈夫よ、今日には帰ってくるから......」
そんなことを言っている母さんも、少し不安げな顔をしていた。
それから一日経っても、二日経っても、お父さんは帰ってこなかった。
そんなある日のこと。
「何なの、これ...」
「?どうしたの、お母さん」
お父さんの部屋からお母さんが驚いたような声がしたので、僕は行ってみる。
すると、そこには一枚の紙を見て立ち尽くしているお母さんの姿があった。
「おかあ、さん?」
「はっ、ジャン...」
僕のことを見ると、お母さんは咄嗟にその紙を隠す。
「さっきの紙、何?」
僕が尋ねると、お母さんはいきなり僕のことを抱きしめる。
「何でもない、大丈夫よ、大丈夫...」
お母さんの体は、震えていた。
それから僕は、誰かが朝に家の玄関のドアをがんがんと激しく叩く音で目が覚めるようになった。
そっと寝室のドアを開けると、玄関でお母さんが誰かに向かって必死に謝っていた。
そんなお母さんを怒鳴り散らしている知らない男の人たち。とても怖い。
それから一か月が経った、ある日の夜。
「ジャン、準備はいい?」
「...うん」
今日、僕たちはこの家を出ることにした。少し前にお母さんがそのことを僕に言って、お母さんが少しずつ逃げる準備を進めていた。
この家を出ることになったのは、僕にもわかる。きっと、あの男の人たちのせいだ。あの男の人たちさえいなければ......
僕たちは、この家を出た。
それから、僕とお母さんはもといた町からだいぶ離れた町の外れにある、森の中の廃屋でひっそりと暮らしていた。
元の生活と比べると廃屋での生活はとっても大変だったけど、それでもお母さんと一緒に過ごすことができて、僕は幸せだった。
ところがある日、その幸せが突然崩れる。
「今日は大量だな、お母さん、喜ぶかな」
僕は罠で獲った大ネズミを片手に、今の家に帰っていた。
(あれ、なんか嫌なにおいがする?これは、血の...)
「お母さん!」
家に近づくと、動物を解体するときに嫌でも匂うような血の匂いがしたので、僕は慌てて家のドアを勢い良く開ける。
「あ?」
そこには、前に家まで怒鳴りこんでいた知らない男の人たちと......血だらけで、倒れている、お母さんが......
「お母さん!」
「おう?何見てんだぁ、このクソガキ!」
男の人は僕のことを見ると、僕を思いっきり蹴とばす。
「かはっ」
僕は地面を転がる、痛い、痛い痛い。
「ジャ、ン...にげ、て...はやく...」
お母さんは必死に顔を上げて手を伸ばして、そして、そして、力尽きたようにぱたりと......
「お母さん!」
「黙れ!」
また蹴られた。痛い。
「こいつ、どうしましょうか?」
「見られちまったし、殺すしかないだろ」
「奴隷商に売り飛ばすって手もありますが...」
「馬鹿か、こんなガキ一人売ったってはした金にもなりやしねぇぜ」
「そうだ、一人ずつこのガキの体を刺していって、最後にボスがとどめを刺すってのはどうでしょう?」
「おお、それいいな、じゃあお前からやれ」
「はい!」
そうして男の一人がナイフを持って僕に近づいてきて、僕の足を刺す。
「ぎゃああああ!」
痛い痛い痛い!
「じゃあ次は俺だな」
「ぎゃあああ!」
痛い痛い!痛い...
「次は俺か、腕にするか」
「ぎゃああ!」
痛い、痛い、痛い...
「最後は俺か、首にするか」
「ーーーー!」
痛い...痛い......
最後に首を刺された僕は声にならない叫び声をあげ、力尽きた。
(お、おかあ、さん......)
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