第12話 気の強い先輩

 「アイシャ、言葉遣いは丁寧にしなさいと言っているでしょう」


 「ああ、すみませーん。で、そのガキ誰ですか?」


 「本当に、あなたって人は......」


 使用人部屋には、僕よりも少し背の高い少女がいた。


 少し癖のある長めで明るい赤い髪、気の強そうなきりっとした顔だち、少し赤みがかった黒い瞳。アイシャさんのこの外見とさっきの言動から考えた僕の感想はこうだ。


 (気が強そうだし、叩いたりしてきそう。怖いな)


 そんなことを考えていると、ダンさんがアイシャさんに僕のことを紹介する。


 「この子はエリック。今日からあなたとともに使用人として働く者です。先輩として色々と面倒を見てやってくださいね」


 「よ、よろしくお願いします!」


 僕が頭を下げると、アイシャさんは腕組みをしてじろじろとこちらを見てくる。


 「あ、あの...」


 「あんた、何歳?」


 「えっ?」


 「何歳だって聞いてんの!早く答えなさい!」


 威圧的な態度で答えを迫るアイシャさん。やっぱこの人怖いかも......


 「あの、十歳です...」


 「そう!私は十三歳よ!私の方が年上ね!」


 「あ、はい」


 そうやって得意げな顔を見せるアイシャさん。


 「ほら、そんな無駄口を叩かずに、早く仕事に取り掛かりなさい」


 「はーい」


 ダンさんに言われ、アイシャさんはしぶしぶといった感じで部屋を出る。


 ダンさんはアイシャさんの返事にやれやれと頭を振り、僕の方に向き直る。


 「さて、あなたには今日から使用人としての仕事を覚えてもらいます。この家は使用人が少ないので大変になるでしょうが、頑張ってくださいね」


 「はい!...あっ、一つ聞きたいこと、いや、頼みたいことがあるんですが...」


 「はい、何でしょうか?」


 あのキト村の女の霊との戦闘以来、僕が考えていたこと。僕に足りないものは何か、僕に必要なものは何か。僕が、一人で悪霊を狩れるようになるためにしなければならないこと、それは...!


 「お願いします!僕に、魔法を教えてください!」


 「......理由を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」


 ダンさんは少し驚いたような素振りを見せ、僕に理由を聞く。


 「トーナさんとキト村の女の霊を狩りに行ったとき、霊に全く歯が立たなかったんです。だけどトーナさんは、そんな霊をまるで赤子の手を捻るように狩ってしまった。僕は、自分一人でも霊を相手にできるような力を、みんなの足手まといにならないような力をつけたいんです。だから、お願いします、魔法を教えてください!」


 「......わかりました、いいでしょう。仕事が終わった後や休憩時間に教えてあげましょう。もともと使用人の仕事を一通り覚えさせたあとに教えるつもりでしたし」


 「えっ?」


 僕が驚いたように顔を上げる。


 「ついさっき食堂で言ったでしょう?あなたを霊媒師として育てることには反対しないと」


 そういえばそんなことも言っていたような。


 「ですが、まずは使用人の仕事を覚えることが先です。魔法の訓練はそのあとにでも行いましょう、いいですか?」


 「はっ、はいっ!」


 そうして、僕は掃除や洗濯、炊事などの仕事を一通りダンさんに教えてもらった。



 ◇◇◇◇◇◇



 それから一週間、僕は使用人の仕事を次第にこなせるようになってきた。


 「ちょっと!ここまだ埃があるわよ!ちゃんと掃除しなさい!」


 「はい!」


 アイシャさんとはいまだに仲良くはなれていない。というか、アイシャさん意外と仕事熱心なんだな。いままでさぼっているの見たことないし。


 「ん、なに?私の顔に何かついてる?」


 「あっ、いえ!なんでもありません......」


 高圧的な話し方はちょっと苦手だけど、あんまり怖い人じゃないかも......


 一週間経ってようやくそんなことを思うエリック。


 「アイシャ、エリック、休憩に入ってもいいですよ」


 午後の仕事が終わったので、ダンさんが声をかけてくれる。


 「エリック、使用人の仕事は慣れてきましたか?」


 「はい」


 「そうですか......では、今日からはエリックも魔法の訓練に参加しますか?」


 「...えっ、いいんですか?」


 「ええ、問題ありません」


 ついに、魔法を教えてもらえる!


 「はいっ!ぜひ教えてください!」


 「では、アイシャとエリックは私についてきてください。屋敷の外の訓練場まで行きましょう」


 「「はい!」」


 そういえば、アイシャさんもダンさんに魔法を教わっているそうだ。アイシャさんはどんな魔法を使うことができるんだろうか?魔法の訓練とはどんなことをするんだろうか?


 そんなことを考えながら、僕は外に出て訓練場へ向かった。



 ◇◇◇◇◇◇



 「エリック、ここが訓練場です。ここでは、エクストス家の皆様が魔法や剣術や体術の訓練をしたり、アイシャの魔法の訓練に使ったりしています」


 訓練場は屋敷の裏の方にあり、整地されていて固くなっている地面でできていた。走り回ってもまったく問題ないほどの、具体的に言うと屋敷よりも少し狭いくらいの広さだ。


 訓練場には、的や藁でできた人形などが並べられており、端の方にはそれらが大量に置かれていた。


 「では、さっそく魔法の訓練を始めましょうか」


 「「はい!」」


 そういえば、アイシャさんは魔法の訓練は好きなのか、いつもと比べて気合の入った挨拶をしている。


 「まず、エリックの適性魔法について教えていただきますか?」


 適性魔法?聞いたことがないんだけど。


 「適性魔法?って、何ですか?」


 「はぁ?あんた、適性魔法も知らないの?」


 「アイシャ、その言い方はよくありませんよ」


 アイシャさんの発言をたしなめるダンさん。


 「でも、魔法を教わる身なのに適性魔法を知らないのは、ちょっと......」


 「知らないから教わるんでしょう。あなたも最初は適性魔法のことについて知らなかったでしょう?」


 ダンさんに言われてはっとしたような顔をするアイシャさん。そうすると、そのまま僕の方に体を向ける。


 「あの、その、馬鹿にして、ごめん......」


 「あっ、いや、謝らないでください。大丈夫ですから」


 (案外悪い人じゃないのかも)


 僕の中のアイシャさんの好感度が少し上がった。


 「ではまず、適性魔法について説明しましょう。アイシャはその間、自主訓練をしていてください」


「はい!」


 アイシャさんは駆け出して的が立ててある方へ向かっていった。


 「さて、適性魔法とは、簡単に言うとその人が特にうまく使うことのできる魔法のことです。私なら土魔法、ジン様なら水・氷魔法ですね。そういえば、エリックは魔法の属性について知っていますか?」


 「あっ、はい。昔母さんから教えてもらいました。確か、火・水・風・土・氷だったと思います」


 「ええ、その通りです。他にも特殊な魔法があるのですが、この際そのことは置いておきます」


 特殊な魔法、トーナさんが使っていた身体強化魔法だろうか。


 「少し話が逸れました。適性魔法は教会で調べることができるのですが、他にも調べる方法があるんです。その人が初めて使った魔法、それが適性魔法である可能性が高いという研究結果が出ているのです」


 「僕が初めて使った魔法...風刃ウィンドカッターでした」


 「では、エリックは風魔法の適性がある可能性が高い、ということになりますね」


 風魔法、か。風は目に見えないけど、どうやって使うんだろうか?


 「説明も終わったところで、早速アイシャとともに魔法の訓練をしましょうか」


 「はい!」


 何はともあれ、やっと魔法の訓練をすることができる!


 僕の心は少し浮足立っていた。

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