第11話 僕の立場とは

 僕は攫われていた子供たちの居場所を村人たちに知らせるため、村に向かって走りって、前に訪れたカール君の両親の家に着いた。


 ドンドン!ドンドン!


 「開けてください!」


 そうやって家のドアを叩くと、どたばたと慌てたように走る足音が聞こえ、ドアが開かれる。


 「どうしたんだ!あっ、あなたはさっき来ていた...どうなされましたか?」


 相変わらず僕のことを貴族だと勘違いをしているようだけど、今はそれどころじゃない。早く知らせないと。


 「あっ、あのっ、見つかりました!子供たちが!」


 「...えっ!本当ですかっ!」


 「カールはっ、カールは無事なんですか!」


 そうやって詰め寄ってくるカール君の両親。


 「えっと、子供たちは倒れていて、今はトーナさんが容体を見ているところなんですけど...たぶんかなり衰弱していると思うので、水や食料、傷の手当てができる道具とかを用意してもらって、それで......」


 慌てていたので少し変な言い回しになってしまったが、それでも二人には伝わったようだ。


 「そうですか!よし、こうしちゃいられない!村にいる人間を全員呼んで、子供たちを助けに行こう!」


 「ええ!あの、子供たちがいた場所に案内してくださいますか?」


 「はっ、はいっ!」


 そうして、とりあえず村医者と村人数人を連れて、水や食料、傷の手当てができる道具を持って、子供たちが倒れている場所まで行く。


 「ここです!」


 地面が抉れている場所まで来て村人たちに知らせ、トーナさんが開けたであろう穴に入る。


 すると、トーナさんは子供たちの近くで容体を見ているようだった。


 「村の人たちを連れてきました!一応食べ物とか水とか持ってきたんですけど......」


 「...あっ、エリック。子供たちは、無事...魔力、吸われただけで、目立った傷は、無かった...」


 「ほ、本当ですか!」


 村の人たちもおりてきたようだ。


 「カール!カール!よかった、無事で、本当に......!」


 「ごめんね、怖い思いをさせて。無事で、よかった......!」


 村の人たちはそれぞれわが子の無事を確かめ、涙を流す。


 「この部屋に、水場が、あった...子供たちは、それ飲んで、助かったみたい...だけど、何も食べてなくて、だいぶ、痩せてる子も、いる」


 「水場があったんですか?」


 ふと見ると、僕の腕と同じくらいの太さの穴が壁に空いており、そこから水がちろちろ出ていた。また、そのすぐ下にはそこだけくりぬかれたような穴があり、そこに水が溜まっていた。


 「これって...」


 「たぶん、あの、女の霊が、子供たちのために、作った...」


 「どうして、そんなことを......」


 「だから、子供たちのため...」


 子供たちのため?子供を攫って閉じ込めて、魔力を吸った霊が、どうしてそんなことを......


 「...たぶん、あの霊は、本当に、ただ、子供が、欲しかったんだと、思う。だいぶ歪な、可愛がり方、だったけど...」


 「......もともと、まだ生きていて人間だったときは、良い人、だったんですかね」


「...わからない。だけど、悪霊になったら、狩らないと...被害者が、出る」


 「そう、ですね...」


 難しい、な......



 そのあと、子供たちが全員目覚めてみんなで喜んだり、村人たちから、ぜひお礼がしたいと言われて困ったり、村人の家に泊まらせてもらったりと色々あった。


 そして、朝が来て、僕たちは村を出る。


「この度は、本当にありがとうございました!」


 「何もない村ですが、ぜひまたいらしてください!精一杯もてなしますので!」


 「はい!じゃあ、さようなら!」


 本当に、良い人たちだな。あの村とは違って......


 「...じゃあ、行こうか」


 「はい」


 そうして、僕たちはキト村を後にした。



 ◇◇◇◇◇◇



 それからまた来た道を戻って、約二時間かけてエクストス家の屋敷へと戻った。


 「おかえりなさいませ、トーナ様。そして、エリックも」


 門をくぐり庭に入ると、ダンさんが玄関ドアのところにいて、僕たちに挨拶をしてくれる。


 「ん、ただいま」


 「こ、こんにちは、ダンさん」


 「お帰りになられたばかりで申し訳ないのですが、エクストス家の皆様に一つ私から話しておきたいことがございます。他の皆様にはすでに集まってもらっていますので、お早めにお願いいたします」


 「...ん、わかった」


 ダンさんから話って、何だろう?


 そんな疑問を抱きながら、僕とトーナさんは家に入り、食堂に入る。


 「あっ、おかえり~、トーナ、エリック!」


 「...ただいま」


 「あっ、リーナさん、こんにちは」


 食堂に入ると、エクストス家のみんなが揃って席に着いていた。


 すると、ダンさんが話始める。


 「さて、今日皆様にお話しておきたいことは、エリックのエクストス家での立場、役割についてです」


 ......立場、役割?それってどういうことだろう?


 「別に、今のままでもいいんじゃないかな?」


 リーナさんの発言に対して、ダンさんは眼鏡を片手で直しながら反論する。


 「そうやって前にも甘い判断をなさったせいで、他の貴族の方々から色々と言われたことをもう忘れておいでですか?リーナ様」


 「うっ...」


 ダンさんの的を射たような発言にぐうの音も出ないリーナさん。というか、前って何の話なんだろう?


 「エリックは平民で、エクストス家の皆様は貴族です。皆様はまだ貴族になって日は浅いですが、そろそろ貴族になった自覚を持ってもらわなければ困ります」


 「待て、リーナと一緒にするな。俺はエリックとは適度な関係を......」


 ジンさんが反論する。


 「適度な関係?エリックのことをすぐさま受け入れ、まるで自分の弟子のように霊媒師として育てようとしたことを、平民と貴族との適度な関係というのですか?」


 「それは...」


 ジンさんもまた、ダンさんの的確な発言に反論ができなかった。


 ダンさんは小さくため息を吐く。


 「霊媒師として育てることに反対はしません。しかし、その前にまず、エリックには使用人としての仕事を覚えさせるべきです。そうしないと、他の貴族の方々は納得しないでしょう」


 「いや、この歳で使用人の仕事をさせるのはさすがに酷なんじゃ......」


 今度はキースさんが反論する。


 「問題ありません。私が適切な量の仕事をエリックに与えますので。また、使用人として働いている子供は普通に存在します」


 「そ、そうか...」


 ダンさん、強いな...


 「ということで、あなたにはまず使用人としての仕事を一通り覚えてもらいます。よろしいですか?エリック」


 「は、はい...」


 僕はダンさんの圧に押され、ただ頷くことしかできなかった。


 まあ、僕は平民、それも奴隷出身なんだから、使用人として働くのは当たり前。それに、こんなにいい人たちに囲まれて過ごすことができるんだ、僕は十分幸せだろう。


 「では、とりあえず私についてきてください。使用人部屋で待機している他の使用人を紹介します」


 「他の使用人?」


 「ええ。といっても、あなたを除いて一人しかいないのですが」


 一人だけ、か......少なくないかな?


 「あなたとは境遇も似ていて歳も近いのですが少々性格に難があり、仲良くなるのは少し難しいかもしれません」


 「そ、そうなんですか...」


 不安だ、殴ってきたりする人じゃなければいいんだけど......


 「ここです」


 ダンさんが立ち止まった場所は、食堂の向かい側にある部屋の前だった。


 ギイッ


 「あっ、ダンさん、戻ってきたの......ちょっと待って、そのガキ誰?」


 そこには、僕よりも少し背の高い少女がいた。

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