第8話 キト村の霊 1

 キト村に行く道中。


 「そ、そういえば、トーナさんってどんな戦い方をするんですか?」


 「...私は、身体強化、魔法で、戦う...」


 「身体強化魔法?」


 どんな魔法なんだろう?


 「知らない?文字通り、自分の、身体能力、上げる魔法...」


 「そんな魔法があるんですね......」


 「...私、魔法を、放出するの、苦手で...武器、使うのも、苦手で...そしたら、ダンさんが、この戦い方、教えてくれた」


 ダンさん...あの白髪の眼鏡かけたちょっと怖い人だな。


 「ダンさんって、あの執事みたいな人ですか?」


 「みたいなじゃなくて、執事...ダンさん、霊視、使えないけど、魔力量は、多いし、色々な魔法も、使える。ジンにも、魔法、教えた。だから、エリックも、魔法、教えてもらうと、いい......しゃべりすぎた、喉、痛い...」


 「あの、教えてくれてありがとうございます!」


 『...ん」


 そうして、僕たちはキト村を目指して歩く。



 ◇◇◇◇◇◇



 屋敷を出て歩くこと約二時間。すでに太陽が高く上りきったときに、ようやく目的地であるキト村に着いた。家は十数軒ほどしかないけど、村としては普通だろう。


 ......だけど、村に行くとあのトラウマを思い出してしまう。違う村なんだけどな......


 「...着いた。少し、聞き込みをしよう。具体的な場所を、教えてもらう」


 「はい、でも、人が......」


 村は、もう昼だというのに人が全く出歩いていなかった。それに、村はどんよりと沈んだ空気がしていた。


 「...面倒だけど、ドアを叩いて、家の中の人を、呼ぶ?」


 「はい、そうするしかなさそうですね」


 そうして僕は、近くにあった家のドアを叩く。すると、少ししてドアが勢いよく開かれた。


 「「カール!」」


 ドアを開けて現れたのは、二人の男女。二人とも寝不足なのか目の下にはかなりの隈があり、やつれていた。


 「えっと、あの......」


 「「あっ...」」


 僕らのことを見ると、顔を曇らせる二人。誰かの名前を言ってたし、その人と勘違いしたんだろう。


 「す、すまない、息子と勘違いをしてしまって......あ、あの、息子を見なかったかい?カールっていう男の子で、君くらいの身長で髪は茶髪、目が大きいのが特徴なんだが、見かけてないかな?」


 「数日前森に出かけたきり、戻ってないの......どうしてうちの息子が......」


 カール君という少年の両親らしき人に縋るような目で尋ねられる。


 「...すみません、残念ながら見かけてはないです」


 「そうか......いや、すまない、おかしなことを聞いた」


 僕たちのやり取りを見ていたトーナさんが、カール君の両親に尋ねる。


 「...実は、私たち、この村で、子供が消える事件、調査してる...何か、知らない?」


 「えっと、君は?」


 「...トーナ・エクストス」


 トーナさんが家名を口にすると、カール君の両親は慌てたように跪く。


 「りょ、領主様とは知らず失礼な態度を......どうかお許しください!」


 「私たちには差し上げることのできるものは持ち合わせてはいませんが......この無礼、どうかお許しください!」


 僕がこの光景に驚いていると、トーナさんが口を開く。


 「...別にいい。それより、何か、知らない?子供がいなくなった、場所とか...」


 「「あっ、ありがとうございます!」」


 「いいから、早く...」


 そうやってトーナさんは回答を急かす。


 「す、すみません。そうですね......いなくなった子供たちはみんな森へ野草を取りに行くと言っていましたね」


 「森へ?」


 「はい、この村を抜けた先にある森です。あそこは危険な動物も、魔物もいませんから安全なはずなんですが、そこで次々と子供だけが......」


 僕のことも貴族だと思っているのか、敬語に切り替えて話す男性。


 「いつから、子供が、いなくなりだしたの?」


 「二週間ほど前からですかね。もう五人も子供がいなくなって、その中には私たちの息子も......」


 「...わかった。行こう、エリック」


 「はっ、はい!」


 そうして森へ向かおうとすると、女性から呼び止められる。


 「あのっ、どうか私たちの息子を、助けてください!お願いします......どうか」


 「わかりました、必ずカール君を見つけてみせます」


 「...大丈夫、必ず助け出す」


 カール君の両親の必死の頼みを受けて、僕たちは森へ入った。


 

 ◇◇◇◇◇◇



 森は薄暗くてじめじめしていた。だけど、鳥の鳴き声なども聞こえてくるし、小さい動物などの気配もする。これといって変わったところはないんだけど......


 「......特に変わったところはありませんね」


 「うん...でも、油断しないで」


 「はい」


 そうして、慎重に森の中を進んでいく。


 「......見つけたぁ」


 どこからか薄気味悪い女の声が聞こえた。


 「?何か言いましたか?」


 「...いや、何も?どうかした......」


 トーナさんが何か言い終わる前に、僕は地面が消えたような感覚に襲われ、落ちていく。


 幸い落ちてすぐのところに地面があったので、僕は着地をする。周りを見ると、そこは白い壁で囲まれた、村にある家三つ分くらいの広さの部屋で、玩具やぬいぐるみなどが置かれていた。まるで子供部屋のようだ。


 「さあ、私の可愛い可愛い子供ちゃん、こっちにおいでぇ?」


 後ろからさっきの不気味な女の声がした。すぐさま後ろを振り返ると、今回の事件の原因だと思われる霊がいる。


 床まで伸びるほど長く、ぼさぼさになった白い髪。その髪で顔も半分隠れている。麻のようなものでできた村の女性が着るようなワンピースのようなものを着ており、それはなぜか腹から足の付け根にかけて血で赤く染まっていた。


 髪で半分隠れた顔からは、光を灯していない暗く黒い眼と、にたぁっと不気味な笑みを浮かべる真っ赤な口がのぞいていた。


 「どうしたのぅ?怖くないよぅ、早くおいでぇ?」


 女の霊は泣いているような声で僕に対して話しかけてくる。その見た目も相まって、より一層不気味に感じた。


 「っ!」


 僕はそのおぞましい姿に思わず後ずさりをしてしまう。


 「なんで逃げるのぅ?ほら、私が良い子良い子してあげるよぅ?」


 そして、女の霊は手を左右に動かし頭をなでるような動きをする。


 (...ん?あれは、子供?)


 今まで女の霊に気を取られていて気が付かなかったが、女の霊の後ろに、気を失っているのか倒れている子供たちを数人確認することができた。


 おそらく、いや、ほぼ間違いなくあれが行方不明になったという子供たちだろう。


 (助けなきゃ!)


 そうして少し冷静になり、相手の方をしっかりと見る。


 墓地で霊を狩ったときの魔法、あの時の感覚を思い出して...!


 両手を前に出して、体に力を籠める。すると、前に魔法を使った時のように全身に熱いもの、魔力が一気にめぐる。


 「どうしたのぅ?ああ、抱っこしてほしいのかなぁ?」


 なぜか今まで近づいてこなかった女の霊が、両手を広げてゆっくりと近づいてくる。


 (っ、焦るな、あの時使った魔法よりも強く、魔力を圧縮するイメージで...)


 そうして、掌に集めた魔力を圧縮していく。


 (よしっ、いまだ!)


 限界まで魔力を圧縮すると、僕は魔法を放つ。


 「風刃ウィンドカッター!」


 すると、前に使った時よりも数段速いスピードで放たれる。魔法の衝撃で僕は少しけ反ってしまった。


 僕の両掌から放たれた風刃ウィンドカッターは、僕に近づいてきていた女の霊の体に当たり、そのまま体を真っ二つに......


 そうなると思ったのだが、女の霊に当たると少し体を切りつけただけで魔法は消失してしまった。


 「っ、何で...」


 「あらぁ、痛い痛いしたら駄目じゃないぃ。悪い子にはぁ、お仕置きよぉ!」


 女の霊は僕の攻撃で一瞬口を歪ませたが、すぐにまたにたぁっと真っ赤な口で不気味な笑みを見せる。


 そして手を振り上げたと思うと、突然目の前が真っ暗になった。


 (っ!ここは一体......)


 真っ暗なので、恐る恐る手探りで周りの状況を確認しようとすると、手が壁のようなものにぶつかった。その壁を伝ってみると、どうやら僕の周りを囲うようにして壁があるようだ。手を上に伸ばしてみたが、上にも同じ質感の天井があった。


 (これは、閉じ込められた?)


 まずい、このままじゃ女の霊に攻撃されてしまう!どうにかして抜け出さないと......


 そう思い、僕は持っていたナイフで壁を壊そうとする。しかし、壊れるどころか傷一つつかない。


 「無駄よぉ、出ようとしてもぉ!」


 そう女の霊が外から話しかけてくる。すると、急に体の力が抜けていく。


 (あれ、何で......何か体から抜けていく感じがする?これは、魔力か?)


 なぜか体から魔力が抜けていく感覚がして、だんだんと意識も遠くなっていく。


 (もう、だめ......)


 どごぉぉぉん!


 あきらめかけていたその時、外から何かが砕かれるような音がした。

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