第6話 霊とは何か
「霊の正体、ですか......」
今までそんなこと気にしたことなかったけど......考えてみれば不思議だな。霊視が使える人にしか見えなかったり、実体がなかったり。
「霊という存在。これを説明するには、まず人間が何から形成されているか説明しないといけない」
「人間が何から形成されているか、ですか?」
それは血だったり肉だったりじゃないのかな?
「ああ、人間は大きく分けて三つのもので形成されている。それは、肉体・魂、そして魔力だ。ここまではいいか?」
「はい」
肉体・魂・魔力か......
「この三つは密接に繋がっているんだが、人間は死ぬことで肉体が失われ、魂、魔力との繋がりが途絶えてしまう。それによって魂と魔力との繋がりのみが残ることになり、魔力は魂の影響を強く受けることで死ぬ前の姿に似た姿となる。これが霊の正体だ」
「......つまり、霊は肉体の代わりに魔力が体を形成することで存在していて、そのせいで霊視が使えない人が霊を見ることができなかったり、直接触れたりはできなかったんですね」
魔力は本来見たり触れたりすることはできないんだって、昔母さんが言ってたな。魔力は魔法として使うことで初めて物質として存在するんだって。
「ああ、そうだ。しかし、霊は魔力を留めておいた肉体を失っているので、時間がたつと魔力は大気中に分散して大気中の魔力の一部となり、存在は消失する。何もしなければ、の話だがな」
ジンさんはそこで少し話を切り、コーヒーを飲む。いつの間に準備してたんだろう?
「さっきも言ったが、霊の体は魔力でできている。よって、存在を消さないための方法はただ一つ、外部から魔力を取り込むことだ」
外部から取り込む?一体どこから、魔力がある場所なんてそうそうあるもんじゃないし......
「魔力を取り込む方法はいくつかあるが、最もよくある方法は、周りの霊や人間を襲ってその魔力を取り込む、悪霊と呼ばれる存在が行う方法だな」
「霊や人間を襲う......?もともと人間だったのに人間を襲うんですか?」
「ああ、そうだ。数は少ないが確かに存在する、そんな外道がな」
ジンさんは端正の取れた顔を少し歪ませ、歯をギリリ、と鳴らす。
「そういう方法で自らの存在を保っている悪霊を狩るのが俺たち霊媒師の仕事だ」
そうして話をいったん区切り、またカップに口をつける。
「次に、そんな霊に攻撃する方法についてだが、昨日霊を狩ってみて何かわかったことはあったか?魔力でできているために直接触れることができない霊に対して攻撃する方法は何かわかるか?」
ジンさんに言われて、昨日の墓地でのことを思い出してみる。
「......魔法、ですか?」
「半分正解だな。具体的に言うと、魔力を使っての攻撃、だ」
魔力を使った攻撃?それって魔法のことじゃ......
「あの、魔法とはどう違うんですか?」
「要するに、魔力を纏ってさえいれば霊に攻撃は通る。最初お前に渡したナイフがあっただろう?あれは刃に魔力を纏わせていて、それにより霊に攻撃することが可能になっていたわけだ」
「魔力を纏わせていれば、ナイフ以外のものでも霊に攻撃することは可能なんですか?」
「ああ、剣や槍などの武器はもちろんのこと、フォークやスプーンなど日常的に使う物、また、生身の人間でさえ魔力を纏わせれば霊に攻撃することが可能だ」
生身の人間も!それは意外だったな。
「まあ、とりあえず俺がエリックに伝えたかったことはすべて話した。何か質問はあるか?」
夜、墓地で霊を霊視で見たときに少し気になったことがあったな。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ああ、言ってみろ」
「霊視で霊を見るとき、昼よりも夜の方が見えやすく感じたんです。どうしてでしょうか?」
「......霊は魔力で体を構築していることは言ったな?」
「はい」
確か、魔力と魂で形成されているって言ってたな。
「魔力は基本的に肉眼で見ることは不可能だ。つまり、魔力は光を反射せずにそのまま通してしまっている、ということだ。よって、光の量が少ない夜の方が昼と比べて目から入ってくる情報が少ないため、結果霊は昼より夜の方が見やすい、というものが俺の考えだ。確証はないがな」
「う、うーん?」
なんか、わかったような、わからないような?
「わからなかったか?まあ、この考えが正しいとは限らないので、深く考える必要はない。魔力は光の影響を受けないとだけ覚えておけばいい」
「はい!」
「では、そろそろ戻るか。もうすぐ朝食の時間だ」
「はい!」
そうして一通り話し終えた僕たちは、執務室を出る。
食堂のドアを開けると、すでにリーナさんとキースさんも起きてきて席に着いていた。
「あっ、おはよう!さっきまでエリックも兄さんも何してたの?トーナがどこかに行ったって言ってたけど」
「そうそう!二人で一体何してたんだ?昨日はコトス墓地で霊狩りをしたって姉さんから聞いたけど」
リーナさんとキースさん二人から尋ねられる。
「エリックに霊のことについて説明していた、それだけだ」
相変わらずただ簡潔に返答するジンさん。
「へえー。まあ、エリックも私たちと同じ霊媒師になるわけだから、そこは知っておかなきゃね!」
「まあ、知識なんてなくても実戦積めば何とかなるけどな!」
「もう!キースはまたそんなこと言って!」
リーナさんとキースさんのそんなやり取りを見て、少しほのぼのする。
「...みんな、朝ごはん、できた...」
トーナさんが厨房から出てきた。いつのまにか寝間着から普段着に着替えており、ピンクの可愛らしいエプロンを着ていた。
「あれっ、トーナ。まだ私のおさがりのエプロン使ってたの?」
「うん、これ、サイズちょうどいい...」
あっ、リーナさんのおさがりだったんだ。
「...ほら、そんなことより、早く席に、着いて?」
そうしてみんな席に着く。すると、トーナさんが朝食を運んできた。
「あっ、あの、手伝います!」
「...ん、ありがとう」
そうして、僕とトーナさんで運んでいき、全員に配り終えた。
「では、いただきます」
「「「いただきます」」」「...あっ、いただきます」
ジンさんが両手を合わせてその言葉を言うと、続けてみんなも同じく両手を合わせる。僕は少し遅れてしまったけど......
そうして、僕たちは朝食を食べ始めた。
◇◇◇◇◇◇
朝食を食べ終わりみんなで後片付けをしていると、食器を洗っていたキースさんが僕に話しかけてくる。
「なあ、エリック。姉さんが、エリックは魔法が使えるって言ってたけど、本当か?」
「あっ、はい、一回だけですけど。霊との戦闘で身を守ろうとしたら、いつのまにか使っていたみたいで......」
「へえー!初めてなのに咄嗟に魔法を使えるなんてすごいな!俺、魔法が使えないからちょっと羨ましくてよ」
キース兄さんは、頭をポリポリと掻く。
「魔法が使えないんですか?」
「ああ、生まれつき魔力がほとんどなくてな。一応魔力を伸ばそうと色々してみたんだが全然だめで......魔力が少ないせいで霊視も使えないしよ」
「霊視が使えない?」
魔力が少ないのと霊視が使えないのって、何か関係があるのかな。
「ん、兄さんから教えてもらってないのか?霊視っていうのは、生まれつき魔力が多い人の中から、稀に目に魔力が宿る人が使えるようになるんだ」
「そうだったんですか!」
じゃあ、霊視っていうのは魔力を通して見ることができるってことかな?
「うちの家系はなぜか霊視が使える人ばっかりなんだけどな。だから霊媒師一族って呼ばれるようになったんだろうけど」
「あのっ、じゃあ、キースさんは霊が見えないってことですか?霊媒師じゃないってことなんですか?」
僕がそう尋ねると、キースさんはその明るい茶髪を掻く。
「あー、一応俺霊媒師なんだけど......俺の部屋に来るか?霊視が使えなくても霊を見る方法を教えるけど」
「あっ、はいっ!お願いします!」
「よしっ!わかった!」
そうして、霊視を使わずとも霊を見る方法をキースさんに教わるため、キースさんの部屋へ行くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます