第5話 魔法
「...えっ?」
あまりに一瞬のことだったので何が起きたのか理解できず、僕は混乱していた。
「大丈夫だったか、エリック?」
「あの、さっきは一体何が起こって......」
ジンさんが僕の安否を確認するために来たので尋ねてみる。
「ああ、あれは俺がやった」
そう簡単に言ってしまうジンさん。いったいどうやってあんなことしたんだろう?
そんな疑問を抱いていると、今度はジンさんが僕に対して質問を投げる。
「そういえばエリック、魔法が使えたのか?」
「魔法?」
そんなもの使った覚えはないけど......
「ん?無自覚だったのか?霊を二体狩ったときに使っていたぞ」
霊を二体狩ったとき?ああ、咄嗟に手を前に出したときに出たものかな?
「え、あれが魔法だったんですか!初めて使いました!」
まさか僕にも魔法を使うことができたなんて!母さんは魔法はまだ危ないからって教えてくれなかったから、まだ使ったことがなかったんだ。
「そうか、あれが初めてだったのか。どんな感覚だったかわかるか?」
「えっと、霊が目の前に来たので咄嗟に手を出したら、まず体の中に何か熱い何かが流れる感覚がして、次にそれが出していた左手の掌に集まっていく感覚がしたんです。どんどん集まっていって少し怖くなったので、それを放出するイメージをしたら、いつのまにか霊が切り裂かれていて......」
できるだけ具体的にその時の感覚を口にすると、ジンさんは何やら考えているのか、顎に手を当て目を伏せる。
「エリック、初めてであれほどの威力の魔法を放ち、かつその時の感覚をこれほど具体的に思い出すことができる。これは、十中八九エリックに魔法の才能があることを表している」
「ま、魔法の才能、ですか!」
それが本当ならかなり嬉しいかも......
「ああ。それに、それよりも前のナイフを使った戦闘でもなかなかにいい動きをしていた。霊媒師としての才能は十分にあるだろう」
「そ、そうですか!」
正直かなり嬉しい。才能があるなんてあんまり言われたことなかったから。
「そ、そういえば、ジンさんがやったって言ってた霊の頭を貫いた、あれも魔法なんですか?」
僕が少し気になっていたことを尋ねる。
「ん、ああ、あれも魔法だな。水魔法の初級魔法、
「えっ、あれで初級魔法だったんですか?かなりの威力でしたけど......」
霊を瞬殺していたし、結構すごい魔法だと思ったんだけどな。
「初級魔法でも使い方次第で威力や速度、効果は天と地ほどの差が出る。ちなみに、お前が使っていた魔法、あれも初級魔法だ。風魔法の
へぇー、一回見ただけで何の魔法かわかるのか......ジンさんやっぱりすごいな。
「お前の実力は十分に把握した。そろそろ帰るぞ」
「はい!」
そうして、僕の実力を見るための墓地での霊狩りは終了した。
◇◇◇◇◇◇
ガチャ
「あっ、おかえりー!そういえば、こんな夜遅くにいったい何してきたの?」
屋敷に帰ると、一階にはリーナさんがいて僕らのことを出迎えてくれた。
「ああ、コトス墓地でエリックに霊を狩らせ、霊媒師としての適性を見てきた」
ジンさんが簡潔に答えると、リーナさんはポンと手を打つ。
「ああ、あれしてきたんだ!で、どうだった?」
「エリックには霊媒師としての才能が十分にあるとわかった。ナイフでの近接戦闘もなかなかの出来だったし、何よりエリックには魔法の才能があることが見受けられた」
「えっ、エリックって魔法が使えたの!?」
リーナさんが驚いたような声で僕に確認する。
「はっ、はい、霊から身を守ろうとして咄嗟に手を出したら、いつのまにか使っていました」
「えっ、えっ、すごくない!ちょっと、その話もっと詳しく教えて?」
リーナさんが興奮したように聞いてくるので、僕は少し慌ててその時の状況や感覚を教える。
一通り話し終えると、リーナさんは腕を組み何やら考えている様子。
「うーん、確かに兄さんがエリックには才能があるって言ったのも納得せざるを得ないね。初めて魔法を使ったのに霊を二体倒す威力も、その時の感覚を具体的に思い出すことができるはっきりとしたイメージも」
「あっ、ありがとうございます!」
「いやいや、エリックがすごいって話だから、お礼言われるようなことじゃないよ。でも、兄さん......」
リーナさんが褒めてくれたことに対して僕がお礼を言うと、いやいや、と手を振って、お礼を言われることじゃないと言う。そのあとジンさんの方を向き、少し怒ったような顔をするリーナさん。
「エリックが攻撃されそうになっても助けようとしなかったってどういうこと?さっきエリックが言ってたのを聞く限り、エリック結構ピンチみたいだったよ?」
そうやってジンさんのことを責め立てるリーナさん。
「本当に危ないときはいつでも助けられるようにしておいた。あれはエリックが、俺が助けようとする前に自分自身で対処した、ただそれだけだ」
「でも、それでもそんなにぎりぎりになるまで放っておくのは......」
ジンさんが説明したが、それでも納得できない様子のリーナさん
「あっ、あのっ!そのあとジンさんは僕のことを助けてくれました。だから、そんなにジンさんを責めるのは、その、やめてほしいです」
「そ、そうだったの?まあ、エリックがそう言うなら......」
僕の言葉でしぶしぶといった感じで引くリーナさん。
「夜も遅い。そろそろ寝るぞ」
「あっ、そうだね。悪夢を見たって言ってたけど、エリックは大丈夫?」
「あっ、はい、大丈夫です」
「そう?不安になったときはいつでも言ってね」
「はい、ありがとうございます」
正直不安だが、悪夢程度で心配を掛けたくはないので、隠しておく。
「じゃあ、おやすみ、エリック、兄さん」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
そうして、各々が自分の部屋へ戻り、眠りにつく。
(あの日の悪夢を見ませんように)
そんなことを祈りながら、僕は眠りについた。
◇◇◇◇◇◇
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
最悪の目覚めだ、結局あの日の悪夢を見てしまった。
息を荒げながら、嫌な汗でじっとりと湿っている手で顔を覆い、しばらくその格好でいる。
(いや、心配をかけないためにも気持ちを切り替えないと!)
自分の頬を手でパンっ!と叩き、気持ちを切り替える。
一階に降りてもまだだれもおらず、少しひんやりとした明け方特有の空気がする。
昨日はみんな食堂で夕食を取っていたことを思い出し、そのドアを開けてみる。
ギイッ
すると、一人で何かを飲んでいる寝間着姿のトーナさんの姿があった。
「ずずっ、っ、熱っ!」
何か熱いものを飲もうとして火傷をしそうになるトーナさん。その様子がかわいらしかったので思わずクスッと笑ってしまう。
その笑い声が聞こえたのか、トーナさんが僕に気づいてこちらを向く。
「...ん、エリック、おはよう。...起きるの、早い」
「あっ、おはようございます」
笑っちゃったの失礼だったかな?でもそのことについて何も言わないな......
「...エリックも、飲む?コーヒー」
「えっ、コーヒー?」
どんな飲み物なんだろう、そういえば、母さんがコーヒーについて何か言っていたような......
「...知らない?黒くて、苦い飲み物」
「き、聞いたことはあったような...じゃあ、飲んでみたいです」
「ん、わかった。苦いから、ミルクとか砂糖とか、入れるといい...どうする?」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
「ん」
すると、トーナさんが席を立ち何かを準備する。
少しすると、コーヒーが完成したようで、トーナさんが湯気の立つカップを運んでくれる。
「はい」
「あっ、ありがとうございます」
カップの中には灰色とはまた少し違う、なんて表現すればいいのかわからないような色の液体が入っていた。鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、香ばしく甘い香りがする。
「あの、思ったよりも黒くないんですね」
「ミルク、入れてるから」
「あっ、それでか」
そうして、熱そうだったので息を吹きかけてコーヒーを少し冷ましてから飲む。
「あっ、甘い...」
「砂糖入れてるから...それに、ミルクで、苦さも、抑えられてる」
「おいしいです、コーヒー」
「ん、よかった」
あれ、さっきトーナさんが少し笑ったような気が......
「私も、苦いの苦手だから、砂糖とミルク、入れる...」
慌てて見返すと、いつものように無表情なトーナさん。気のせいだったのかな?
そうやって僕らは明け方、二人で静かに残りの甘いコーヒーをゆっくりと飲んだ。
◇◇◇◇◇◇
ギイッ
コーヒーを飲み終わりカップの後片付けをしていると、ドアを開ける音がする。
振り向くと、もうすでに着替えているジンさんが立っていた。
「起きていたのか、トーナ、エリック」
「...あ、おはよう、ジン兄さん」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
そう朝の挨拶を交わすと、ジンさんはこちらの方を向く。
「エリック、急で悪いんだが少し話がある。執務室まで来てくれないか?」
「はっ、はいっ!」
話って何だろう......
疑問に思いながらジンさんについていく。
ギイッ
そうして入った部屋は、ここへ初めて来たときにジンさんが出てきた一階にある部屋だった。
「そ、それで、話っていうのは......」
「ああ、これから霊媒師をするにあたって非常に重要な話だ」
そこでいったん間を置く。
「霊の正体、そして、その対処法について、俺が知っている限りのことを話す。しっかりと聞いて覚えろ」
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