第4話 墓地にて

 屋敷を出て約二十分、町を抜けて町の外れまでやってきた。


 「ここだ」


 「こ、ここは...」


 ジンさんに連れられてきた場所は、墓地だった。石でできた十字架の墓が月明りで照らされている。


 「この町の墓地、コトス墓地だ」


 「あの、なんで、こんな場所に来たんですか?」


 戸惑いながらもそう尋ねる。


 「お前の実力を見るためだ」


 「それは、一体どういうこと...」


 ジンさんの言葉を聞いてもよくわからなかったのでもう一度尋ねる。


 「ああ、説明が足りなかったな。エクストス家が霊媒師一族だということは知っているか?」


 「あっ、はい」


 確かリーナさんがそんなこと言ってたような......


 「貴族は領地の運営の他に何かしらの役割があり、エクストス家は霊媒師、つまり霊の、主に悪霊を狩る役割を担っている」


 ふむふむ。


 「よって、エリックにも悪霊を狩る力が必要になり、今日はとりあえずどれほどの力を持っているのか見てみる。俺がいるから大丈夫だろうが、気を引き締めてやれ」


 「はっ、はいっ!って、え?僕が霊を......?」


 「ああ、そうだが。何か問題があったか?」


 「い、いえ、問題はないのですが......」


 霊なんて、見ることができるだけで攻撃したことなんてないんだけど。


 「あ、あの、霊に攻撃なんてしたことがなくて、どうすればいいのかわからないんです」


 「そうだったか。少し待て」


 ジンさんが腰から取り出したのは、短剣、いや、ナイフかな?刃渡りは十センチほどで、見たところごく一般的なナイフだ。


 「これで霊に触れることも攻撃することもできる。とりあえずこれを使うといい」


 「はいっ」


 手渡されたので持ってみると、持ち手は前によく使っていたナイフと同じくらいの太さで、不思議としっくりくる。


 「どうだ?」


 「前使っていたものと似ていて、使いやすいです」


 「そうか、ならいい」


 ジンさんはこちらを向いて、僕が何をするのか説明する。


 「エリック、お前にはこの墓地の霊を狩ってもらう。別に狩れなくても特に問題はないので変に緊張する必要はない。しかし、さっきも言ったが、霊を狩るには危険が伴う。気を引き締めてやるように」


 「はっ、はいっ!」


 変に緊張しなくてもいい、とは言われたけど、霊を相手にするってなったらやっぱり緊張するな。


 「そういえば、お前は霊視が使えるとリーナが言っていたが、どの程度見える?」


 「あっ、えっと、形や大きさははっきりとわかります。あと、普通の生きている人と違ってふわふわしたオーラみたいなものがあったり、足がなくて浮いてたりしてます」


 僕ができるだけ詳しく説明すると、ジンさんは顎に手を当て考える。


 「ほう、俺が見えているものとあまり変わりないようだな」


 「そ、そうなんですね」


 「聞きたかったことはそれだけだ。では早速、霊を探してみろ」


 「は、はい」


 僕は墓地を見渡してみる。すると、墓地をふわふわと浮かんでさまよっている霊が何体かいるのを目視できた。そういえば今まで気づかなかったけど、夜の方が霊が見えやすくなっている、何でだろう?


 「どうだ、見つけたか?」


 「はい、五、六体いますね。悪い感じはしませんが......」


 「人間に害を与えない霊でも悪霊になる場合がある。また、集まりすぎるとその周囲の環境が変わる場合もある。だから定期的に狩る必要があるんだ」


 「そ、そうなんですか」


 全く知らなかった。


 「では、見つけた霊を狩れ。できればすべて、と言いたいが、無理はしなくてもいい」


 「...はい」


 そうして、一体の霊に近づく。恐怖と緊張で息が荒くなる。


 「はあ、はあ、はあ......えいっ!」


 その霊に向かって片手で持っていたナイフを振り下ろすと、シュッと何かが切れる音と何とも言えない嫌な感触がする。


 (か、狩れたかな?)


 「グルゥゥゥゥ!」


 「ひっ!」


 少し油断してそんなことを考えていると、仕留め損なったか、霊がこちらに気づいて向かってきている。


 色のない暗い体、何も映すことのない黒い眼球、痩せて骨が浮き出ている体。この世のものと思えないような風貌のもの。そんなものが敵意を見せてこちらに来たことで、僕の体は竦みまともに動かなくなる。


 「狼狽えるな!避けろ!」


 ジンさんが叫ぶ。すると、霊が僕を攻撃しようと手を振り上げるのが見えた。


 「くっ!」


 竦み動かなくなっていた体を必死に動かそうとする。間一髪で横に体を転がすことができ、霊の攻撃を避ける。


 「体勢を立て直せ!」


 さっき霊の攻撃を避けたことで体の竦みが取れた。僕はすぐさま立ち上がり、ナイフを持ち直す。


 幸い霊の動きは遅く、振り下ろした手を戻しているところだった。少し冷静を取り戻していた僕は、霊を見て必死に弱点を探す。


 相手を、よく見て。狙うのは......ここだ!


 そうして僕が狙ったのは、様々な生物の急所である首。霊にも効くのかはわからなかったが、とりあえず一撃で仕留めきれそうな首を狙うことにした。


 「うおぉぉぉ!」


 ナイフを横に傾けて構え、相手の首めがけて横一閃、思いっきりナイフを振る。


 ザシュッ!


 そんな小気味の良い音と、手に伝わる確かな感触とともに霊の首がまっすぐに切れる。


 「グヴァァァァァ!」


 その霊は断末魔のようなものをあげて、体が灰のようになって消えていった。


 「は、はあ、はあ、はあ」


 「気を抜くな!次は一気に来るぞ!」


 ジンさんがそう言ったので前を向くと、さっきまでふわふわとさまよっていた霊がまっすぐにこちらへとやってくる。さっき狩った霊の断末魔を聞いて来たのか?


 「「「「グルァァァァァ!」」」」


 恐ろしい形相でこっちへ向かってくる。さすがにこの数を相手には......


 いや、弱気になるな!大丈夫、いけるはず!


 そう自分を奮い立たせ、四体の霊に立ち向かう。


 さっきと同じように霊の首を狙っていく。このナイフは刃渡りがあまりないから一体ずつしか相手にできない。できるだけ一撃で仕留めるようにしないと。


 「うぉぉぉぉ!」


 ザシュッ!


 まずは近くまで来ていた霊の首をさっきと同じ要領ではねる。霊の動きは緩慢だから、一体ずつなら何とかなりそうだ。


 「よしっ!次は...」


 そうやって前を見ると、もうすでに霊が二体目の前に来ていた。


 ナイフを振っても二体同時に相手することはできそうもない。いったいどうしたら......


 この危機的状況に焦って、身を守るためにとっさにナイフを持っていない方の手を前に出す。


 そうすると、体に何か熱いものが一気に流れてい感覚がして、それが掌に集まっていく。


 いきなりそんなことが起こって動揺して、どんどん掌へ集まっていく何かをとにかく外に出そうと、頭の中でそれを放出するイメージをする。


 ザシュッ!ザシュッ!


 「えっ?」


 すると、僕のイメージに応えるように何かが掌から放出されて、霊の体を大きなナイフが通ったように切り裂いていく。


 「と、とにかく二体狩れた!あとは...」


 「グヲォォォォォ!」


 最後の一体もまた、僕の目の前に来て襲ってくる。


 さっきのをもう一回すれば!


 そう思いもう一度霊に向かって手を向けようとする。


 ビリッ!


 しかし、さっき何かを放出した反動なのか、左手が痺れてうまく動かせない。


 「だったらナイフで...!」


 さっきできたものは諦めてナイフで霊を狩ろうと試みる。しかし、慌ててナイフを振らずに突き出してしまい、霊の顔を少し掠っただけだった。


 「グワァァァァ!」


 そうしている間に霊は大きく口を開き、僕に嚙みつこうとする。


 (っ!まずいっ、このままじゃ...!)


 僕は死を覚悟して目をつむる。


 ......その時!


 「水球ウォーターボール


 ヒュンッ!ビシュッ!


 霊の頭が貫かれ、灰のようになり消えた。


 

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