第3話 現実とゲーム
征服少女の開発会社である銀河企画の社屋まで香苗師匠に引き連れられてやってきた。その建物は大きなビルでゲーム会社のものとしては、かなりオーバースペックのように思えた。
「なんか、来ちゃいましたけど。婚約の話となんの関係があるんですか?」
俺は当然の疑問を香苗師匠にぶつけた。
「このビルには隠された階があるの……13階は表面上なくなっているように見えるけれどもエレベータのボタンをある手順で押すと……」
香苗師匠はエレベータに入るとものすごい勢いでエレベータのボタンを不思議な手順で高速で叩いた。するとエレベーターのボタンがすべて点滅する。
「ええと13階がないことになっているけれども、あるってことでしょうか?」
「そういうこと。敏志くんは……エロゲーのヒロインと結婚したいのかしら?」
「はは、まぁ、できるもんならしてみたい気持ちもありますね……」
「そうなんだ。じゃぁ、頑張らないとね!」
「何をです?」
「地球は銀河帝国からの侵略を受けているでしょ? それをまずは撃退しないと」
「香苗師匠も征服少女やっているんですか? ゲームの設定ですよね、それは」
「そういうこと。軍功をあげて勲章でももらえば、かなうかもね」
ゲーム内で勲章をもらうとゲーム内のキャラとゲーム内で結婚できるのである。
……でも、それはゲーム内の設定だ。
そうこうしているうちに13階につき、俺達はある部屋に入った……。
驚くべきことにその部屋はゲーム内のデフォルトの画面である司令室を模したものだった。めちゃくちゃ凝っている。部屋には壁一面にディスプレイが貼り付けられており、宇宙の様子がわかる仕組みになっている。もちろん、演出だろうが。
コンコンとノックがなる。
「失礼します。銀河帝国女帝エカテリーナさま、ご到着です」
すげー凝った演出だ。
「なぁ、久美子。おまえ征服少女の監修していたよな? この部屋の存在知っていたのか?」
「そうだね。知っているよ。でも、敏志さんが誤解していることがあると思う」
「なにを? すごいなぁ。今どきのゲーム会社はここまでやるんだな」
「やらない。これは演出ではないから」
「は?」
「うん、エカテリーナさん、可哀想なひとだよね」
エカテリーナは敵国である銀河帝国のクーデターにより追い出された元女帝で現在は地球に亡命している、という設定だっけ。
「まぁな。俺がエロゲーをやるのを冷たい目線でみている久美子にそう言われるとは思わなかったけれど」
再び、ノックの音。
そうして扉を開けると、そこから入ってきたのはエカテリーナの格好に完璧にコスプレした、やや背が高い金髪のウェーブしたロングの軍服を着た、あどけなさが残る顔つきの女性だった。彼女は俺のところに、ぐんぐんとやってくると。
「あなたがサトシ司令官ですね、お目にかかれて光栄です」
と挨拶し、手を差し伸べてきた。反射的に握手を交わす。
「ええと、エカテリーナさん? とお呼びしていいのでしょうか」
なんとなく敬語になる俺。
「はい、それが私の本名ですから、もちろん」
「すごいコスプレですね……完璧です」
「……コスプレではないです」
「コスプレではない?」
「はい、私は本当に銀河帝国の女帝でしたから。クーデターでいまはこんな状態ではありますが」
……俺は香苗師匠に助けを求めることにした。
「あのぉ。香苗師匠? これは?」
「敏志くん、彼女は本当に女帝なの。粗相をしないように」
「敏志さん、戸惑うのはわかるけど。私達の世界が仮想のものでゲームの世界こそが現実……っていったら、わかってくれるかなぁ……。わかるわけないか」
久美子も変なことを言った。
だめだ、コイツラ。完全に言っていることがおかしい。
ここまできたら、もうこっちもノッてやるしかないか……。
俺は意を決すると。
「エカテリーナ殿下、ずっとお慕い申し上げていました」
とコスプレしている少女に言うのであった。そして、ついつい出来心で言ってしまった。
「銀河帝国に暗躍する首領を倒し、貴女さまを帝国女帝に再び即位させることを誓います」
「サトシ司令官ありがとう……」
エカテリーナの体が震えている、そして彼女は涙をポロポロと流した。
演技? いや、でもこの涙は本物にしか見えない。
「ずっとずっと心細かった……帝国の首都星からはるか何億光年も遠くまできて」
彼女は俺に抱きついてくる。おれもなんか、抱き返す。
「……大丈夫だから」
女の子のシャンプーだか香水だかわからないものが香ってくる。ギューッと強くエカテリーナは俺に抱きついている。……どれだけ、経っただろうか。
「あの……ひとつ聞いていいですか?」
「はい? なんでしょう?」
「演技とはいえ、ここまでしていただいて、ありがとうございます。でも、俺のこと知っていたんですか? 確かにかなりの重課金勢ですが」
「……ああなるほど。忘れていました」
「なにを?」
「あなたはゲームだと想っていたのですね?」
「はい?」
「あなたがあのゲームで戦った相手は確かに実在します……。あれは……本当の戦争なんです」
「将棋を模した平面宇宙艦隊戦が、本当の戦争ですか……」
「ええ、そうなんです」
そういうと彼女はボツボツと宇宙の戦争について語り始めた。
なんでもワープ空間は平面的に表現されるうえ、時間の流れが違うためターン制で表現でき、ゲーム内の王は敵の根拠地へのワープホールを意味すると。
つまり、王を自分の艦隊でジャックすることで、敵の根拠地に乗り込むことができ、それは完全な勝利を意味するということだった。
「なるほど、でもワープホールで相手の空間に乗り込んだあとは普通の戦闘が行われるってことですよね?」
「いいえ、その場合、相手は降伏します」
「なぜ?」
「相手空間で核融合による巨大爆発を起こすことで、相手を完全に壊滅させることができますから……」
「……なるほど」
つまり、平面宇宙での戦闘に負けた側は、もうどうやっても勝ち目はないから、降伏するということらしい。
「……ということは俺は、本当に銀河帝国と戦っていたと……」
「はい! そうです」
エカテリーナは弾んだ声でいう。
「凄まじい指揮能力でした」
……まいったなぁ。これは本当なんだろうか?
ずっと抱き合っていたからか……、香苗と久美子は気を利かして席を外してくれたらしい。聞きたいことが山ほどあるんだけど。
「まぁいいや、とりあえず、君のことは本当のエカテリーナ女帝ってことにしておく」
「?」
エカテリーナは、不思議そうな顔をした。
「でもさ、宇宙人なんていないだろ?」
「いますよ? 眼の前に……」
「……そういうことになっているのか……」
うん、どうしたものか。
「ともあれ、久美子さんと香苗さんのところに行きましょう。たぶん、現実に戻っているはずですから……」
「現実に戻っている?」
「はい、じゃぁ行きましょう」
俺はエカテリーナに手をひかれつつ、香苗師匠と久美子がいるであろう場所に向かうのだった。
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