新築
からし
新築
あの日、家のカギを開ける瞬間、心臓がドクンドクンと高鳴った。
新築の家。真っ白な壁、ピカピカのフローリング、何もかもが新しい。
だけど、なんだか変な感じがした。
足音がコツコツコツ、リズムを刻むように、廊下の奥から響いてくる。
「おい、これって本当に新築なのか?」
友人のタクヤが不安げに言った。
彼の言葉に、ぞわっとした寒気が背筋を這った。
確かに、業者から聞いた話では、この土地には過去に何かあったらしい。
それにしても、気のせいだろうと、私は思い込もうとした。
しかし、心の奥で何かが引っかかる。
その夜、家の中は静まり返り、まるで時間が止まったようだった。
暗闇の中、廊下の影がゆらりと動く。
気のせいだ、気のせいだと、自分に言い聞かせながらも、恐怖がじわじわと心を侵食していく。
「タクヤ、大丈夫か?」声が出なかった。
代わりに、耳に入ってくるのは、コツコツコツと、部屋の隅から聞こえる音だ。
「おい、なんだその音?」
タクヤが顔を青ざめさせながら言った。
私も恐る恐る耳を澄ませる。
コツコツコツ……
まるで誰かが足音を立てているような、不気味な響き。
心臓がバクバクと速くなる。
私たちの視線は、音のする方へと引き寄せられる。
まるで、そこに何かがいるかのように。
「おい、誰かいるのか?」私は声を振り絞った。
すると、その瞬間、音が止んだ。
そして、次の瞬間、さっと冷気が漂ってきた。
「やっぱり、気のせいだろう」と思おうとしたが、そうはさせてくれなかった。
タクヤの顔が恐怖で引きつり、彼が後ずさりする。
「こ、これ、何かいる!」彼の目が真っ赤になり、声が震えている。
それを受けて、私も恐怖に呑まれた。
「やっぱり、事故物件なんだ……」その瞬間、背後からサッと何かが動く気配を感じた。振り向くと、暗闇の中に何かが立っている。
「おい、誰だ!」思わず叫んだ。
しかし、そこにはただの影が見えるだけだった。
コツコツコツ……
再び音が響く。
まるで私たちを挑発するかのように、音はリズムを刻む。
タクヤが目を見開いて、「逃げよう」と言ったその瞬間、音が急に大きくなり、廊下の奥から何かが迫ってくる。
「逃げろ、早く!」二人は必死で玄関へと駆け出す。
しかし、ドアが開かない。
まるでこの家が私たちを拒んでいるかのように。
コツコツコツ……
音がどんどん近づいてくる。
心臓の鼓動が耳鳴りのように大きくなり、恐怖が全身を包み込む。
「お願い、助けてくれ!」タクヤが泣き叫ぶ。
その瞬間、静寂が訪れ、音が止まった。
私たちは恐る恐る振り返る。
すると、そこに立っていたのは、無表情の女の顔。
目が真っ黒で、口からは言葉が漏れ出す。
「ここは私の家だ。」
絶望的な静寂の中、私たちの逃げ道は完全に閉ざされた。
新築の家は、事故物件としての過去を抱えたまま、私たちを飲み込んでいく。
私たちの恐怖は、ただの気のせいではなかったのだ。
「もう遅い……」
その言葉が響いたと同時に、コツコツコツと音が再び鳴り響く。
逃げられない。
私たちは、新たな事故物件の犠牲者となる運命に囚われてしまったのだ。
新築 からし @KARSHI
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