第13話 リーナ捜索2

「MEBIUS、範囲索敵を展開、リーナの居場所を探して欲しい。」ミカは心の中で静かに呼びかけた。声に出さず、ただその意図をMEBIUSに送る。すると、すぐに彼の脳内に情報が一気に流れ込み始めた。まるで自分の体が空間そのものと一体化したかのような感覚。地面の温度、風の動き、人々の気配、すべてが一瞬で視覚化される。


『範囲索敵、開始します。』


MEBIUSの冷静で頼りがいのある声が脳内で響く。それを聞くと、ミカは自然と肩の力が抜ける。彼に頼ることで、少しだけ安心することができる。MEBIUSはただの魔導装置に過ぎないが、ミカにとっては最も信頼できるパートナーだ。


しばらくして、MEBIUSから返答があった。


『対象の範囲内に子供が9人。男児6人、女児3人です。』


「…それではダメだ。」ミカは思わず肩を落とす。情報は得られたものの、それではリーナを特定するには不十分だ。子供が多すぎる。焦りが胸に広がる中、彼は再度、さらに具体的な情報を求める。


「リーナの特徴に合うもの、何かないか?」


『範囲内に5歳程度の女児の反応はありません。』


その瞬間、ミカの胸に冷たい衝撃が走る。リーナが見つからない。彼は思わず息を呑んだ。これではリーナがどこにいるのか、まったく見当もつかない。


「そうか…。」ミカは心の中で呟く。思った通りだ。範囲が狭すぎる。もしリーナが街の外れにいるのなら、今表示されている範囲内では、探すことができないということだ。


『範囲索敵の有効範囲は決して広くありません。現在表示している領域がすべてです。』MEBIUSの冷静な声が、さらにミカの心を押し込める。彼は深く考え込む。どうすればいいのか? リーナは今、どこにいるのだろうか?


「…ここでは無理ってことか。」ミカは再びため息をつき、目を閉じて思考を巡らせる。彼はこの場所で引き返すわけにはいかない。リーナの行方を追い続けなければならない。しかし、どうすれば見つけられるのか?


「MEBIUS、他にできることは?」ミカはもう一度尋ねる。


『実際に探したい場所に出向いてみてはいかがでしょうか?』


その言葉に、ミカはハッとする。なるほど、物理的に移動して新たな場所から再度索敵を行う方法か。確かに、それなら新たな手がかりが見つかるかもしれない。


仕方ない、ミカは決意を固めた。この場を離れ、もっと広い範囲で情報を探さなければならない。そう思い立った彼は、そっと家を抜け出す決心をした。


村はずれの丘、そこまで行けば村も森も一望できる。広い範囲で索敵を行えば、リーナの手がかりを掴むことができるかもしれない。今の自分にはそれが最善策だ。


子供の足でもそこまで時間はかからない。そう思った瞬間、ミカは走り出した。



-30分後-



「MEBIUS、範囲索敵を展開。」丘についたミカは再び心の中で指示を出す。今度は、より広い範囲を対象にした探索だ。ここからすべてが変わるかもしれない。


空間が微かに震え、再び情報が彼の脳内に流れ込み始める。


MEBIUSが答える『範囲内に5歳児程度の子供の反応あり、眠りながら移動しています。』


「眠りながら?」ミカはその言葉に驚き、思わず呟いた。どういうことだろうか? 五歳の子供が眠りながら移動している? それはただの寝ぼけた子供とは違う、何か異常な状況だ。


「MEBIUS、その子供の位置を追跡して。」ミカは急いで指示を出す。心の中で、リーナの顔が浮かんでくる。まさか、リーナが眠りながら移動しているわけではないだろうか? そんなことがあるのだろうか。


『追跡中。位置特定完了、現在、北の森へ向かっている模様。』MEBIUSの冷静な声が響く。ミカの脳内に、今度はその子供の位置情報が浮かび上がる。


「北の森…?」ミカは思わず顔をしかめた。この森は村の外れに広がっており、誰もが警戒する場所だ。昼間でも深い森の中では視界が悪く、夜になるとさらに危険度が増す。


「わかった、すぐに向かう!」ミカは決意を固め、走り出す。すぐにでもその子供を追いかけ、状況を確認しなければならない。心臓が早鐘のように響く中、彼は急いで北の森に向かって駆け出した。


『ミカ、注意してください。周囲に成人男性を確認しています。』MEBIUSが警告を発する。ミカはその言葉に瞬時に反応し、足を止めて周囲を警戒した。


「成人男性?」ミカは周囲を見回し、急速に走ることを再考した。もしかしたらただの親子か?いや、まさか誘拐?ただ確認をしないと!周囲を警戒しながら、北の森の入り口に向かう彼の心は一層緊張していった。

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