第9話 初戦

ある日、街のはずれの広場で、数人の子供たちが楽しそうに騎士団ごっこをしていた。その中でひときわ目立つのは、身長も大きく、自分より2歳は年上だろうか?堂々とした姿の子供だった。


ミカはその遊びを、少し離れた場所から静かに眺めていた。子供たちが木の棒を使って戦っている様子を見ながら、ふと、自分が前世でまだ小さかった頃を思い出していた。


「きっとあの大きいのがガキ大将、隊長か騎士様のつもりだな…この世界でも子供たちはこうやって遊んでるんだな…」と、ミカは微笑んだ。


アルヴァから頼まれた買い物を終わらせるために歩いている途中だったが、その光景に思わず足を止めて見入ってしまう。ガキ大将が仲間たちと掛け合いながら、次々と木の棒で戦う姿を見て、心の中で懐かしさが湧いてくる。


しかし、ふとした瞬間に子供がミカに気づいた。目が合うと、子供たちはヒソヒソと話し始め少し不快そうに顔をしかめ、歩み寄ってきた。


「おい、お前、さっきからニヤニヤと、何見てんだ?」と、少し挑戦的な声で話しかてくる。


ミカは驚いてすぐに視線をそらしたが、ガキ大将は構わずに言葉を続けた。


「お前だよ、オ・マ・エ。馬鹿にしてんのか?」


ミカはその問いに困惑しつつも、何とか答える。「いや、そんなことは…」


だが、ガキ大将は笑いながら言った。「ひょっとしてお前騎士団に入りたいのか?俺が剣の稽古をしてやるよ」


ガキ大将は手に持っていた木の棒をミカに向けて放り投げる。ミカはその棒が自分に向かって飛んでくるのを見て驚くが、間に合わず、棒はミカの近くに落ちた。


「かかってこいよ。」ガキ大将は、わざとらしく構えながら挑発する。


ミカは慌てて身構えたが、喧嘩をしたいわけではなかった。しかし、ガキ大将の目にはそれが何もできない小さな子供が何か言い訳をしているように見えているらしく、ますます挑発的な態度を取ってくる。


ミカは少し緊張しながら言った。「あの、僕、喧嘩はしたくないんだ…」


だがガキ大将は構わず、木の棒を振り上げてきた。


その瞬間、ミカの脳内にMEBIUSの冷静な声が響いた。


『上段から攻撃が接近中。秒速2m/s、回避準備を。』


ミカはその声に反応し、必死に身をよじらせて攻撃を避けようとしたが、動きが少し遅れて木の棒が肩に軽く当たってしまう。


「うっ!」肩に鈍い痛みが走る。しかしすぐに立ち直ろうとする。


その瞬間、自身の脳内に自分を真上から俯瞰したようなイメージが展開される。これはMEBIUSの周辺索敵か…?


ガキ大将は笑いながら、もう一度木の棒を振り上げた。


「おい、こんなのも避けれないのか?」


その言葉を聞き、ミカは少し焦った。MEBIUSの声が脳内で響き続ける。


『右腹部に攻撃が接近。回避の準備。』


ミカはその指示に従おうとするが、足元が不安定で、木の棒が軽く右腹に当たった。


頭の中にMEBIUSUの声、脳内に自分の俯瞰した自身の映像、そして目の前には棒をふるう子供


「痛っ!」


ミカは混乱し、少し後退りながらガキ大将を見上げる。そしうしてる間に相手はさらに攻撃を繰り出してきた。


『左足に攻撃。反応時間が足りません。』


ミカは必死にその指示を聞きながら体を動かすが、足がうまく動かず、木の棒が左足に軽く当たってしまう。


「うっ…!」


そのたびにミカは少しずつ後退していく。MEBIUSの指示が冷静に響くが、身体がその速さについていけず、悔しさと無力感が湧きついには痛みでうずくまる。



ガキ大将は楽しげに笑いながら、木の棒を振り続ける。「もう終わりか?」



その言葉を聞きながら、ミカはしばらく無力感に包まれる。どうしてこんなにうまく動けないのか…。自分は大人であり、MEBIUSを操れる特別な存在だと思っていた。だが、実際にはまだ何もできていない。痛みがその実感をさらに強くした。


「なんだ、弱っちいなぁ。」ガキ大将のその言葉が耳に残り、ミカはしばらくその場に立ち尽くしていた。


そして、ようやくその場を去って行くガキ大将たちを見送りながら、ミカは心の中で誓った。次に会うときは、こんなふうに悔しい思いをしないようにしよう、と。



その後、家路に着く足取りは重かった。だが、心の中で少しずつ決意が固まっていた。弱い自分を感じながらも、これからはもっと努力し、強くなろう。自分にはそれができるはずだと信じて。

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