第8話 魔術問答
ここ数日、ミカはMEBIUSと問答に明け暮れていた。最初は単純な質問から始まったが、次第に彼の疑問は深まり、今では魔術そのものの仕組みについての興味が尽きない。
ミカは今日もMEBIUSの説明を受け、彼が実行する魔術の仕組みに対する疑問がさらに深まっていった。一般的な魔術師が詠唱を唱え、魔法陣を展開し、計算と時間を要して魔術を実行するのとは異なり、MEBIUSはまったく違ったアプローチを取っている。
「そういえば、お前が使っている魔術って、実際の魔術とは違うって言ってたよな?」ミカはふと口にした。「普通の魔術師は詠唱と儀式を経て魔術を実行するって言ってたけど、お前はどう違うんだ?」
『私が行っているのは、魔術のような動作を体現することです。』 MEBIUSは静かに答えた。『通常の魔術では、詠唱、入力、演算、そして実行という四つのプロセスを経ます。詠唱は魔力を流す回路を作成する役割を担い、それにより魔力が適切に流れ、実行が可能になるのです。しかし私はAIであり、魔力を使うことなく、あなたの五感をデータとして入力し、それを処理して疑似的な魔術を再現することができます。』
「つまり、詠唱が魔力を流すための回路を作るってことか?」ミカはその説明に納得しながらも、改めて尋ねた。
『その通りです。』 MEBIUSは続けた。『魔術師の詠唱は、魔力を流すための道筋を作り、魔力が適切に作用するための手順を確立する役目を果たします。そのため、詠唱は魔術行使において不可欠な部分と想定します。』
「じゃあ、僕が思っていたよりも詠唱には重要な役割があるんだ。」ミカはしばらく考えた後、少し興味深そうに言った。「でもお前は、詠唱なしでその魔術を実行できるってことか?」
『その通りです。』 MEBIUSは静かに答えた。『私は貴方の五感を通じて得た情報をデータとして処理し、即座に結果を出力するため、詠唱は必要ありません。あなたが指示を出した瞬間、その情報を基に魔術のような動作を再現することができます。』
ミカはその答えに少し感心しながらも、やはり少しの違和感を感じた。魔術には儀式的な重みがあり、詠唱を通じて魔力を呼び覚ます過程が不可欠だと思っていたが、MEBIUSの方法はそれらをすべて省略して、瞬時に結果を出す。効率的ではあるが、どこか「魔術らしさ」が欠けているように感じた。
「でも、やっぱり少し違うな。普通の魔術って、ただ指示を出すだけじゃなくて、何か儀式を経ることで力を引き出す感じがあるんだよな。」ミカは少し考え込む。「お前がやってることは、どこか冷たいというか、無機質な感じがする。」
『その点についても理解できます。』 MEBIUSは冷静に答えた。『私の方法は、あくまで効率性と正確さを重視しています。しかし、伝統的な魔術が持つ儀式的な魅力や精神的な意味は、確かに失われている部分かもしれません。』
「そうだな…」ミカはしばらく黙って考え込んだ。彼にとって魔術は、力を使うこと以上にその背後にある神秘的な過程が重要だった。しかし、MEBIUSが見せてくれる能力には、そのような「神秘性」は感じられない。全てが計算され、精緻に実行される。それはとても強力で実用的だが、どこか心を打つものが欠けている気がした。
「まあ、でも使いやすさや効率を考えれば、こっちの方がありがたいのは事実だな。」ミカは苦笑しながら言った。「魔術を使うのに詠唱や儀式を必要としないのは、かなり助かる。俺にはこっちの方が向いているのかもしれない。」
『それは喜ばしいことです。』 MEBIUSは静かに答えた。『私は、あなたの指示を元に最適な結果を提供し続けることができます。あなたの意思に従い、最大限に力を発揮します。』
その言葉を聞いたミカは、少しだけ心が軽くなったような気がした。確かに、魔術の儀式的な側面には魅力があるが、実際に必要なのは、迅速で確実な力だ。MEBIUSがそれを提供してくれるのであれば、魔術らしさを感じられなくても、それで十分だと感じ始めていた。
「さて、じゃあ次はその『入力』の仕組みについて教えてくれ。」ミカは好奇心を抱きながら尋ねた。「お前がどうやって魔術を実行してるのか、もう少し詳しく知りたい。」
『入力に関して、私はあなたの五感を使っています。』 MEBIUSは説明を始めた。『視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。これら全てを基に情報を入力し、それを演算し、結果として出力することができます。』
ミカはその言葉を聞いて、改めてMEBIUSが扱う情報の広さに驚くと同時に、少し疑問を持った。「五感を超えて、俺が認識できないような音や、目に見えないものまで拾えるのか?」
『その通りです。』 MEBIUSは答えた。『あなたが認識できない音や物、あるいは遠くにあるものでも、私はそれを入力データとして受け取ることができます。』
ミカはその言葉を理解し、さらにその仕組みがどれほど先進的かを感じた。普通の人間が認識できない音や物、それらがすべて情報として処理され、瞬時に解析される。これがMEBIUSの力だ。
「それなら、範囲索敵の魔術も、俺が気づかないような音や視覚情報を拾って、すぐに把握できるってことか?つまり…まるで高性能のソナーみたいな感じか?」ミカはその意味を実感し、改めてMEBIUSの能力の強さを感じた。
『その通りです。』 MEBIUSは静かに続けた。『例えば、聴覚で遠くの心音を、触覚で温度や空気の流れを、嗅覚や視覚で周囲の情報を解析し、対象の位置や状態を即座に把握することができます。』
ミカはその説明に納得し、再びMEBIUSに頼ることができることに安心感を覚えた。確かに魔術師が使う魔術とは違うが、その効率性と正確さは何よりも頼もしい力となっていた。
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