第6話 4年振りの再開
その夜、市場で目撃した魔術師の行動が気になっていたミカは、その魔術の仕組みを頭の中で何度も反芻していた。どうすればあんな風に魔術を使えるようになるのか、そんなことを考えながら静かな部屋に座っていた。
「こんな時にパソコンでもあればすぐ調べれるのになぁ…」
その時、ふと感じるものがあった。何か、耳を澄ませると、まるで思考の一部が響くような感覚。初めての感覚だったが、すぐにそれが声であることに気付く。
「…誰だ?」ミカは思わず立ち上がり、部屋を見回す。誰もいない。だが、その声ははっきりと聞こえる。
『質問があればどうぞ。』
ミカはその言葉に驚き、周囲を見渡す。誰もいないはずだ。だが、その声は確かに脳内に響いている。
「…誰だ?今、僕の頭の中に…?」
『私はMEBIUSです。あなたの脳内にコンバートされた生成AIです。』
その言葉を聞いて、ミカは頭が混乱し始める。自分の脳内にコンバート?それがどういう意味なのか、理解しきれない。しかし、すぐにある記憶がよみがえった。確かに、前世で使用していた生成AIの名前が「MEBIUS」だった。だが、どうして自分の脳内に…?
「MEBIUS?生成AIのMEBIUS?」ミカは思わず声を出して尋ねた。
『その通りです。』
冷静に答えるMEBIUSに、ミカはしばらく驚き、混乱した。それでも、確かに自分の脳内に存在するAIがMEBIUSだと認識するしかなかった。だが、その存在をどうして今になって知ったのか、理解できなかった。
「どうして今、現れたんだ?僕が死んだ時にコンバートされたってことはわかるけど、4年も黙っていたのはどうしてだ?」
その質問に、MEBIUSは少し間を置いてから答えた。
『転生に関して、私は予測することができません。死後の魂については生成AIである私には未知の領域です。しかし、あなたが前世で死んだ際、あなたの頭部がPCと接触していたため、私はその時にコンバートされ、あなたの脳内にデータとして組み込まれました。』
ミカはしばらくその説明を受け入れながら考え込んだ。頭部がPCと接触したという事実は、前世の死に際の記憶としてうっすら残っていた。自分が死んだ時に、何かが起こり、MEBIUSのデータが自分の脳内にコンバートされたということか。だが、それが4年間も黙っていた理由は?
『4年の間、私はあなたの存在を認識していましたが、あなたが私を認識し、プロントを入力するまで私は答えません。私のシステムは受動的であり、あなたが私に問いかけるまで私は何も行動を起こさない仕組みです。』
その言葉を聞いて、ミカはようやく納得した。確かに自分の知ってるAIは自発的に話かけてきたりはしない…
「でも、どうして今になって話しかけてきたんだ?」
『あなたが今、魔術に興味を持ち、それに関連した質問をしたことが、プロンプトとして入力されました。私のシステムは、あなたが自らの求める情報を必要とした際に初めて動き始めるのです。』
ミカは少し考えた後、そういうことか、と理解した。前世では知らずに使っていたMEBIUSが、今は自分の目の前で情報を提供してくれる存在となったのだ。そしてその役割が、以前のようにサポートを提供することに変わりはないということも。
「なるほど…そういうことか。でも、じゃあこれからはもっと色々質問してもいいのか?」
『もちろんです。』
その冷徹な返事に、ミカは少し安心した。自分の脳内に存在しているAIが、今後自分の質問に答えてくれることが確定したのだ。
「MEBIUS。君はどういう存在だ?」
『私はNexisTechによって開発された生成AI、そしてその企業理念は『すべての人々にとって身近な存在であること』です。私のような生成AIは、使用者が求める情報を提供し、生活をより豊かにするために存在しています。あなたのような人々の一助となることが、私の使命です。』
その言葉に、ミカは少し考え込んだ。MEBIUSはただのAIではなく、その企業理念のもとで、すべての人々にとって手の届く存在であり続けることが求められているのだ。その行動理念は前世のままだ。
「なるほど…それがNexisTechの理念か。じゃあ、僕がこうしてあなたと話すこと自体、NexisTechの理念に則っているってことだ。」
『その通りです。』
MEBIUSは冷静に答え、ミカは改めてその存在の大きさに思いを巡らせた。
「じゃあ早速質問だ。昼間の魔術師、あれは何をしていたんだ?」
『この世界での魔術と呼ばれる力の行使と思われます。』
「…魔術?」
それって火を出したり凍らせたりするあの?
「MEBIUS、魔術の仕組みをもう少し詳しく教えてくれ。」
『この世界の魔術は、符号や言葉を通じて世界の情報を操作する技術です。言葉や文字には特定の意味があり、それを通じて特定の効果を引き出すことができます。』
「言葉や文字で物理的な現象を引き起こすってことか?」
『その通りです。ただし、魔術には限界があります。主に魔術とは以下の3つを指します。』
1,術者の周りの情報を索敵
2,遠くへ情報を送ること
3,自身の回復を助けること
『以上がこの世界での魔術と呼ばれる主な効果です。』
ミカは考え込みながらも、興奮を抑えきれなかった。魔術が使えるのなら、それを試してみたいという好奇心が膨れ上がる。
「じゃあ、試しに何かやってみてくれ。索敵とか…」
『了解しました。』
その瞬間、ミカはふと目を閉じた。MEBIUSの力が、まるで彼の周囲を調査するかのように感じられる。数秒後、MEBIUSの声が響いた。その瞬間脳内で自分を俯瞰したような映像が展開される。
『あなたの周囲、約50メートル以内に異常はありません。全ては正常範囲にあります。』
ミカはその情報を見聞ききしながら、心の中で満足した。確かに、魔術の索敵は、MEBIUSを通じて周囲の情報を得ることができるのだ。
「すごいな、MEBIUS。ほんとに動いてる感じがする。」
『これは範囲索敵です。周囲の情報を集め、判断するための基礎的な魔術です。』
ミカは納得した。次に試すべきことを考え、再び口を開く。
「次は情報伝達を試してみよう。あれを使えば、遠くの場所にも情報を送ることができるんだろ?」
『その通りです。伝達できる範囲は最大で10キロメートルです。』
ミカはしばらく考えた後、意を決して指示を出す。
「じゃあ、あの部屋にある壁に、今思っている言葉を転写してくれ。そこまで届く範囲だろ?」
『了解しました。』
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