第5話 魔術との出会い

それは4歳になったある日の事だった。


町の市場は、いつものように賑やかで、人々の声が交錯していた。アルヴァと一緒に歩くミカは、商品を選びながらも心はどこかぼんやりとした様子だった。日常の風景の中で、何も特別なことがないことが逆に安心感を与えていた。


「ミカ、あの果物を取ってきてくれない?」アルヴァの声で現実に引き戻される。


ミカは軽く頷き、店の前に並べられた果物を見つめていた。そのとき、ふと遠くの方から、「泥棒!」という叫び声が聞こえた。


その声に反応して、周囲の人々が一斉に振り向く。市場のすぐ近くにある広場から、一人の男性が立ち上がるのが見えた。彼はローブをまとい、杖を手に持っている。その男性は、他の人々とは異なり、落ち着いた様子で、周囲の混乱を無視して空に向かって手を伸ばした。


その手のひらから、空気がわずかに震え、杖の先が淡く光る。ミカはその瞬間、何かを感じた。 「あれ…?」 彼の目は、杖の先から発せられる光と、男性が呟いている言葉に釘付けになった。


「ねぇ、お母さん?あの人何をしているの?」


「ああ、あれは魔術師様ね。」


アルヴァがそういった瞬間、魔術師が何かを口走った。


聞き取れたのは、わずかな日本語のような言葉。「え?今、なんて?」ミカは首をかしげる。日本語…あの言葉は、自分が知っている言葉だ。しかし、それがどんな意味なのかはわからなかった。


その瞬間、何もなかったかのように、男性は再び座り込み、周囲に向けて微笑む。「何事もなかったかのように。」まるで魔術を使ったことが日常の一部であるかのような態度だ。


その後、数秒もしないうちに、広場の角から衛兵たちが駆け込んできた。彼らは動きが早く、周囲の人々を軽く押しのけながら広場に集まり、すぐにその場を取り囲んだ。


「何事ですか?」一人の衛兵が広場の真ん中で立ち止まり、周囲を見回した。


市場の人々は顔を見合わせ、動揺しながらも何事もなかったように平静を保とうとする。ミカもその様子を見ながら、心の中で疑問を抱いた。


「どうして鐘の音もなく衛兵がすぐに来たんだろう?」 ミカは疑問を抱えながら、その光景をじっと見つめていた。


衛兵たちは、周囲を一瞥した後、すぐに離れていった。まるで何事もなかったかのように。だが、ミカの心の中には新たな問いが生まれた。 「あの魔術師が、何かを送ったのか?もしくはあの男の魔術で衛兵が動いたのか?」


その後、ミカはアルヴァに静かに尋ねた。「ねぇお母さん?どうして衛兵がすぐに来たんだろう?」


母親は少し考えた後に答える。「魔術師様は、時には遠くの人々と繋がっていることがあるのよ。例えば、あの人のような魔術師様は、何かを知らせたり、連絡を取るために魔術を使うことがある。きっと衛兵に何かを伝えるために、魔術で合図を送ったんだと思うわよ。」


その言葉に、ミカは納得したような顔をしたが、心の中ではその仕組みに興味を抱くようになった。




この世界には魔術という自分の知らない力が存在するという事が自分の心を躍らせたのだ。

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