第4話 3年経って

転生してからおそらく3年が立った。


おそらくというのはこの世界の1年なんて時間の経過や365日なんていう太陽暦が存在するのか、僕にはわからないからだ。


最初は自分の手足がどう動くのかも分からなかった。でも、今はなんとか歩けるようになった。最初はよちよち歩きで、足元がフラフラして転んでばかりだったけれど、今では少し自信を持って歩けるようになった自分がちょっと誇らしい。


両親はそのたびに「お、歩けるようになったな!」と喜んでくれて、僕も少し嬉しい。前世の記憶を持っている僕にとって、歩くことがこんなにも簡単にできるのが、逆に不思議だ。あの頃、もっと難しいことに悩んでいたはずなのに、今ではこうして足を使って歩けるようになった。


「やっぱり、子供の体ってすごいな。」と心の中で思う。大人にとっては当たり前でも、僕にとっては今この瞬間が新しい発見だ。


言葉も、少しずつ覚えてきた。最初は「ママ」「パパ」とか、簡単な言葉しか言えなかったけど、今では両親と普通に会話できるようになった。とはいえ、会話内容がどうにも大人びているらしい。ある日、母親が何かを探していたとき、


「それ、棚の一番上にあるよ。」と僕が言ったら、アルヴァは驚いた顔をして僕を見ていた。


「え?ミカ、それほんとうに分かってるの?」と困惑しながら聞かれたけど、僕はただ普通に答えた。


「うん。昨日お父さんがそこに置いてたから覚えてた。」


アルヴァは驚いた様子で、僕の顔をじっと見ていた。その後、「神童だわ、ミカは」と呟いたけど、やはりこの世界でも前世の記憶があるって事は普通じゃないらしい。


ただ、家の中での僕の行動は、周りの人たちから見るとちょっと不気味だったらしい。というのも、あまりにも大人びた発言をすることが多かったからだ。僕が言うことは、どうも子供らしくないらしい。でもそれにしても、僕が何かを知っているってだけで、みんなが「ミカ、すごいね」「さすがだね」と言ってくれるのがちょっと面白い。


もちろん、まだ2~3歳だから、他の子供たちと一緒に遊ぶこともある。でも、その時の自分の行動がちょっと不思議だったりする。例えば、最近覚えた言葉で友達に話しかけると、どうも相手がびっくりしたり、戸惑ったりする様子が見受けられる。それでも、別に気にせず話を続ける僕。


「昨日見た空、すごく青かったね。あんなに晴れるのは珍しいよ。」と他の子供たちに話すと、みんなが「うん!」と頷いてくれるけれど、やっぱりちょっと変な顔をしている。


天気といえば昨日からずっと、空がもやっとしている。日差しが強く、風もあまり吹かない。肌に感じる暑さが、ただの「暑い」というものではなく、どこか異常なものを感じさせる。大人たちは「今日は暑いなぁ」と言っていたけど、僕はそれだけではなかった。


「この暑さ、きっと夕立が来る。」僕はそう呟いた。


アルヴァはすぐに振り返り、驚いたような顔をした。


「ミカ、なんでそんなことがわかるの?」と聞かれたけど、僕はすぐに答えるわけでもなく、ただぼんやりと空を見上げた。


この土地には四季がある。春は暖かく、夏は暑く、秋は収穫の時期で、冬は雪が降る。そんなサイクルが何度も繰り返されている。でも、僕はそれだけではない。


今日は朝からずっと、湿気が肌にまとわりつくような感じがしていた。太陽が高く昇っているけれど、その割には風が弱く、気温も尋常じゃなく上がっている。この時期にこんなに暑くなることはめったにない。


「今日の天気は、湿度が高いから、きっと午後から急に雷雨が来る。夕方になれば、急に雲が立ち込めて、雨が降るよ。」


僕は何も特別な能力を持っているわけじゃないけれど、この土地の気候の特徴や、今までの記憶から学んだことがすぐに頭に浮かんでくる。湿気が上がりすぎていること、風がほとんどないこと、そして夏のこの時期に近づいている午後の時間帯が、ちょうど夕立を呼ぶタイミングに重なることがわかっていた。


アルヴァは少し考え込んだ後、「本当にそんなことがあるのかな?」と疑いの表情を浮かべた。だけど、僕はそれをあまり気にしない。


「午後になったら分かるよ。」そう言うと、僕はまたじっと空を見上げる。


その日の午後、空が急に曇り、風が強く吹き始めた。僕の言った通り、しばらくすると雷の音が遠くで鳴り始め、気づけばぽつぽつと雨が降り出した。


「ミカ、本当にすごいわね…」とアルヴァは目を丸くしていたけれど、僕はただ当たり前のことのように感じていた。


「ただの予測だよ。」そう言って、軽く肩をすくめた。


どうしてそれがわかったのか、今となってはあまり考えなくなった。気候や風の変化、温度差、そして湿気――こうしたものが自然に頭に浮かんでくるから、なんとなく予測できる。でも、それが「予測」として通じるとは思わなかった。大人たちがそんなことを言うから、自分が不思議な存在に思えてきて、ちょっとだけ違和感があった。


「やっぱり、ミカはただの子供じゃないのかもしれないな。」アルヴァの言葉に、僕は少しだけ不安を覚えた。でも、その気持ちはすぐに忘れて、また他のことに目を向けることにした。

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