第3話 それからの日々についての考察

さて、まずは僕の近況を説明しようと思う。


今、僕を抱いているこの女性、さっきからアルヴァと呼ばれているが、どうやら彼女が僕の母親らしい。なんとなく、名前の響きからしても、母親という役割を持っていることが分かる。


彼女の顔をじっと見つめると、ふわっとした金色の髪が肩を覆い、青緑色の瞳がとても穏やかに僕を見つめ返している。少しだけ手が冷たく感じるが、温かみもある。外見で言うと、年齢は恐らく二十代後半、三十前後くらいだろうか。身体はしっかりとしていて、力強さを感じる。おそらく、家事や畑仕事をしっかりこなす、そういうタイプの女性だ。


僕の目の前には、しっかりとした骨格の男性、アリオが立っている。肩幅が広く、腕も太く、体格的には大柄だ。彼もまた、僕が見ている限りでは若干硬い表情をしているが、実は優しい眼差しをしていることがわかる。おそらく、この男性が父親だろう。


父親や母親という言葉には、どうしても慣れが必要だ。僕が転生したこの世界では、親というものがどんな存在なのか、少しずつでも理解していかなければならない。二人とも、少なくとも自分を守ってくれる存在だということだけは、間違いない。


この時点では、僕が言葉を理解し、物事を考えるための頭の中はすでに成人のそれだ。しかし、体がまだ幼いので、表現方法が少し足りないことが不安ではある。だけど、今のところ何もかもが不思議で、少しの違和感を覚えつつも、今のこの状況が全体的に心地よい。


母親、アルヴァは毎日のように家の中で忙しく動き回っている。洗濯をし、料理を作り、畑の世話をしている様子は、どうやら日常的な仕事の一部らしい。もちろん、僕の面倒もちゃんと見てくれるが、その手際は驚くほど効率的で、無駄がない。もしかしたら、彼女がこの家の中心的存在であり、すべてを仕切っているのだろう。


アルヴァが畑から帰ると、すぐに家の中に入ってきて、冷たい手で僕を抱き上げることがある。肌寒さを感じるが、それが彼女の冷たさではなく、ただ単に畑仕事で手が冷えているからだと分かる。それでも、彼女の目はいつも優しく、どこかしっかりとした強さが見て取れる。言葉では伝えきれない安心感が、彼女の存在にある。


父親、アリオに関しては、少し不思議だ。何日かに一度、家を出ていき、そして2~3日後に戻ってくることがよくある。なぜそんなに頻繁に出かけるのか、どこに行っているのかは、僕にはよくわからない。ただ、アルヴァと会話をしていると、時々「香辛料の値段がまた上がった」とか、「小麦が足りなくなりそうだ」などの言葉が聞こえてくる。どうやら、アリオは商人のようだ。


「また、あの商人に頼むのかしら?」アルヴァが時折そう呟くことがあるが、どうやらそれが父親が関わっている仕事の一端らしい。


「うん、頼まないと次が来るのはずっと先だ。早めに頼んでおけば、余裕を持って次の取引もできるし、今度の小麦の相場もどうやら安定しないようだから。」アリオはあまり言葉にしないが、アルヴァとの会話から、その仕事がかなり重要だということが伝わってくる。


時折、アリオが家を出て行く前にアルヴァと何かをやりとりしているのを聞くことがある。それは、きっと商取引の準備だろう。買い物の計画や、物の仕入れ先を決めるような、そういった内容だ。父親が商人であるならば、この家が一定の経済的な基盤を持っているのも納得できる。


もちろん、僕の理解ではまだ不十分だが、少しずつこの世界での家族の仕事の流れが見えてきている。父親がいないとき、アルヴァはそれを一人でこなすことも多いようだ。時折、険しい顔をしていることもあるが、僕の前ではその表情を見せることは少ない。彼女は、ただひたすらに家を守ることに全力を尽くしているように見える。


そして僕。どうやら「ミカ」と呼ばれているらしい。自分で思い出す限り、この名前に特に違和感はない。だが、前世の記憶を思い出すと、僕が女の子だったわけではないので、どうして「ミカ」という名前がついているのか気になって仕方がない。


そこで、しばらくの間、自分が本当に男なのか女なのか、きちんと確認してみようと思い立った。だって、前世の記憶があるから、何かしらの手がかりがあるかもしれないと思ったんだ。


しかし、いざ自分を確認しようとしたとき、どうやって確認するべきか悩むことになった。鏡?でも、この家には見渡す限り鏡なんてないし、それにそもそもまだ僕は手足をうまく動かすこともできない。仕方ないから、自分の体に手を当ててみると、どうやら僕は間違いなく男の子らしいことがわかる。


「男の子、だよな…?」自分の身体に手を当てながら、心の中で呟く。


それにしても、前世の記憶が蘇ったとき、「女だったらどうしよう」と一瞬本気で思った。だって、まさか転生して女の子になってしまっていたら、どうするつもりだったんだろう?いや、そんな心配をする必要はない。だって、確認した限り、僕は確かに男だ。


「ふぅ…安心した。」心の中で、やっと安堵の息をつく。


自分の性別が確かに男の子だと確認できたことで、少しだけほっとした。というか、転生してきたこの世界で、性別が女性だった場合、いろんな意味でややこしいことがありそうだから、男でよかった、と心の中でガッツポーズ。


これで一安心だと思っていたが、逆に何も問題がなかったことに少し拍子抜けしてしまった。こんなことを心配していた自分が、少し恥ずかしい気もするけれど、まぁ、これが転生者の宿命だろう。


その後、家の中で過ごしている間に、「ミカ」と呼ばれるたびに、あぁ、これが僕の名前なんだなと実感が湧いてきた。でも、名前があっても、まだ自分がどうしてこの世界に転生してきたのか、その理由についてはさっぱり分からない。だが、何かをしないといけない気がする。そして、今の僕には、少しずつではあるけれど、この世界でやるべきことを見つけていく必要があるだろうと感じている。

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