第15話 完結
ラクシュミの家の静かな部屋の中で、ムハマド、ラクシュミ、グラニート、そしてゴーヴィンダは一堂に会していた。部屋の空気は重く、だれもが次に何をすべきかを真剣に考えていた。
グラニートは最初に口を開いた。
「まず最初に確認しなければならないのは、チャーチル家の狙いだ。奴らは単にラクシュミを手に入れようとしているだけではない。」
ムハマドが頷く。
「確かに、あの男たちには裏に何か大きな目的があるように感じる。帝国植民資本主義の力を強化するため、何かを隠しているに違いない。」
ゴーヴィンダが低い声で続けた。
「それに、チャーチル家の力は容易には崩せない。特に、彼らが手に入れている私の家族の秘密……それが一番の脅威だ。」
ムハマドはしばらく黙って考え込んだ後、決意を新たに言った。
「だが、俺たちには一つだけ、彼らには無いものがある。それは、俺たちの結束だ。ラクシュミ、君を守るために、俺たちは何だってやる。」
ラクシュミはムハマドの言葉に少し驚き、そして深く感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
「ありがとう、ムハマド。でも、あなたが言うように、私を守るだけじゃなく、チャーチル家の真の狙いを暴かない限り、私たちの勝利はないわ。」
グラニートは静かに頷いた。
「その通りだ。俺が言いたいのは、チャーチル家を完全に叩くためには、奴らのネットワークを全て暴露し、その根本を崩す必要がある。」
ゴーヴィンダが驚きの表情を浮かべる。
「ネットワークを暴露?それは、かなりのリスクを伴う作戦だが……」
グラニートは冷静に続けた。
「リスクを恐れている場合じゃない。俺たちはもう時間がないんだ。」
ムハマドは一度深呼吸をしてから、皆の目を見つめた。
「それなら、俺たちがやるべきことはシンプルだ。まず、チャーチル家に潜入し、奴らの情報を掴み、すべてを公にする。君、ラクシュミの家族に関する秘密を利用して、チャーチル家の弱点を突こう。」
ラクシュミは思わず身を震わせた。
「でも、その方法はあまりにも危険……もし私たちが失敗すれば、私だけじゃなく、家族やあなたたちにも危害が及ぶわ。」
ムハマドはラクシュミに優しく手を握り返し、目を見つめながら言った。
「君が言うように、失敗すれば全てが無駄になってしまう。でも、もし成功すれば、あの邪悪・祟猿の力を完全に打破することができる。」
ラクシュミは一瞬、黙って考え込んだ後、決意を込めて言った。
「分かったわ。私も覚悟を決めた。あなたと一緒に戦う。」
グラニートがにやりと笑った。
「そうこなくちゃな。じゃあ、計画を立てよう。まずは、チャーチル家の邸宅に潜入する方法だが……」
そして、彼らは具体的な作戦を練り始めた。暗闇の中、全員が一つの目的に向かって集まり、力を合わせる決意を固めた。
夜が深くなると、ムハマド、ラクシュミ、グラニート、そしてゴーヴィンダは、チャーチル家の邸宅に潜入するための詳細な計画を立て始めた。彼らは何度も地図を広げ、可能な限りの情報を集め、慎重に進めるべき道筋を考えた。
「まず、私たちの目的はチャーチル家が秘密裏に運営している貿易ルートを破壊することだ。」 グラニートが最初に口を開いた。
「その貿易ルートがチャーチル家の力の源だ。これを押さえれば、奴らの権力基盤を崩すことができる。」
ラクシュミが話を続ける。
「だが、家の中にはあまりにも多くの警備員がいる。そんな中で私たちが静かに動くためには、まず内部からの協力者を探さなければならない。」
ムハマドが頷く。
「ラクシュミ、君の家の使用人の中に、信用できる者がいれば、その人物に情報を頼んでみるのも一つの手だ。」
ラクシュミは少し考え込み、ふとメイドのスンダリが頭に浮かぶ。
「スンダリは私をずっと見守ってくれているし、私たちの計画にも賛同してくれるかもしれない。もし彼女が味方してくれれば、内部の動きに関する情報が手に入るかもしれないわ。」
グラニートが微笑む。
「よし、それで決まりだ。スンダリを説得し、情報を集める。そして、その間に私たちは外部からの準備を進める。」
ムハマドが立ち上がる。
「それなら、私はチャーチル家の外壁を調べ、侵入経路を探す。君たちが内部から動き出したら、俺が外でサポートする。」
ラクシュミが心配そうに言った。
「でも、万が一、私たちの計画がバレたら、すぐに逃げる準備ができているようにしておかないと。」
ムハマドはラクシュミの手を握り、優しく言った。
「大丈夫、もしもの時は全員で逃げる準備ができている。君も心配しないで。」
内部の協力者
数日後、ラクシュミは静かな夜のうちにスンダリを呼び出すことに成功した。二人は家の裏庭でこっそりと会話を始めた。
「スンダリ、お願いがあるの。」 ラクシュミが声をひそめた。
「あなたしか頼れない。あなたが私たちの計画に協力してくれたら、私たち一同、命をかけてチャーチル家に立ち向かう。」
スンダリはしばらく黙ってラクシュミの顔を見つめていたが、やがて頷いた。
「分かったわ、ラクシュミ。あなたがそこまで決意を固めているなら、私も協力する。私もあなたとムハマド様のために、できることをするわ。」
ラクシュミは深く感謝し、二人はこれからの行動計画について話し合った。スンダリが提供できる情報は、チャーチル家の警備の隙間、内部の鍵の位置、そして秘密の通路に関することだった。
その後、ムハマドとグラニートは、スンダリから得た情報をもとにチャーチル家に侵入するための計画を再調整した。
運命の夜
ついにその夜がやってきた。ムハマド、ラクシュミ、グラニート、そしてスンダリは、夜の闇に包まれながら、チャーチル家の邸宅に向かって進んだ。
ムハマドが冷静に言った。
「これが最後のチャンスだ。全てをかけて挑もう。」
ラクシュミが彼の横顔を見つめる。
「私も、全てをかけて行くわ。あなたと一緒に。」
グラニートが先頭に立ち、スンダリが後ろを見守りながら、4人は静かにチャーチル家の邸宅に向かって歩みを進めた。
その夜、運命が動き出す。
ムハマドたちがチャーチル家の邸宅に侵入し、静まり返った館内に足音が響く。突然、暗闇から警備員たちが姿を現し、ムハマドたちを囲み始める。
「どうやら、貴様たちはここまでだな。」
チャーチルの声が響き、彼の冷徹な笑みが浮かぶ。だが、ムハマドはただ静かにその場に立ち、周囲を見渡していた。
ラクシュミが前に出て叫ぶ。
「ムハマド、お願い!」
その一言に、ムハマドは静かに頷き、気を引き締める。まるで神々の力が宿ったようなその姿に、周囲の警備員たちが緊張感を覚える。
ムハマドはその場で深く息を吸い込み、足を踏み出した。
「お前を倒すために、ここまで来たんだ。」
その瞬間、ムハマドの体が一瞬にして軽やかに、そして力強く動き出す。まるで風のように、足音すら立てずに動くその姿は、まさに神が宿るようだった。
ムハマドの足元が地面を蹴るたびに、重さが感じられ、周囲の空気さえも変わる。彼の踊りが始まると、そのリズムに合わせて周りの警備員が次々と倒れていった。
まずは足を巧みに使い、無駄のない動きで一人の警備員を蹴り飛ばす。次に、体をひねりながら手を伸ばし、もう一人の警備員を軽々と投げ飛ばす。どの動きも、瞬時に相手の力を利用して倒していく。
警備員たちはその速さと力に圧倒され、反応する暇すら与えられない。ムハマドの踊りはまさに武術であり、戦いの芸術だ。
そして、ムハマドはついにチャーチルと対峙する。チャーチルは冷笑を浮かべ、強引にムハマドに向かって槍を振り上げる。
「貴様がどんなに踊りで敵を倒したところで、俺には勝てない。食らえ!我が大英帝国の日の沈まぬ聖なるランサーを!」
だが、ムハマドはその攻撃に冷静に対応する。足元を踏みしめ、跳躍するように前に進み、チャーチルの槍をかわしながら、そのまま一気に間合いを詰める。
ムハマドの足が地面を蹴り、その速度と力で空気が割れる。彼はそのままチャーチルの懐に飛び込み、力強く膝を打ち込む。
チャーチルがその打撃でよろめいた瞬間、ムハマドは体を一回転させるように華麗に飛び上がり、脚を振り下ろす。
「これで終わりだ。」
その一撃で、チャーチルの頭が地面にのめり込む。全身が打ち震え、すぐに動かなくなった。
だが、まだ油断はできない。チャーチルの父親がその場に現れ、銃を向け、大声で叫んだ。
「貴様ッ…!よくも…!よくもやってくれたな!俺の愛しい息子を…!殺す!殺してやる!ただじゃ死なせねぇ、皮を剥いて豚に食わせてやる!宗主国に逆らった植民地の奴隷の末路を思い知れ!」
ムハマドは罵倒にも揺らがず、冷静に構え、その銃口を見つめる。その目は冷徹で、決して揺るがない。
ムハマドは一歩、また一歩と踏み込み、突如としてその足を地面に踏みつけると、体をひねりながら空気を切り裂くような速さで踊り始めた。今度は相手を挑発するかのように、軽やかにステップを踏んで、まるで神の力がその足元に宿っているかのようだ。
銃を撃つ暇もなく、ムハマドはそのまま父親の前に舞い降り、最後の一撃を放つ。
その足が鋭く突き刺さり、父親はついに倒れ込む。ムハマドの踊りの力で、完全に無力化されたのだった。
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