第13話 帝国植民資本主義の陰謀
ムハマドの怒りは頂点に達していた。
「やはりか!あの憎き帝国植民資本主義のイギリス人のせいだったのだ!」
ムハマドは拳を握りしめ、思わず声を荒げた。
「チャーチル家が関わっているなら、ラクシュミを守るために俺は戦わなければならない。」
グラニートは静かに頷いたが、表情はどこか重く、言葉を選ぶように続けた。
「だが、君が知るべきことはもう一つある。ラクシュミの父親も、チャーチル家に利用されているのだ。」
ムハマドはその言葉に耳を疑った。
「ラクシュミの父親が?どういうことだ?」
「君が思っている以上に、チャーチル家の影響力は広範囲に及んでいる。ラクシュミの父親、ゴーヴィンダは、彼自身が経営している会社を質にされ、チャーチル家の命令に従わざるを得ない立場にあるのだ。」
グラニートは深い溜息をつき、続けた。
「チャーチル家は、彼らのビジネスや政治的な利益のために、ラクシュミの家族を利用してきた。彼女の父親もまた、そうした力に取り込まれ、身動きが取れなくなっている。」
ムハマドはその事実を受け止めきれなかった。ラクシュミの家族が、自らの意思で動いていたのではなく、チャーチル家によって操られていたということ。彼女の父親もまた、犠牲者だったのだ。
ムハマドは決意を固め、ラクシュミを救うために彼女の家へと向かった。
その家に到着すると、メイドのスンダリが玄関を開けた瞬間、ムハマドの姿を見て驚き、すぐに彼がムハマド・カルマだと気づいた。
「ムハマド様……?」
「はい、私はムハマドです。ラクシュミと彼女のご家族を救いに来ました。」
スンダリは一瞬ためらったが、すぐに意を決してムハマドを屋内へと案内した。
「御主人様、ムハマド様がいらっしゃいました。」
数秒後、ラクシュミの父親、ゴーヴィンダが現れた。手に銃を握りしめ、険しい表情でムハマドを見据える。
「なんでのこのことやってきた。」
ムハマドは一切動揺せず、冷静に答えた。
「ラクシュミとあなたを救いに来た。」
その言葉に、ゴーヴィンダは眉をひそめ、銃を少しだけムハマドに向けたが、すぐにそのまま止めた。
ムハマドは続けて言った。
「あなたはチャーチル家に利用されていることに気づいているはずです。ラクシュミもあなたも、その力に囚われている。私はあなたにとって敵ではない、あなたを解放し、ラクシュミを守るために来た。」
ゴーヴィンダは一瞬黙り込み、考え込んでいる様子を見せた。その目は、何か重い決断を迫られているようだった。
「でも、どうやって私を助けられるというのだ?」
ムハマドは一歩前に出て、ゴーヴィンダをまっすぐに見つめた。
「あなたはチャーチル家から解放され、自由に生きることができる。しかしそのためには、あなたが本当にラクシュミと向き合い、彼女を守るために一歩踏み出さなければならない。」
ムハマドの言葉は静かな強さを持ち、ゴーヴィンダに確かな衝撃を与えた。
ゴーヴィンダはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。その表情には、抑えきれない苦悩と恐れが漂っていた。
「君が言う通りだ。私も、ラクシュミも、チャーチル家に利用されている。だが、私にはもう後戻りできない。」
ムハマドは目を凝らして聞いた。
「どういうことですか?」
ゴーヴィンダは深い息を吐き、銃をそっとテーブルに置いた。その後、両手で顔を覆い、言葉を絞り出すように続けた。
「ラクシュミの命は、チャーチル家に握られているんだ。」
ムハマドは驚き、思わずその場に立ち尽くした。
「命?」
ゴーヴィンダは悲しげにうなずいた。
「チャーチル家は、私に多額の金と権力を約束してきた。しかし、その代わりに、ラクシュミを彼らの思うように操らせることを要求してきた。もし私が逆らえば、彼女の命がどうなるか分からない。」
ムハマドは心の中で怒りが湧き上がるのを感じたが、冷静さを保ちながら父親に問いかけた。
「つまり、ラクシュミはあなたが守らなければならない一番大切な存在だった。けれども、チャーチル家の手にかかって、命を脅かされているということですか?」
ゴーヴィンダは深いため息をつき、目を閉じた。
「そうだ。私は何度も、彼女を守ろうとした。しかし、あまりにも力が足りなかった。」
ムハマドはその言葉を聞き、心に強い決意を抱いた。
「ならば、今すぐ彼女を助ける方法を探さなければならない。」
父親は顔を上げ、ムハマドを見つめた。
「君はそれをできるのか?君はまだ若い。しかし、もし君が本当にラクシュミを守りたいのであれば、私も全力で協力する。」
ムハマドは力強く頷いた。
「必ず守ります。ラクシュミとあなたを、必ず救います。」
ムハマドが父親と共にラクシュミを救う方法を考え始めたその時、突然、屋敷の玄関から足音が響いた。
「ムハマド、待て。」
その声に振り向くと、屋敷の外からひとりの男が歩み寄ってきた。背の高い、風貌は疲れ切っているが鋭い目を持つ男――グラニートだった。
「グラニート……」ムハマドは驚きながらも声をかけた。
「私のことを覚えていてくれたようだな。」グラニートは苦笑いを浮かべながら歩み寄り、ムハマドの前に立った。
ゴーヴィンダは少し警戒しながらグラニートを見た。
「お前は……一体何者だ?」
「私の名はグラニート。以前はバラモンの一族だったが、チャーチル家に騙され、今は放浪している。」
ムハマドはその言葉を聞き、少し驚いた。
「チャーチル家に……」ムハマドが問いかけると、グラニートは頷いた。
「そうだ。私はチャーチルの父親によって裏切られ、そして放浪の身となった。しかし、今は君に助けを差し伸べるために来た。」
ゴーヴィンダは困惑した表情を浮かべ、グラニートに向き直った。
「お前が何かをしてくれると言うのか?君はあの家の者だろう?」
グラニートは静かに言った。
「だが、今は違う。私もチャーチル家の力に利用されたが、それが正当でないことは分かっている。だからこそ、ラクシュミを救うためには君と手を組むしかない。」
ムハマドが真剣な眼差しを向け、グラニートに言った。
「本当に信じていいのか?」
グラニートは深く頷き、続けた。
「君の言う通り、ラクシュミの命がチャーチル家に握られていることは事実だ。しかし、私が得た情報では、今こそ彼らに立ち向かうチャンスがある。君と力を合わせれば、ラクシュミを救い出せる。」
ゴーヴィンダもその言葉を真剣に受け止めた。
「どうするつもりだ、グラニート?」
グラニートは少しの沈黙の後、冷静に説明を始めた。
「チャーチル家は今、ラクシュミに対して何か大きな計画をしている。その計画を阻止し、ラクシュミを解放するためには、まず彼らの拠点に忍び込む必要がある。」
ムハマドはグラニートの言葉に深く頷き、心を決めた。
「ならば、今すぐにでもその拠点を突き止めて、ラクシュミを救おう。」
ゴーヴィンダもその決意に背中を押されるように、力強く言った。
「私も協力する。私が知っているチャーチル家の秘密も、君たちに教えよう。」
グラニートは少し驚きつつも、力強く笑った。
「ならば、一緒に戦おう。ラクシュミのために。」
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